第40話 須藤久信の記憶

~現代~

僕は意識を取り戻したが、まだ怪我は治っていなかった。笹野さんは僕が意識を取り戻したことを知らないようだ。


ずっと笹野ささのさんがさくを握りしめながら僕を抱きしめている。


蔵子くらこ! なぜそこまでそいつを庇うのだ! 」


「私はこの人のことが大好きだからだ。何億と男性がいても私にはこの人しかいない」

笹野さんは涙を流しながら叫んだ。


「残念だよ……蔵子。君は頭がいい女性だと思っていたが違うようだ」

智之さんが手から火の玉を出した。


「蔵子の願い通り一緒に消えてもらうよ」

笹野さんは目をつぶった。


絶体絶命だ……


僕がそう思った時に火の玉が氷漬けになった。


「ふう。間に合ったな」

そう言ってやってきたのは、はこべさんと本を持った健一人魂様だった。


「おまえは誰だ? 」

智之さんは氷漬けになった火の玉を道路に投げた。


「覚えてないのか? この本を見ても? 」

健一は『神』と書かれた本を智之さんに見せた。


「ま、まさか人魂ひとたま様……ですか?」

「そうだ。天沢智あまさわさとるたちばなを盗聴していたから警戒していたんだ」


どうやら天沢智は人魂様のことは報告してなかったようだ。どういう意図かはわからないが。


「橘。ひどい傷だな。ほい」

健一は僕の方に本を開いて向けた。

青い光が本から飛び出し僕の傷口を包み込んで、綺麗に跡形もなく傷がなくなった。


「治った!?」

僕は驚いて起き上がった。


「なぜ、あの時の願いを叶えて下さらなかったのですか? 」

智之さんが健一に悔しそうに言った。


~1858年の異世界~

真太郎と雲母きらら様がかけおちし、真太郎は死に雲母様はまだ見つからない。


おそらく雲母様は、はこべ様がいる小衡こひら村にいるかもしれない。


私は馬を走らせ、小衡村に向かった。

そこで農作業をしている雲母様を見つけた。


「雲母様! 」

私がそう言うと、雲母様は困った顔をしていた。


久信ひさのぶ……なぜここへ? 」


「雲母様のことはなんでも分かるのです。さあ帰りましょう」

私が雲母様の手を掴むと振り払われた。


「嫌。私はここで真太郎を待つわ」

どうやら雲母様は真太郎が亡くなったことを知らないらしい。


「雲母様……その……真太郎は……死にました。」

雲母様は持っていたくわを落とした。


「うそでしょ! 久信嘘だと言って! 」

雲母様は泣き崩れた。


─ゴーーー

地響きがして雲母様に向かって土砂が崩れてきた。


「きゃあー」

私は雲母様を突き飛ばした。


私は土砂の下敷きになった。


「久信!久信!おまえまでいなくなったら私はどうしたらいいの? 」


雲母様は必死で私の上の土砂を取ろうとしていた。


「雲母様。ここは危ないのでお逃げください」


「守られるだけなんて嫌。それに私は足を怪我したから逃げても間に合わないわ。今度生まれ変わったら守れる存在になりたい」

雲母様がそう言うと、さらに土砂が落ちてきた。


~転生部屋~

気がついたら私は真っ暗の所にいた。


「ああ、まだ土砂の下敷きで真っ暗なのか? 」


すると、急に上から強い光が差してきた。

上から『神』と書かれた本が降ってきた。


須藤久信すどうひさのぶだな?」

本が喋り始めた。ここは黄泉よみの国か?


「神様ですか? 」

私はなんとなくだが察していた。


「私は転生神 人魂だ。」

やはり私はあの土砂崩れで死んだらしい。


「人魂様。ここはどこですか?」


「ここは天国でも地獄でもない選ばれし者だけが来ることが出来る転魂部屋である」

なぜか私はこの状況を信じた。


「珍しい。素直に信用しているようだな」

人魂様が宙に浮きながら言った。


「本題に入ろう。須藤久信。おまえは選ばれたのだ」

人魂様は淡々と私に告げた。


「須藤久信。君の一途な想いと賢さは我々を感動させてくれた。よって、転生先、能力、願いを選択する権利を与える。希望はあるか? 」

人魂様は宙に浮きながら言った。


「誰にも負けない最強の力をください! そして雲母様と両想いになり家族になりたいです! 」


「なかなか大胆なやつだな。気に入った! 最強の能力を与えよう! 」

人魂様は光りだした。


「ありがたき幸せ」

私は、膝まづいて礼をした。


「最強能力+イケメンな容姿を与える。そして、君の世界は『婚活』という言葉が平安時代から存在するが、君が行く異世界にはまだない。その異世界で『婚活』が流行り始める頃は久信は大人になっておる。転生してもらう西暦は1984年つまり今から126年後だ!」

人魂様が緑色に光りだした。


今から126年後!


「なぜ126年後何でしょうか? 」

私は立ち上がり質問した


「雲母はあの後に死に、1988年に生まれ変わるからだ」


「なぜ年の差があるのですか?」


「そこの年が空いていたからだ」

人魂様は小さくなった。


「最強の力とはどのようなものですか? 」


「『なんでもできる』能力だ。他人の願いを叶えることもできる」

人魂様は元のサイズに戻った。


「イケメンとは何なのですか?」


「顔の整った男のことだ。久信の心から雲母に好かれたい気持ちが強く感じとれたから、顔がいい方がいいだろう?これはサービスだ」


「いでよ! 異時間の書コンカーツよ! 」

人魂様が何かを唱えたら大きなピンクの本が出てきた。


「須藤久信に能力を授ける! 」

人魂様が眩しく光り始めた。


ちなみに人魂様の状態は、本が開いた状態だ。


「なんか、力が湧いてまいりました」

私は力がみなぎってきた。


「異時間の書コンカーツの1984ページを開け」

私はそのページを開いた。


すると、光に包まれ、気づいた時には私は赤ん坊になり病院にいた。

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