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 部屋に明かりが戻った。


「何だったんだよ? 一体?」

 幸一は辺りを見渡す。

 静かな部屋。

 何も怪しい所の無い、ただの部屋。

 そんな部屋を、幸一は緊張を身に纏い、眺める。

 幸一は、テーブルを見る。

 テーブルに近づき、髪の入った小包を見る。

「うっ!」

 幸一は唸った。

 髪が、小包にギッシリと詰まっていた髪が、小包からはみ出ていた。

 長い髪が、這うようにテーブルを覆っている。

「なななななっ、何だこりやぁ!」

 幸一は後ずさる。

 激しい眩暈が幸一を襲う。

(落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け!)

 そう自分に言い聞かせた所で人間というのは落ち着ける様には出来ていない。

(気持ち悪い! 何なんだよ! この髪は!)

 

 気持ちの悪い髪!

 疎ましい髪!

(クソッ! この髪のせいで香美代は出ていったんだ!)

 家族が出ていったのは髪のせいでは無い。

 全ては幸一の浮気のせいだ。

「誰なんだ! 矢藤冨士江は!」

 幸一を激しい頭痛が襲う。

「ううっ」

 幸一の脳裏を女達の言葉が流れる。




 君、本当に頑張っているね。

「ありがとうございます。上高知さん」



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