第4話 10人までに絞れた

僕はいつもの婚活ビルへ向かい1階会社フロアの今猿コンサルティングまで来た。今猿いまさるコンサルティングの人達は忙しいから会社に行かないと捕まらない。


─コンコン


「失礼します。如月きさらぎさんはいますでしょうか?」

僕はそろりとドアを開け言った。


「あーまたあなたね。客室で待っててください」

今猿コンサルティングの男性社員の人が言った。


どうやら顔パスで行けるぐらい覚えてもらったらしい。

客室で如月さんが来るまで待っていた。


~しばらくして~

如月さんがやっと来た

「橘さん。丁度仕事終わったので飲みながらお話しましょう」

僕達は近くの居酒屋に行った。


「お話ってなんですか? 」

如月さんがチューハイを一気に空にする。


「蔵子さんを脅迫したやつと今猿さんを怪我させたやつを探すのを協力してもらえないでしょうか? 」

僕がそう言うと、如月さんが僕をじっと見た。


「えらい! 橘さん。今からタメ語でいいよ! 私達も全力で探してるんだけど、何を協力すればいいの? 」

如月さんは急にタメ語になった。


「はい。何をしたらいいか頭打ちしていて……知ってることを教えて欲しい……で……んだ。こっちも教えるんで」

僕はタメ語に慣れずたどたどしく言った。


「14年前も前のことだからほとんど証拠はないのよねえ。蔵子は『学校内にいる人物』だとまでは分かったらしいけど」

如月さんや今猿さんでもやっぱり無理か。


「こっちは権蔵に調べさせたんだけど、『僕が会ったことのある人物』ということは分かったけど、しかし、学校内にいる人物で会ったことがある人なんてたくさんいるから探せないよ」

はあーどうしたものか……


「私達は蔵子を脅迫してた人物と誠を怪我させた黒幕は同じだと思ってるの。手口が似ているから」

如月さんは真剣に言った。

同じやつがやった可能性が高いな。


「権蔵。それを踏まえてもう1回調べてくれ」

僕は小声で言った。


「えー結構大変なんじゃぞ! 」

権蔵は嫌がっている。


「頼む」

僕は必死に頼んだ。


「そこまで言うならわかった……ふんぬ! 」

権蔵は何やら唱え始めた。


「だめじゃ。怨念が強すぎて本人まで行けやんかった。『権太の記憶に残っている人物』で『蔵子と関わりがあった人物』じゃ」

権蔵は疲れ果てている。


『僕の記憶に残っている人物』で『蔵子さんと関わりがあった人物』とすると、だいぶ絞れるな。


「今権蔵に調べ直してもらったら僕の記憶に残り、蔵子さんとかかわり合いがある人物みたいだよ」

僕も疲れ果てていた。


「権蔵さん。すごいね! 」

如月さんは感心している。


「僕が言うのもなんですが、権蔵のこと簡単に信用していいんですか? 」

見えもしないものを簡単に信じられるだろうか?


「誠も蔵子も信じてるから。橘さんが嘘を言うと思えないし。橘さん!高校時代に思いつく人言ってみて」

如月さんがそう言って豪快にチューハイを飲み干した。


「親友の葛城縁くずきえにし、吹奏楽部の部長の小栗沙耶おぐりさや先輩、嫌味なやつの不知火駿一しらぬいしゅんいち、同じ吹奏楽部で仲良かった天沢 智あまさわさとる、吹奏楽部の先輩で皆に慕われていた聖川勝也ひじりかわかつや先輩、吹奏楽部で同じクラスの、あまり存在感がない田中、高校自体モテモテだった青柳翔あおやなぎしょう、元野球部で友達の小清水健一こしみずけんいち、縁と付き合っていた片岡あやめさん、あと蔵子さんをライバル視していた中川海未なかがわうみさん……えーとあとは浮かびません……」


僕は思い出そうとしたが思い出せなかった。


如月はすらすらと漢字でメモしている。

「10人まで絞れたわけだね!その10人を調べてみるよ。そもそもなぜ誠ではなく私に? 」


「蔵子さんが今記憶喪失なことは知ってるかな?」

僕も紙に名前をメモをした。

「誠からだいたい聞いたわ。」

如月さんはうなづいている。


「実は蔵子さんの記憶を取り戻すことにも協力してほしいんです。如月さんは今猿さんのこと好きでしょう? 僕と同じ境遇だから如月さんに」

如月さんにはメリットのある話だと思った。


「それは橘さんや権蔵さんには悪いけど協力できないわ。誠も好きだけど、蔵子は親友よ。それに蔵子も誠も蔵子が記憶を失っている今の方が幸せそうだから。好きな人の幸せなんて壊せないわ」

しかし如月さんは真剣な面持ちおももちで言った。


権蔵は如月さんの話を黙って聞いていた。

なんという正論……僕はメリットがあるとかなんてみにくいことを言ってたんだろう。


「分かった。無理なことを言って申し訳ありませんでした」

僕は如月さんに謝った。


「犯人探しはいつでも協力するから言って」

そう言って、如月さんは飲み代を僕の分も奢ってくれた。



~帰り道~

たしかに笹野ありすも小豆沢蔵子あずさわくらこも好きだった。でも僕は後悔したくないとか、自分のことばかり考えていた。僕の記憶が消され僕のことをなんとも思っておらず、今猿さんに心が移ってしまった蔵子さん。


今は波風立てずにそのままにしておいた方がやはり幸せなのではないだろうか。


僕には入る隙なんて、記憶がなくなった時にもうなかったのかもしれない。


もうやめよう……これ以上醜くなりたくない。

蔵子さんや今猿さんに迷惑をかけられルビを付けるテキストルビない。


蔵子さんを不幸にしたくない。

僕は悩みながら夜道を歩いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る