第14話エメラルド色の髪の少女4

「で、なんで私たちが怒られているんさね」

 翌日、サーシャたちはこの街にある、魔術師を管理するための団体「魔術協会」の支部に呼ばれていた。

「さぁ、やっぱり勝手に戦闘したのがまずかったんだと思うよ?」

 サーシャは補修帰りで制服だが、リンは昨日で補修を終えているため、私服でパーカーに短パンというラフな格好だ。

 リンは昨日、大怪我をした直後だというのにピンピンしていた。服から露出した部分が包帯でぐるぐる巻きになっているのが痛々しくはあるが、日常生活に問題ないようだ。

 そして、目の前にいる生徒たちを見てため息をついているのは、先日の補修でサーシャ達に無理難題を押し付けたローラ・メリダストだった。

 彼女は、学園で教師として働くと同時に魔術協会に籍を置く魔術師でもあり、サーシャ達のような魔導学生徒会エレメンツの学生を管理する役目を担っている。

「あんた達ねぇ・・・許可も出てないのに戦闘して怒られないとでも思ったの?」

「私たち、特別な許可は持ってるさね・・・!」

 魔導学生徒会エレメンツには、成績が優秀であり、戦闘能力の高いものを教会の魔術師に近い扱いで事件の対処に当たらせるという制度がある。

 管理番号が、200番以内のものは、先日のような事件の対処にもある程度の範囲内なら積極的に当たっていいことになっている。

 ちなみに、サーシャの管理番号が「0083」で、リンの管理番号は「0084」であるため、この対象内である。

「それに、相手は倒しましたよ?」

「倒すだけじゃ、事件は終わりじゃないでしょ?実際リンが大怪我してこの有様なわけだし」

「おい琴葉。貴様も説教されている最中だというのを忘れるなよ?」

 どすの利いた声が部屋に響く。

「す、すみません」

 ちなみに琴葉もこの場に呼び出されており、サーシャ達に混じって説教されていた。

「で、でも私、そもそも魔導学生徒会エレメンツじゃないし、戦闘もしてないはずなんですけど・・・?」

「そうだな。確かにお前は戦闘行為をしたわけではない。だが、あんな場所で儀式レベルの魔術を使えば話は別だがな・・・!?」

「で、でもあれは緊急事態だったし!他の人が来る頃には手遅れだったかもしれないんですよ?」

「確かに、その行動によって人命を助けたのは立派なことだ。だがな!それとこれとは別だ!だいたいお前免許持ってないだろ!?」

「「えっ!?」」

 ローラの言葉に、驚いたのは琴葉ではなくサーシャとリンだった。

「お前、免許持ってなかったんさね!?」

「私もてっきり、持っているものだと・・・」

「こいつは、免許を持っていない以前に、認定試験を受けたことすらないぞ」

 魔術は、使い方次第では人の命を簡単に奪えてしまう力だ。そのため、学園などの特別な認可を得た場所以外での使用には原則的に安全講習や試験などを受けて免許取得が必要なのである。

「てへっ☆」

 琴葉は舌をぺろっとだしておどけてみせる。

「てへっ☆・・・じゃないさね!中等部に入った時に、ニーナ先生が口を酸っぱくして「免許は先延ばしにすると取るのがめんどくさくなるから早めに取っちゃいなさい」ってあれだけ言ってたさね!」

「だって講習のために魔術を使うのイヤだったんだもの。私、錬金術士だし?」


「錬金術も、免許なしでは店も開くこともできないぞ?」


 女性しかいなかったはずの部屋に男性の声が響いた。

 その声のしたドアの方を見てみると、そこにはどこまでも澄んだ金色の長い髪を後ろで丁寧に結いだ背の高い男性が立っていた。

 服は、サーシャと同じ色の制服を着ていた。

 そして、その制服につけられた魔導学生徒会エレメンツの腕章には「0001」という数字が書かれていた。

「ウィル!」

 世の男子が嫉妬し、世の女子がみんな振り向きそうな金髪イケメンな男子を見て琴葉がその名前を呼ぶ。

「昨日はよくもやってくれたわね!お茶してる途中に突然いなくなるわ、電話で突然命令してくるわ、すごくたいへ   」

「まあ、待て今はその話はあとだ。」

 琴葉の抗議を無理やり制してウィルは続ける。

「例えばの話をしよう。僕も同じ錬金術士として、琴葉の実力は高く買っている。将来、同じ錬金術士としてビジネスパートナーに選ぶなら、もってこいの人材だろうな。だがそれでも、僕は高等部や大学の卒業間近にいそいそと取ったやつじゃなく、中等部  取得できる年齢になってすぐ取ったやつを選ぶ。免許を速く取ったやつはそれだけ学園外での魔術使用による経験を多く積んでいるということだからな。」

「今から免許取る講習会の申し込みしてくるわ!」

「「いや、お前チョロすぎだろ!!」」

 琴葉の即答に、それよりも速くニーナとサーシャが突っ込んだ。

 だが、そんなの気にもせず琴葉は部屋を飛び出して行ってしまった。鼻歌を歌いながら。

「おい、まだ説教が・・・!はぁ・・・まあ、ウィルも来たことだし後日にするか。」

「?」

 その言葉にサーシャが、疑問符を浮かべた。

 それもそのはずだ。今の話の流れであの場に琴葉を呼び出してくれたのが、(二人とも薄々勘付いてはいたが)彼だったという確証が取れた。

 しかし、それだけでなぜこの場にウィルがいるのか二人には理解できなかった。

「どうして、ウィルが?」

「僕は、これでも魔導学生徒会エレメンツの管理番号「0001」という立場だ。いろいろやらなきゃいけない処理というのがあるんだよ」

 確かに、この男がクラス内でもずば抜けて成績が優秀だということは知っている。中学生が高等部などの学生を差し置いて魔導学生徒会エレメンツのトップを任されているというのは、もしかしたら、サーシャ達が思う以上に彼は優秀なのかもしれない。

 だからこそというわけではないが、今は事件の処理で忙しいはずの彼が、自分たちをわざわざ呼び出すのは、サーシャには理解できなかった。

「二人を呼び出したのは僕だ。リンに至っては昨日大怪我をしたばかりだというのに、こんなお願いをしてしまって本当にすまない。」

「気にしないで大丈夫だよ。動けるから来たんだし!それで?」

「当然、昨日の自動人形オートマタの件だ。君たちには、非常に危険な行為であったとはいえ事件の解決に一役買ってもらったからね。君たちにはこれを知る権利があるし、個人的に聞きたいことがあったからだ。」

「ほうほう。」

「じゃあまずは、簡単な報告から。まず今回起こったのは端的に言えばテロ行為だ。侵入した自動人形オートマタは西地区に一体、東地区に一体、中央地区に三体の、全部で五体だったそうだ。しか・・・」

「待て待て!五体!?あんま化け物が五体も街に入ってたっていうんさね!?」

 ウィルが口にした衝撃的な言葉にサーシャが割って入る。

 あんな化け物が五体も街にいたと聞かされれば当然だろう。

「あぁ、侵入経路も現在捜査中で全くわかっていないんだがな。」

「それで、そのうち一体は私たちが倒した分として、残りはどうなったの?」

「一体は、魔術協会の魔術師と交戦中に自爆。後の三体は、うちの秘密兵器がやったとだけ言っておこう」

「秘密兵器・・・ねぇ」

 サーシャが意味ありげに呟いた。

 彼女も噂で聞いたぐらいだが、魔導学生徒会エレメンツには管理番号「0000」という恐ろしく強い学生がいるというのを聞いたことがある。

 だが、あくまで噂であって、見たものは誰もいないという話だ。

 おそらくその三体を倒したのも、たまたま遭遇したプロ一歩手前の大学生が複数人いたとか、そういうオチだろうと、サーシャは推測する。

「ちなみに犯人の検討だけど、全くわからないというのが協会側の発表だ。ここからが僕にとっての本題だ。」

 ウィルは紙を取り出し二人に手渡す。

「これは協会内で配られた昨日の詳しい状況などが記された資料だ。」

 そこには自動人形オートマタの推測のスペックなどが記されており、科学技術と魔術が混合している事が記されていると同時に、どの残骸も損傷が激しく詳細までは不明と記されていた。

「魔術においては、魔術協会の人間はプロフェッショナルだ。それこそわからないなんていうこともないだろうさ。だけど、魔術以外の技術が入っていたのであれば僕ら魔術士の知識ではお手上げだ。そこで、君の意見を聞きたい。科学者サーシャ・アンソニーの見立てではどう見えた?」

「なるほど。そうさね・・・あれはここに書いてある通り魔力だけで動いてるわけじゃなかったさね。具体的には背中のバックパックに巨大なモーターが入っていた。」

 サーシャは、その資料を眺めつつさらに続ける。

「だが、この資料は間違っているさね。あのオートマタに搭載されていたのは石油燃料ではなく電気式のモーターさね。おそらく残骸を調べれば、関節部にもモーターが入っていたり、いたるところから動力源のリチウムバッテリーやらが出てくるはずさね。」

「電気と魔力は干渉するはずだが?」

「それは上手く絶縁されていたから、としか言いようがないさね」

「まあ、君が言うならそうなのだろうな」

 ウィルはあっさりとサーシャの言葉を信じた。

「じゃあ、この自爆した個体についてはなにかわかるか?」

「推測でよければ」

「かまわない」

 サーシャの言葉にウィルが即答した。

「おそらく、モーターを駆動し続けて熱暴走を起こし、それがリチウムバッテリーに負荷を与え破裂した、それに伴ってオートマタ自体も誘爆した。ってところだと思うさね」

「確かに、私たちが戦ってたオートマタも一回動きが止まったよね?」

「おそらく熱暴走をしないように、一定以上の熱を検知すると止まるような安全装置セーフティがついてたんさね」

「つまり、その安全装置セーフティに不備があったのではないかと?」

「まあ推測の域だがね」

「わかった、ありがとう。」

 ウィルがサーシャから視線を外し

「次にリンだ」

「えっ!?私、サーシャちゃんみたいに知識ないけど?」

「大丈夫だ。それでも聞きたいことはある」

「?」

「あのオートマタに力で負けたと聞いたが、本当か?」

「本当だよ。私のフルエンチャントの二倍・・・あるいはそれ以上の力だったと思う。」

「なるほど・・・学園一のの二倍以上か・・・」

 ドゴンっ!

 突如、ウィルの真横にあった厚さ20センチほどの壁が吹き飛んだ。

「ウィルくん言葉には気をつけようね?私、琴葉ちゃんのおかげで元気なんだよ?」

 もちろん、その正体はリンだった。

「す、すまん・・・」

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