彼女が髪を切ったわけ

カゲトモ

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「髪、切られたんですね」

 ついこの間まで腰のあたりまであったはずなのに。美しい黒髪の女性は肩より上の短いショートになっていた。

「ふふ、変ですか?」

「そんなことは。とてもよくお似合ですよ」

 時計の針が深夜を回ったというのに足取りが軽やかに見えるのは、髪を切ったせいなのか。案内した席ににこやかに腰かけると、彼女は顔に掛かった髪を耳に掛けた。深みのある赤いネイルと白い首筋がなぜかドキッとさせる。彼女、短い髪も良く似合うんだ。

「ずっと長い髪でいましたから、周りの人が驚いて」

「そうでしょうね。だってあんなに美しい髪でしたもの。どのくらい切られたんですか?」

「五十センチくらいですね」

「え、五十センチですか!?」

 あっさりした言葉に驚いて訊き返すと、面白いのか彼女は口元を押さえて小さく肩を揺すった。

「そんなに驚かなくても」

「し、失礼しました」

 だってあんなに綺麗な髪を五十センチもだよ? 五十センチって、一メートルの半分だぞ? 女性がそれだけ髪を切るって、それなりの覚悟がいったんじゃないの?

 ベタだけど、失恋、とか?

「あ、マスターもそれ、言っちゃうんですね」

「え?」

「女性が髪を切ったら失恋しただなんて、決めつけですよ」

 うっ。そうだよね。それ以外の理由で髪を切ることだってあるよね。つい女性が髪をバッサリと切る=失恋って方程式が世の中に蔓延していて。

 彼女はじっと上目づかいに、恨めしそうな顔で続けた。

「沢山の人に、失恋したのって訊かれて。そういうつもりで切った訳じゃないのに、なんだかちょっと悔しい気持ちになりましたよ。私はそんなに振られる様な女に見えるのかーって」

「し、失礼いたしました」

 俺は女性に何ていう事を・・・

 頭を下げると小さく「ふふ」と笑う声が聞こえた。

「大丈夫、気にしていません。それにマスター、似合っているって言ってくれたし」

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