第66話 ダンジョン制覇の現状
ミニャは最後まで一緒に帰るように言っていたが、領主からの一喝で観念した。
「フーカ達のこと頼むからな」
「分かってるにゃ。ジンにゃんは精々後悔するといいにゃ! あばよ、にゃ!」
ミニャの機嫌がなぜか悪くなっているが、まぁミニャだしな。猫は気ままなもんだ。
「(ルナは残るからね?)」
もちろんだ。流石に何かあった時に一人で解決できると思っているほど自惚れていない。
「それでは先に帰らせて頂きます。ジン様もお気を付けて」
フーカはここをどこだと思っているんだろうな。あ、貴族の屋敷か。つまり敵地か。
「ご主人様もすぐに帰って来てね。フーちゃんとご飯用意して待ってるからね」
なんだろう。フラグが立っている気がするのは気のせいなのか?
「あぁ、すぐに追いつくよ。何かあったらミニャを盾にするんだぞ?」
「「はい!」」
「え、そこでそんないい返事するにゃ?」
フーカ達を見送って部屋に戻ると領主は一人で待っていた。
「見送りはすんだかね?」
「はい。申し訳ありません。お時間を取らせてしまって」
「気にする必要はないよ。今日はジン殿の為に時間を取っていたからね。早速だがジン殿は東方から来たと聞いたが?」
「ええ、まぁ。そうですね。まだ街に来て数日しか経っていませんけど」
「今後はガルドの街を拠点にするのだよね?」
「そうですね。当分はそのつもりです。帝都にも行って見たいんですけどね」
一度行けば後は転移の指輪で行き来できるからな。
「それはいかんな。……確か今は裏通りの小さな家を借りているんだったね。よし、もっと大きな家を用意してあげよう。もちろん使用人もつけるから安心したまえ」
は? いや、別に今の家で満足してるんだが。変な細工もあって中々便利だし。
「いえ、今の家は気に入っているので。近くには仲のいい隣人もいますし」
「遠慮はいらんよ。ちょうどガルドの街に問題を起こした下級貴族がいたはずだ。すぐに出て行かせるから待っていなさい」
領主はセバスチャンの名前を呼びならが部屋を出て行こうとしていたので慌てて止めることになった。
貴族を追い出すって、そんな家に住めるわけないだろう。どうにか領主を説得して椅子に戻したが無駄に疲れた。
「ふむ。ジン殿は無欲なのだな。それならやはりあれしかないか」
別に無欲ではないのだが。領主は顎に手を当てて何やら呟いているようだ。
その後、一度席を立った領主がセバスチャンに何か伝えに行き、それから世間話に興じることになった。
領主は俺のダンジョン攻略に興味を持っているようで、あれやこれや聞かれた。適当に話していたが、随分と驚かれることがあった。
そして領主から聞けた内容で興味深かったのが、現在発生している五階層以上のダンジョンの制覇数がここ半年で三箇所だという事だ。もちろん内二つは俺が制覇したダンジョンだ。
大体十階層のダンジョンを攻略するのに掛かる時間は軍曹クラスの冒険者チームでおよそ三十日だと言う。俺は五階層までの地図があったとはいえ半日で制覇したからそりゃ驚くよね。
領主はこの辺りのダンジョン全てを管理しているので、最近のダンジョン制覇が遅れていることに危機感を覚えているようだ。
ミニャを始め、将校クラスの冒険者が浅いダンジョンに潜れば俺と変わらない成果は上げれるのだろうけど、格上の冒険者には深い階層を優先的に回しているから成果が出るのに時間が掛かっているのだろう。
ただ領主の話では最近の冒険者は質が悪く、将校クラスに上がれる冒険者がほとんどおらず、人手が全く足りて居ないらしい。
そもそも冒険者ギルドでも聞いたけど、ダンジョン攻略を目指す人材が減り、低層で小遣い稼ぎをする冒険者が大半みたいだ。
その結果、浅いダンジョンであっても魔物の進出が有りそうな危険度の高いダンジョンは領主の部隊が入ることになり、深層迷宮の攻略が遅れているという事だ。
「ジン殿は先ほどの彼女ら三人で潜っておるのか?」
「えーと、前回は犬耳の方と、……二人ですね。今後もしばらくはその予定です」
ルナのことは秘密だし、リムリをダンジョンに連れて行くのは危ないだろうしな。金が貯まったらもう一人ぐらい入れてもいいのかな。普通は六人とかでチーム組むんだし。
「そ、それは何とも。十階層とはいえ他にメンバーはおらんのか? まさかギルドから嫌がらせを受けておるのではあるまいな!」
「いえいえ、ミニャには世話になっていますし。今は二人でもどうにかなるので大丈夫です。もう少し深い所に行く時はもう一人ぐらい入れてもいいかも知れませんね」
俺の言葉に頭を抱える領主なのだが、俺は何か変なこと言ったか? 二人で制覇できた実例も言ったはずなのだが。
「やはりジン殿は違うな。これからもこの領地の為に頑張って欲しい。……他所に持っていかれるなどあってはならん」
最後の方はよく聞こえなかったが、……俺も生活があるからな。ダンジョンを攻略するのはやぶさかではない。何だかんだ言ってダンジョンは金の成る穴だ。
「俺も――彼女達がいますし、頑張って働きますよ」
「ジン殿は奴隷を奴隷と見ておらんようだな」
――まずったか? よく考えたら領主だって貴族だったな。
「えーと、まぁそうですね。慕われていますし」
「はっはっは、そう警戒しなくてもよい。奴隷をどう扱うも主人が決めて良い事だ。……ここだけの秘密だが、セバやアイラ達も元は奴隷だぞ。この屋敷で経験を積ませ、解放してやったのだが、ここで働くと聞かなくてな。よほど楽な職場なのだろうな。はっはっは」
えーと、それは恩返しに働くと言うことでは? つかセバスチャンも奴隷だったのか。……俺も解放した方がいいのかな。
「(止めときなさい。たぶん二人共泣くわよ)」
それは嫌だな。うん、いつでも解放していいとだけ伝えとくか。
そんなことを話していると二回ノックがあり、扉が開いた。
「失礼するぞ?」
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