第31話 火花が散る結婚式

12月8日……今日はかつら桃井ももいさんの結婚式だ。

僕は受付を済ました。そこに高梨たかなし夫婦がいた。


「高梨先輩! 早いですね! 」

高梨先輩はスーツに白ネクタイだ。皆藤さんはピンクのドレスに、ショールを羽織っている。


「桂の結婚式だからな。早めに来た」

開場すると教会だった。


洋式の結婚式で桃井さんはウェディングドレスを来ており桂はタキシードを着ている。


桃井さんのお父さんと桃井さんが一緒にバージンロードを歩いて桃井さんのお父さんは桂と交代した。


誓いのキスや誓約書せいやくしょなど済ませフラワーシャワーもあった。蔵子さんは結婚式に来てないようだ。


次は披露宴で会場に向かった。

披露宴というとえにしの結婚式を思い出すなあ。そこで権蔵が探していた人が小豆沢蔵子つまり笹野ありすだということが分かったんだよな。


蔵子さんと席が隣で……今日の僕の隣は……高梨先輩と『笹野ささのありす』……!?


蔵子さん結婚披露宴には来るのか? しかも記憶取り戻したらあっさり名前が笹野ありすに戻ってるし……


たちばな……席次表見ろよ」

僕が驚いていると高梨先輩が席次表を見せてきた。

笹野ありすの隣は『今猿誠いまさるまこと』……?


「今猿さんも来るんですか? 」

僕はさらに驚いていた。


「桃井さんが秘書してただろう? だからだよ」

確かに仕事の関連か……あとは友人席と親戚席だから僕達と一緒にしたのか。


今猿さんと蔵子さん……いや笹野さんも来ていた。


「今猿さん、笹野さんどうもこんにちは」


「私も来てるわ」

後ろから如月きさらぎさんが出てきた。


「席次表をちゃんと見ろ」

笹野さんが一言だけ言って席に座った。


「どうも。橘さん。僕達は仕事の都合で披露宴からなんですよ」

僕の隣が笹野さん、その隣が今猿さん、その隣が如月さんでその隣が皆藤かいとうさん(今の名前は高梨だけど)、その隣が高梨先輩だ。


なんというか……桂…席順に悪意を感じる。

笹野さんの隣は如月さんにすべきだろ!


「ありす!ビール飲むか? 」

今猿さんが笹野さんのグラスにビールを注いだ。


「ああ、ありがとう」

笹野さんはビールを飲み干した。


「笹野さんもう一杯どうですか?」

僕が笹野さんのグラスにビールを注いだ。


「ああ、そうだな。ありがとう」

笹野さんは戸惑い気味に言った。こないだ話したことを気にしてるのだろうか。


「こうやって披露宴に出ると縁の結婚式を思い出しますね」

僕は笹野さんに話しかけた。

「そうだな。私の席札の名前は違うがな」


「ありす!アメリカの同僚だったジョンの結婚式を思い出すよな」

今猿さんが僕に聞こえるように言った。


「ああ、あの時の奥さんのウェディングドレス綺麗だったな」

今猿さんも僕と張り合ってるな。


「僕達大学からずっと一緒に居るよな」

今猿さんがわざとらしく言った。


「そうだな。12年間一緒だな。」

笹野さんが淡々と答えた。


「僕達が最初に出会ったのは高校の入学式の朝ですよね?」


「そうだな。15年前になるな」


「ありす……」

今猿さんが何か言いかけた時、笹野さんが遮って言った。

「ふたりともいい加減にしろ! 張り合うために来たんじゃないだろ! 桂くんと桃井さんをお祝いしよう」


「「はい……」」


今猿さんと僕は同時に返事してシュンとした。


高梨先輩夫婦が新郎新婦桂と桃井さんと写真を撮っている。それを見た如月さんが今猿さんと笹野さんを誘い、新郎新婦と一緒に写真を撮る。


いいなあ。今猿さん……笹野さんと一緒に写真撮れて……


「笹野さん! 新郎新婦と一緒に写真撮りましょうよ」

昔の僕ならただ見てるだけだけど今は違う。


「え?私は……今撮ってきたばかりで……」

笹野さんは目を見開いて驚いている。


「こういうのは何回でもいいんですよ! 今猿さんと如月さんとも撮ったんですから平等に……」

僕は言ってること無理矢理だなと思いながら笹野さんにアタックする。


「そうだな。平等に……高梨先輩!みなみさん4人で一緒に撮りましょう!」

笹野さんはニヤリと笑った。

確かに平等だけど…ふたりで撮りたかった……!


僕と高梨先輩夫婦と笹野さんで新郎新婦と一緒にスマホで写真を撮った。

まああとで加工してふたりの写真にしよう。

結婚式は無事終わり、最後の新郎新婦によるお見送りになった。桃井さんは笹野さんに何か言っている。


「自分の心に素直になってください」

桃井さんは僕と目が合うとニコリとした。


遠回しに僕の方へ行けって言ってくれてるんだな。


「おめでとう。悪いが私は心にいつも素直だよ」

笹野さんには効果なかったようだ。


僕の番が来た。

「橘先輩頑張ってください」

桂が握手しながら言った。


「がんばるよ。桂」


「昔私は橘さんのこと好きだったんです。橘さんはモテますからね」

桃井さんは大きめの声で言った。


笹野さんが振り返った。


ええっ!ここで愛の告白されても……困る。


「ちょっと真里ちゃん! 」

桂がたじろいでいる。


「過去の話ですけどね。これぐらい言わないと……笹野さんは動きませんよ」

たぶんこれぐらい言っても笹野さんは動かないと思う。

僕は笹野さんを追いかけた。


「笹野さん! 」

笹野さんが振り返り一言だけ言う……


「何だ?」


「どうして記憶が無いふりをしていたんですか? 」

僕は気になっていたことを質問した。


「記憶が無い状態のが幸せかもしれないと思ってこのままがいいと思ったんだが、こないだの天沢くんのことは緊急事態だったから仕方なくな」


「僕といた日々は幸せじゃなかったんですか? 」


「さあな。記憶が無いふりをした時が幸せだったかもな」


「どういう意味ですか? 」


「自分で考えろ」


笹野さんはそう言うと、如月さんと今猿さんと一緒に車に乗って帰って行った。


「権太は、にぶいのう……権太が積極的に好意をぶつけてくれて嬉しい……かつ権太との記憶を覚えている方が幸せって意味じゃ」

わかりづらいよ。笹野さん……

はっきり好きだとか幸せだとかいえばいいのに……

そう思いながら僕は少し喜んでいた。

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