第33話 魂の分離術…!

いよいよ……儀式の日……

僕とりき小豆沢光あずさわひかりさんと青柳くんの会社に向かっていた。青柳くんの会社の前で待っているのは……天心祭てんしんさいマリアさん。天心祭さんは紫のローブを着てフードをして顔を隠していた。外から見ると怪しい人に見える。そして大きめの黒いカバンを抱えていた。


「お待たせしました。その格好は? 」

僕は恐る恐る尋ねてみた。


「霊媒師の正装です……来るまでに3回も職務質問されましたよ」

その格好でここまで来たんだ……


会社の中に入り、受付を済ます。

「はい。ご予約されているたちばな様ですね」

受付で、そう言われてカードキーを渡された。

カードキーをエレベーターにかざすとドアが開いた。


「兄貴!ボタンは? 社長室は何階? 」

力がうろたえていた。


「何もしなくてもいいんだよ」

僕がそう言うと、エレベーターは瞬速で動き3秒で社長室に到着した。


「すっげー」

「なにこれ!すごい」

力と光さんは驚いていた。


天心祭さんはボーとしていて考えが読めない。


社長室のドアが開いた。


「どうぞ」

青柳くんが社長室の椅子に座っていた。


「ワシも見学させてもらっていいかな? 」

健一人魂様もソファに座っていた。


「どこからその情報を聞いたんだよ? 」


「なんでもわかるんだよ」

神様すごいな。


天心祭マリアさんは自分のカバンから色々取り出して祭壇さいだんを作っている……。作り終えると今度は薬草みたいなのをせんじ始めた。いかにも不味そうだ。


「2本の刀を祭壇に置いてください」

天心祭さんがそう言うと、青柳くんが空気刀改を左に置いた。そして、僕も祭壇の右側に朔を置いた。


「小豆沢光さん、祭壇の前へ……。」

小豆沢光さんは祭壇の前に座った。


「これを飲んでください」

茶色の陶器のお猪口にさっきの薬草を煎じた不味そうな飲み物を注ぎ、小豆沢光さんに渡す。


小豆沢光さんは一瞬戸惑っていた。

やはり匂いがきついらしい。


「権蔵さん。橘さんに憑依をしてください」

天心祭マリアさんが僕を見て言った。


「俺、権蔵さん見えないんだけど」

青柳くんが健一人魂様にヒソヒソと言った。


「ワシの肩に触れてみろ。」

青柳くんが健一の肩に触れると驚いている。


「あ、あれが権蔵さん」

どうやら青柳くんにも見えたようだ。


「了解したのじゃ。ふんぬ! 」

権蔵が僕の体に憑依した。


「では左手に空気刀改、右手にさくを持ってください」

天心祭さんに言われ、権蔵は2本の刀を手に取った。


「では魂の分離術を始めます。あてなさたやひやみなはなちまなかならはさなみたなかのやにた」

天心祭さんは何やら呪文みたいなのを唱え始めた。


小豆沢光さんが苦しみ出す。力は心配そうに見ている。

小豆沢光さんが倒れた。

力は駆け寄ろうとするが、健一に止められていた。


すると、はこべさんが小豆沢光さんの背中からでてきた。小豆沢光の足とはこべさんの足が繋がっているようだ。


「またお会いできましたね。橘さん…いえ柊愛長様。呼び出すなと言ったのに呼んだのですね」


「ああ。今回は今までと違う。魂を分離させるのじゃ」

権蔵がそう言うと、刀を握り締めた。


「繋がっているところをお斬りください」

天心祭さんは静かに言った。


「では行くぞ。ふんぬ! 」

権蔵は2本の刀で小豆沢光さんとはこべさんが繋がっているところを斬った。

小豆沢光さんはパーと光り始めた。

はこべさんは小豆沢光さんから離れた。


「儀式は終わりです」

天心祭さんはふーとため息をついた。


呪文唱えたりするのも大変なんだな。


「光さん! 大丈夫ですか? 」

力が慌てて小豆沢光さんに駆け寄る。


「あ、力くん。大丈夫だよ」

小豆沢光さんは目を覚ましたようだ。


権蔵も僕から抜けたようだ。


「はこべ……」

「愛長様……」

感動の再会か……苦労したかいがあったな。


「どうして呼ぶなって言ったのに! 光さんの身体がもたなかったらどうするつもりだったんですか!」


あれっ? はこべさん怒っている?


「分離術は1回に入らないと思って……霊媒師は3回までいいと言っておったし……」

権蔵はたじろいでいる。


「まあ。でも呼んでくれて嬉しいです……ありがとうございます」

出た。はこべさんのツンデレ!


「私は大丈夫だよ」

光さんは、はこべさんに微笑んで言った。


「光さんごめんなさいね。私のせいで苦労したでしょ? 」

はこべさんが光さんの方へ行った。


「権蔵さんに情が湧いちゃって愛する人と一緒にしてやりたいと思ったから大丈夫だよ」

光さんは満面の笑みで言った。


「あの…光の婚約者の橘力たちばなりきと申します」

力は健一の肩に手を乗せながらはこべさんに話しかけてきた。


「力くん……光さんを幸せにしてあげてね」

「はい。幸せにします」


力はそう言うと、次は健一と一緒に権蔵の方に来た。


「権蔵さんいつも兄がお世話になってます」


「おお。兄貴と違って礼儀正しいのう」

権蔵が僕を見ながら言った。


「うるさいやい! 」

「あはは。いいものを見せてもらったよ。空気刀改はもういいのかな? 」

青柳くんが僕に話しかけてきた。


「あっどうぞお返しします」

僕は空気刀改を青柳くんに返した。


「はこべさんはこのままずっと霊体のままですか?」

僕が気になったので天心祭マリアさんに訊ねた。


「権蔵さんの力で斬ったので権蔵さんが見える人にははこべさんも見えるし、権蔵さんが消える時一緒に消えます」

天心祭マリアさんが静かに言った。


「はこべはこれから一緒じゃろ?」

権蔵ははこべさんと見つめあっていた……。


「うーん。橘さんのところでお世話になるしかないですね」

「やっほー!! 」

権蔵はめちゃくちゃ喜んでいる。

えっ?僕は、はこべさんと権蔵両方と生活しないといけないの? 1人になりたくて1人暮らし始めたのに……


まあ権蔵がはこべさんと会って未練が消えて、権蔵が消えなくてよかったと思ってしまった……

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