第32話 また先を越された

今日は小清水健一の家に来ていた。


「何でまた来たんだよ? 」


「友達だろ? 考えに行き詰ってさあ」

僕は健一=人魂ひとたま様という転生神だということを忘れて(?)今やすっかり友達モードだ。


異世界人の知り合いなんて健一人魂様と青柳くんぐらいだ。どちらかという可能性も探っておかないとな。


「どうせ……異世界人の知り合いなんてわしと青柳くんぐらいだ。どちらかという可能性も探っておかないとな……とか思ってるんだろう……? 」


うぐっ何で健一に心の声がバレたんだろう……


「わしがそんな回りくどいことするわけないだろ? 気に入らない奴がいたら直接天罰を与えるよ」

神様怒らすとやばいな……


確かにちょっと回りくどいかもな。


健一はないな……僕は何気なく本棚を覗いた。


「何だ?ラノベとラブコメ漫画と恋愛小説ばかりじゃないか!?」


「本棚は見るなって言っただろ! 」


「僕も好きだよ。ラノベは」

僕は本棚のラノベをひとつ取った。


「最近ワシの職業つまり転生神が注目され始めてな……それで読んでみたら面白くてな……」

しばらく健一とラノベ談義などをしていた。


「黒幕は最強の異世界人らしいけど心当たりある? 」


柊愛長ひいらぎつぐながが1番良い待遇だったと思うぞ」

うーん。権蔵以上はいないってことか……


「権蔵! お前黒幕じゃないだろうな? 」


「何でワシが、ワシの邪魔せなあかんのじゃ! 」

確かに権蔵の願いの邪魔をしているような……


「あ~もう1人いたな! なんでもできる能力を与えた人物が……! 」

そいつだ! そいつが黒幕だ!


「誰だ? どんなやつだ? 」

僕は必死に健一を見つめた。


「思い出せんな……ずいぶん前のことだから」

神様のくせに度忘どわすれかよ!


「何万人以上の異世界人を転生させてるんだ! 神とはいえ覚えきれない」

うーん。心の中を読まれたか!


「しかし……そいつと戦うならしっかり準備しないとやられるぞ……権蔵と互角とはいえ権太ごんたは生身。戦うのは難しいだろう。しかも相手の狙いは権太、お前だ」


「それは笹野ささのいや……蔵子くらこさんにも言われました。健一が一緒に来て助けてくれれば大丈夫じゃないか? 」


「そうしたいのは山々だが。ワシはバカンス中で人間に変身してるから能力は使えないしな。あまり下界のことは干渉しないようにしている。ワシのせいで、歴史が歪んだら困るからな」

健一は頭を抱えている。

神様は神様の苦労があるんだろうな。


すると、僕のスマホにTOINが来た。


TOIN 青柳くん

空気刀改くうきがたなかいができあがった。儀式はいつがいいか? 』


TOIN 橘

『わかり次第また連絡します』


僕は小豆沢光あずさわひかりさんにTOINした。


TOIN 橘

『儀式したいのですが、いつが空いてますか? 』


TOIN 小豆沢光

『お話したいので16時にカフェに来てください』


何だろう? 改まってお話したいなんて……光さんにしては珍しい。


~16時~

僕は小豆沢光さんが指定したカフェに到着した。

小豆沢光さんは先に座って待っていた。


「お待たせしました」


「大丈夫です! いま来たところですから」

小豆沢光さんはなぜかそわそわしている。


「空気刀改できたらしいですよ! 儀式の日いつにしますか? 」

僕は本題を切り出した。


「そうですね~12月22日はどうですか?師匠……天心祭てんしんさいマリアさんもお休みみたいですし」


「僕も丁度その日空いています! 」

僕はTOINで青柳くんに伝え、小豆沢光さんは天心祭マリアさんにメールで伝えた。

両者とも問題なく12月22日に儀式をすることになった。


「よお! 兄貴」

橘 力たちばなりき……僕の弟がカフェに入ってきた。

そして、光さんの隣に座った。


「ああ。力どうした? 」


「実はさ。小豆沢光さんと俺結婚するから」

力と光さんは見合わせて、照れながら笑っている。


「あー結婚ね………って結婚!?」

あまりの急展開に頭がついていかなかった。

兄貴より先に結婚するのか……!?

力にまで先を越されると思わなかった。

僕と権蔵は呆然としていた。


「12月末に籍を入れてウェディングドレスの写真を撮るだけですけどね。お互い呼ぶ人が多いから結婚式はしないことに……」

光さんは満面の笑みを浮かべている。


「僕、親からなんも聞いてないぞ!」


「ああ。俺が兄貴には自分で言いたいから黙っておいてって言ったんだ! 」

力が嬉しそうに言った。


「はこべ! 何で他の人と結婚するんじゃ! 」

権蔵も頭がついていかないらしい。


「だから私は、はこべさんじゃありません! はこべさんに会えるように儀式するから我慢しなさい! 」

光さんが権蔵にバッサリと言いきった。


「力は権蔵のこと知ってるんだっけ……? 」

僕は光さんが空白の席に話しかけてる変人と力に思われてないか心配になった。


「一緒に本を探してる時に全部聞いたよ」


「そういえば、その件についてはありがとう。自分で言うのはなんだが……おまえよく信じたな」


「兄さんがあの小豆沢蔵子さんに好かれていたんだろ?何だって信じるよ」


「どういう意味だよ! 」

僕と笹野さんが相思相愛なのはファンタジーよりありえないってことかよ!


「でも困るな。僕が小豆沢光さんと親戚になったら笹野さんと結婚出来なくなるじゃないか」


「大丈夫ですよ!蔵子ちゃんは養子になりましたし、こないだ蔵子ちゃんの両親は離婚しましたから親戚にはならないですよ! 」


「り、離婚? 」

僕がそう言うと、光さんがうろたえている。あまり他人ひとには言ってはいけないことだったみたいだ。


「結婚おめでとう。幸せになれよ! 」

僕は話を変えるために思いついた言葉を発した。

「ありがとう。兄貴も頑張れよ」

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