第15話 世界で一つだけのピン止め
僕達は台湾行きの飛行機に乗った。
飛行機の窓から富士山が見えた。
「片岡さん……お仕事急に大丈夫なんですか?」
今平日だけど、平日お休みなのかな?
「やだあ。私はパパがいるから大丈夫よ」
パパ? 片岡さんはお金持ちの令嬢なのかな?
「お父さんお金持ちなんですか?」
「違うわよ。愛人よ。愛人やってるのよ」
「えー! 僕と旅行して大丈夫なんですか? 」
「大丈夫よ!パパ3人いるから気にしないわよ」
僕は苦笑いをした。
「蔵子ちゃんはノースティンホテルに泊まっているらしいわよ」
片岡さんは、にこやかに言った……。
「さすがに何号室かまで分からないですよね?」
僕は遠慮がちに片岡さんに尋ねた。
「201号室」
さすが……!ありがたい
「そう言えば片岡さんって中国語話せるんですか?」
「全然」
片岡さんは即答した。
僕はかたことの中国語と旅行用の中国語の本に頼りながらノースティンホテルに着いた。
なんとか201号室の隣を2部屋取る事が出来た……
つ、疲れた……
ボーイさんが部屋まで案内してくれた。
しかし、一部屋しか案内してくれない……
よくよくボーイの話を聞いてみると『一部屋しか取れなかった』らしい…
なんと……!
「一部屋でいいわ」
片岡さんがボーイと話を終わらせて、ホテルの部屋に入っていった
入ってみるとグレードが高い部屋で、寝室、リビング、お風呂場の3つに分かれていた。
寝室にはベットがひとつだが、リビングには高そうなソファがあった。
部屋の構造上寝室の隣が隣の201号室に部屋に繋がってるはず…
僕はコップを手に取り壁にコップをあて、耳を澄ます。
「いい……じゃない……
「だめ……
ちょっとまさか……もう手遅れか!?
まだ間に合うかもしれない。
なんとか止めないと!
僕は壁をドンドンしつこく叩いた。
すると、いつの間にか片岡さんがシャワーを浴びていて、裸で出てきた。
「うわあ。ガウン羽織って下さい!」
僕は慌ててガウンを片岡さんに投げた。
「いいじゃない~別に」
そう言って、片岡さんは僕に擦り寄る。
「だ、だめですよ!」
僕は片岡さんから慌てて離れた。
「わお。ありがたや」
権蔵は片岡さんをガン見している。
権蔵! 見てないで止めろよ!
片岡さんは僕の手を引っ張る。
「見た所橘くんまだ
「僕が抱きたいのは蔵子さんだけなんです! 」
僕はそう言って、ホテルの部屋のドアを開けた。
すると、丁度蔵子さんと
「蔵子さん……今猿さん……き、奇遇ですね!」
僕は愛想笑いでごまかした
「あれだけ壁をドンドンしてなにしてたんですか」
今猿さんが
「だーれ? 」
ガウンを着た片岡さんが後ろから出てきた。
蔵子さんと片岡さんの目が合った。
「やっほ。来たよ」
片岡さんが悪びれずに手を振る。
「お楽しみの所申し訳ありませんでした」
蔵子さんがにこやかにドアを閉めた。
「く、蔵子さん待ってください! 」
僕が慌ててドアを開け、蔵子さんを引き止める。
「これ、誕生日プレゼント……」
僕はポケットからこないだ買ったプレゼントを渡そうとした。
「僕達は急いでますので! それでは」
今猿さんが蔵子さんの肩を抱き、速やかに行こうとする。
「待つんじゃ! 蔵子殿! お主は勘違いをしとる! 権太はそなたが心配でわざわざここまで来たんじゃ!片岡とは何もしておらん」
権蔵が必死に蔵子さんに呼びかける。
無駄だって……今は権蔵の声は蔵子さんには聞こえないんだからな……。
「どなたか知りませんが、あやめちゃんと橘さんがどうなっても私には関係ないですから」
蔵子さんが権蔵に向かって言っている。
ん? 権蔵が見えている? それに口調が若干笹野ありすに戻っているような……。
「もう!わからず屋じゃな」
権蔵が蔵子さんの頭に手を置いた。
緑の光が蔵子さんを包む。
「あれっ? 誰もいない……? 」
蔵子さんは不思議がっていた。
「蔵子行こう!」
今猿さんと蔵子さんはエレベーターの方に向かった。
僕は買った誕生日プレゼントをそこにあったゴミ箱に捨てた。
「権蔵……蔵子さんに何したんだよ? 」
「何って権太のホテル内の行動を見せただけじゃ」
ちょっと……それ……『蔵子さん以外抱きたくない』って本人に伝わったってこと?
今夜は廊下のソファで寝るか。
部屋には危険人物もいるし……
「あはは。面白い~」
ちゃんと服を着た片岡さんが廊下に出てきた。
「何が面白いんですか?」
僕は片岡さんを睨んだ。
「蔵子ちゃんいつも冷静なのに感情むき出しで怒ってた」
片岡さんが笑っている……。
「それのどこが面白いんですか?」
片岡さんの神経を疑うよ。
「蔵子の困る顔を見たいのよ」
片岡さんは頭がおかしいんじゃないかと思った。
「蔵子と友達でいるといつも周りに比較されて辛かったのよ。楽器でも成績でも容姿でも何も勝てない……」
片岡さんは寂しそうな顔をした。
「
権蔵が僕にそう言うと僕は片岡さんにそのまま言った。
「縁と仲良かったから嫌だったんですか…?」
「そうよ。2人だけで秘密を持って分かりあっていてさ!私には何も教えてくれない。どんどん縁が遠く感じて……そして別れたわ」
僕を守っていたことを2人は誰にも言わなかったんだな。
「だから蔵子が大好きな橘くんを目の前で取ってやろうと思ったの。ふふ。そしたら蔵子ったら呑気に部屋番号まで教えてくれるんだもの」
片岡さんのことを信じた蔵子さんが可哀想だ。
「そんなことをしても何もならないですよ。今蔵子さんが好きなのは今猿さんですよ」
自分で言っていて胸が痛くなった。
「そうなの……?でも怒ってた。橘くんのこと好きなんじゃないの? 」
なんか片岡さんは、あくどいことを考えているようだ。
「そうだといいんですが……」
嫉妬してたら嬉しいんだけどな。
「そんなに蔵子がいいの?」
片岡さんは呆れているようだ……
「はい」
僕は即答した。
「面白くないわね」
片岡さんは急に機嫌が悪くなった……
「何で友達やってるんですか? 」
そんなに嫌いなのに何故友達をやってるのか理解できない。
「私に得があるからよ」
損得で動いてるのか?
「蔵子さんは片岡さんのこと信じてるのに酷い。同じクールでも片岡さんは心が冷たいクールなんですね」
僕がそう言うと片岡さんは肩を震わせ怒る。
「なによ! 蔵子の肩ばかり持って。そこで寝てればいいわ」
そう言って片岡さんは部屋に入って行った。
蔵子さんはまともな友達がいなくて苦労してたんだな……。もしかしたら片岡さんが、嫌がらせで脅迫してたのかもな。
~翌日~
僕は朝起きるとベットの上に寝ていた。
なぜ?
「おはよう」
目の前にいたのは今猿さんだった。
「おはようございます! なぜ僕はここに? 」
僕は状況が把握できてなかった。
「さあね。外国でひとりで廊下に寝るのは良くないからね」
今猿さんはため息をついている。
「ありがとうございます……! 蔵子さんは? 」
「片岡あやめの部屋に行ってるよ」
片岡さんの部屋に? いじめられたりしてるかも。
「今度僕達の邪魔をしたらホントに廊下に1人で置いてきますからね。」
若干今猿さんは怒っているようだ。
「かまいません。それでも行きますから」
僕はそう言って部屋を出て、隣の部屋のドアをドンドン叩いた。
「蔵子さん! 蔵子さん! 」
「はい。なんですか? 」
蔵子さんはドアを開けた。
「大丈夫ですか? 」
「大丈夫ですよ! 橘さんこそ大丈夫だったんですか? 」
良かった。いつもの優しい蔵子さんだ。
昨日のことは怒ってないみたいだ。
「大丈夫ですよ!今猿さんに部屋に泊めてもらいましたから」
「誠。優しいから……それじゃあ私は誠と帰るので」
蔵子さんは荷物を持って部屋から出て、後ろを向いた。
その時に蔵子さんの後ろの髪の毛にくまのぬいぐるみがついたピン止めが見えた。
「そのヘアピンどうしたんですか?」
「前から持ってたんですよ」
ふふ、そのピン止めは世界に一つしかないものですよ。嘘が下手なんだから。
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