あなたが招いた厄介事
もはや単刀直入の一言、言い終わった後の私ですら話題の振り方がおかしいと思ったぐらいですよ。おそらく向こうからすればコイツは何を言ってるだ状態でしょう。
「はぁ?」
ほら、思った通りの反応ですよ。言葉足らずなのは始めから自覚していたので、私と轆轤首さんは天狐さん達に山城町へとやって来た理由を、僅かにある可能性に賭けて話しました。
ですがその結果は、あまり良いとは言い難いものでした。
「なるほどな。じゃがワシらではお主らの力にはなれそうに無いのう」
もしかすればと思ったのにーー。またもや成す術が無くなった私は肩をおとし、轆轤首さんも諦めたような表情を浮かべていました。これでまた私達の辿ってきた旅は振り出しに戻ったんですから、当たり前と言えば当たり前ですね。
しかも私達からすれば答えに一番近そうな天狐さん達ですらも、私の正体がわからないともあらば正直お手上げです。私って本当に何の妖怪なんでしょうか。
もはや落ち込む表情すらも隠す事が出来ない私達。しかし続く天狐さんの言葉は、私達の旅を良い方向へと向かわせる足かせともなりました。
「とは言え、お主が霊か付喪神かを判別出来る者に心当たりがおる」
「本当ですか!?」
まさにどんでん返しと言っても過言ではない発言、これには私のテンションジェットコースターも最高潮の急降下です。判別出来る者がどなたかはまだ存じ上げませんが、天狐さんが言うのですから絶対信頼出来るに違いありませんよ。
更にこれだけでは終わりませんでした。私と轆轤首さんが喜びのあまりお互いの笑みを確認しあったすぐ後、またしても天狐さんは嬉しい事を言ってくれたんです。
「それに弟子が迷惑を掛けた詫びじゃ。奴のところまでワシらがちゃんと連れていってやろう」
もう聖人ってレベルじゃありませんよ。天狐さんが言う方の所へ連れて行ってくれるとは、足の無かった私達にはそれこそ地獄に仏ですよ。ほんと、私達はついてますね。ーーってあれ、この流れ何処かで体験したような。私の体は彼女の言葉にとある感覚を覚えました。
「えっ」
声を上げたのは加胡川さんでした。おそらく想像力を膨らまして考えていった結果、その「足」が自分である事に気が付いたんでしょうね。この四人の中で車を所持しており尚且つ運転が出来る人材、それが自分だけである事を。
ですがそんな加胡川さんに天狐さんは激しく
「全てはお主が招いた事じゃろう! わかったら早う車を回して来い、この馬鹿狐!」
「はいいいッ!」
言われるがままに猛ダッシュで車の方へと走っていく加胡川さん。彼が車に向かう途中で思ったんですけど、このままこちらに車を出してしまっては、下手すれば崖から転落してしまうんじゃないんですかね。
私達に早く判別者さんに会わせたいのはわかるんですけど、せめて安全第一で行きたいものです。
「しかし本当によろしいんですか天狐さん。何もそこまでしなくてもいいのに」
私は再度天狐さんに確認を取りました。だって彼女の案はこの上なく嬉しいのですが、場所さえ教えてくれれば行けない事ない場所かも知れませんから。わざわざそこまでしてくれるのは、私としても少しばかり申し訳ない気持ちがありました。
「気にせんでもよい。妖怪は借りた恩をしっかりと返すのが流儀なんじゃ」
「恩?」
私は天狐さんの恩と言う言葉に、何か引っかかるような違和感を覚えました。確かに轆轤首さんと私は彼女のお弟子さんである加胡川さんに、それはもう酷い目には遭わされましたよ。とは言ってもその返しに最も適切な言葉は「詫び」と言う言葉ではないのではないでしょうか。
一体何故だろう、そう思った途端に轆轤首さんがまたしても二人の会話に口を突っ込んできました。
どれだけ彼女は人と話がしたいのかなーー。けど私以外の妖怪と出会うのが久方ぶりだって事は、結構関係してるんだと思います。
「今生き残っている妖怪は恩返しって言葉を大切にしている。だからこうやって天狐はアタシらに恩返しをしようと言ってるんだぜ」
しかしそれだけでは私の質問の返しにはなっていませんよ。故に彼女の発言を指摘しようとした私でしたが、すぐさま天狐さんは私の口に人差し指を立てて何を伝えてきました。
それはあたかも、私の口から言わせるなと言わんばかりの威圧感をも醸し出していました。怖いなぁ……いかにもお歳をとられてそうな見た目も合わさって天狐さんの顔は、加胡川さんに向けたものとは違えど鋭いものでしたよ。
「お主らに許してもらった恩、じゃよ」
ですけど口にした言葉は思っていたよりも随分と簡潔でまとめられたものでした。これでは本当にそれだけなの、と言っても何一つ先の事は言ってくれそうにありませんね。であればここは彼女のお言葉に甘えて、その判別者さんの所に連れて行ってもらいましょう。
すると天狐さんは何かを言い忘れていたのか、はたまたわざと言わなかったのかは定かではありませんが、ある発言を付け足しました。
「それに、お主らに案内してやりたい場所もあるからな」
その時でした。案内と言われて、ようやく私が感じた恐怖にも似たデジャヴ感の正体が掴めたんです。なんで私はこんな出来事を忘れてしまっていたのでしょうか。それは加胡川さんが私達をこの崖へと誘い出した
勿論天狐さんは加胡川さんと違って邪気が無い、善の妖狐である事は鼻から承知の上ですよ。しかしながら一度体験してしまった恐怖と言うものは、和らぐのに相当な時間を要する事もまた事実なんです。
また変な所が気に掛かっちゃったなぁ、今の私には天狐さんの連れて行きたい場所も、正直恐怖の対象としか思えていません。
「あ、案内ですか。楽しみだなぁ……」
よって私の反応は何処か気の抜けた、と言うよりかは素っ気無い感じのものとなってしまいました。ーーなんだかごめんなさい、天狐さん。
ギチギチギチヴォーン。
我々超自然的存在である妖怪には無関係そうな、車と言う人工物から大きな音が聴こえてきました。どうやら車のエンジン、掛かったみたいですね。
先程の言葉で浮かび上がってきた不安な気持ちを強引に押し込んだ私を、何食わぬ表情で轆轤首さんは抱きかかえました。この人はさっきの天狐さんの発言を聞いてどう思ったのかな、私とおんなじ感想は抱いてはなさそうなんですけどね。それこそ神のみぞ知る、でしょう。
ついでに言うと私は他の人より足が圧倒的に短いので、こうやって運んでもらえるのはありがたいです。轆轤首さんも伊達に私との生活は長くありませんね。ーーって、私ったらなんて上から目線なんだろ。
こうして私達は、加胡川さんの師匠である天狐さんを仲間に加えて車へと歩き出しました。
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