第24話 聖川勝也先輩

ある日……さとるから連絡が来た。明日の夜、聖川先輩と会う予定らしい。

いよいよかあ。

僕は智に盗聴器を渡し、お店の違う席で聞くことにした。


「やあ。智くん! 久しぶりだね」

「聖川先輩! お久しぶりです」

どうやらふたりは合流したようだ。


「聖川先輩は今お仕事は何をされてるんですか……? 」

「公務員だよ。役所のね」


「すごいじゃないですか! 僕はスーパーの店長やってます」

さすが学級委員タイプの頭がいい聖川先輩だ。公務員とは……

聖川先輩と智はなんやかんや他愛もない話をしていた。


「高校時代、蔵子さんが脅迫されていたらしいんですけど、心当たりありますか? 」

智はやっと本題を切り出した。


たちばなに頼まれたんだろ? 」

僕が頼んだってなんで分かったのだろう?


「はい。そうです」

智は即答した。


「橘が蔵子さんの脅迫相手を探して、学校の人達に聞き回ってるなんて有名だよ」

そんなに噂になっていたのか。


「何でまた今になって調べてるんだろうな」


「えーと」

智は返答に困っているようだ。


僕はTOINで助け舟を出した。


TOIN 橘

『蔵子さんの恋人がトラックにひかれたことと関連するからだ』


智はスマホを見た。


「蔵子さんの恋人がトラックにひかれたことと関連があるかららしいですよ」


智はスマホを机の下に置き、僕が送ったTOINをそのまま読み上げたようだ。


「本当に関連するのかな? 証拠とかあるの? 」

なんか……もう……この人怪しいよ!


「それは僕もわからないです」

智が目からウロコという顔をしている。


「そもそもひとりずつ話を聞いて意味があるのかな? 10年以上経ってるし、記憶もなくなってくると思うよ」

僕がやってきたこと全否定だよ!


「そういえば、意味がないかもしれません」

さ・と・るく~ん。任務忘れてる~

智まで全否定しないでくれ。


「大体智くんに任せるなんて……橘って人任せだよな。智くんのために答えるよ。片岡あやめが小豆沢蔵子さんの机を探ってたのをみたよ」

聖川先輩って裏ではけっこうダークなんだな。

というか今までいろんな人から話を聞いた結果……聖川先輩が僕のこと呪いたいほど嫌いって分かったから人に頼んだんですよ。『片岡あやめの怪しい動き』をメモした。


「橘くんのこと嫌いですか? 」

智が遠慮しながら質問した。


「うん。嫌いだ」

聖川先輩即答……! 僕のメンタルがもたないかも……


「何で嫌いなんですか?」

智……これ以上僕のメンタルを壊さないでくれ。


「そうだね……橘は自分の意思はちゃんと貫くし、努力家だしなぜか人を惹きつける魅力があるし、いつも自然体で裏表がないよな」

あれっ? 聖川先輩……僕を褒めてくれてる?


「だ・け・ど小豆沢蔵子さんに好かれていて仲がいい!その一点が気に食わないんだ。だから嫌いだ」

それ僕悪くないやつ……。理不尽な嫌われ方だ。


僕はいたたまれなくなって智にTOINを送った。


TOIN 橘

『話を変えてくれ』


智はまたスマホを見た。


「聖川先輩。そういえば、片岡あやめさんもセクシーで可愛かったですよね? 」


智…片岡あやめだけは、やめといた方がいいぞ。


「片岡あやめ……? いやあいつは無理だな。冷静というより冷徹という感じで……たぶん性格は腹黒そうだ」

聖川先輩は人を見る目があるみたいだ。


「聞くまでもないですけど小豆沢蔵子さんのことはどう思ってたんですか……? 」

智が聖川先輩にそっと質問した。


「外見も超絶可愛いけど、中身が天使のようでやさしさで出来ていて、芯には強さもある賢い女性だと思ったよ。彼女以上の女性はこの世にいないと思ってる。僕はファンクラブ1号だったよ」


えっ小豆沢さんのファンクラブなんてあったの?


「わかります! 僕はファンクラブ1000号でした」

智もファンクラブ入っていたの?しかも1000人もいたの?


「橘と不知火しらぬいさえいなければ……」

聖川先輩が悔しがっている。


「今も呪いたいほど憎いですか? 」

智もなかなかグイグイ聞いてくるね。グイグイ聞いてくれるのは助かるけどもう僕のメンタルは崩壊寸前なんだけど。


「今はそんな大人気おとなげないことしないよ。まあ高校時代はけっこう……ふふふ」

不敵に笑う聖川先輩が怖いよ……


「橘に伝えておいてくれないか……僕も諦めたんだから。小豆沢蔵子さんのことはさっさと諦めろと」


「なんかそれ。みんなに言われてるらしいですよ」

何でそれ……智が知ってるんだよ? ああ、噂では僕はめちゃくちゃ言われてるんだな。たぶんFくん(不知火)が言いふらしてるな


「それじゃあね。智くん。今度は橘の話し抜きで飲もうね」

そう言って、聖川先輩はお勘定を払い店を出た。


智がこっちの席に来て盗聴器を返した。


「どうかな? 何か分かったかな? 」

僕はむしゃむしゃと無言で焼き鳥を食べている権蔵の方を見た。あっこれ……権蔵はちゃんと見てなかったな。


「いや……何も……」

僕は静かにお守りに念じた。

「ぎゃああ」


「もうやめたらどうかな? 探すの無理だと思うよ。橘くんが辛いだけだと思うよ。今は小豆沢さんは違う人のものだし……」

智は心配そうに僕に言ってきた。


「大丈夫だよ! 僕には奥の手があるから。蔵子さんをどうにかしたい訳じゃなく僕に課せられた義務のようなものだよ」

とはいえ……権蔵の力に頼っても大丈夫かな……?

見つかるかな?

今まで蔵子さんが僕を守っていたんだ。今度は僕がなんとかしないと……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る