第53話 フーカの実力
フーカが睨む先には顔を押さえフラつくスペルドがいた。
数日前に斬られた相手だ。その時とは比べ物にならないほどフーカは強くなっている。だが、腐っても中尉冒険者だ。俺の手加減抜きの一撃をモロにくらって立ち上がっているのだ。フィロがやられた相手だしフーカには荷が重いだろう。
いくら足がフラつき、武器も失った相手だとしても。
……あれ? いけるんじゃねぇ?
「く、そが! デタラメな力しやがって。その上小娘に相手させるつもりか? 俺様を馬鹿にしてんのか!!」
スペルドは腰からナイフを取り出し構えた。
「……危なくなったら変わるからな?」
「はい!」
俺の言葉に嬉しそうに微笑み、刀を抜き前に出た。
「マジで俺様と戦う気かよ。まだ傷も癒えてねぇだろ? かなりガッツリ斬ったはずだぞ。なんで立ててんだよ」
「もう治りました」
「ふざけんなっ! クッソがぁ! 奴隷のガキが俺様を見下してんじゃねぇ!!」
スペルドのナイフが上から下から横から縦横無尽に繰り出される。流石は中尉冒険者だ。戦い慣れているしフェイントを織り交ぜた高速斬撃は俺では避けれないかもしれない。が、フーカはそれを紙一重で避けていく。
…………いや、紙一重じゃないな、ワザとギリギリで躱している。反撃の隙があっても攻撃をせず、スペルドの斬撃を完全に見切っている。
「ッ、ッ、っ。て、めぇ、何なんだよ! なんでこれが避けれるんだよ!!」
「……見えるから」
「ッ! クソガキがぁぁぁ!! 死ねぇぇ!!」
スペルドが振りかぶった瞬間、残像を残すほどのスピードでフーカが接近し、スペルドの右手を切り裂いた。
「ぐぅぅ! クソォォが!」
スペルドは血の滴る右手をフーカに振り、目くらましに血を振付けようとするが、フーカはそれすら避け左足を切り裂く。
「遅いです。どうして貴方程度がフィロさんに勝てたんですか?」
「こんのクソガキがァァァ!! 虚空斬り!」
斬撃を避けようとするフーカだがスペルドが放った斬撃は空を裂いてフーカに襲いかかった。
「ッと、危ないです」
しかし、それもフーカは避けて見せた。
「――俺の虚空斬りを初見で避けたのは三人目だ。――お前、どうやってそれほどの力を付けたんだ?」
「私はただ、ジン様のお役に立ちたいと思っただけです。あなたには感謝しています。貴方のおかげでジン様に出会えました。そして私が乗り越えるべき相手にもなってくれました。今日で貴方を超えたいと思います。――全力でお願いします」
「くそガキが、調子に乗りやがって。いいぜ、殺ってやるよ」
スペルドは上着を脱ぎ捨てて背中に括りつけていた短剣を取り出した。そしていきよいよく振ると短剣の刀身が伸び出して通常の剣程度の長さになった。
ステータスを見ると伸縮の剣(神)となっていた。奥の手に隠していたのか。
スペルドの表情から侮りが消え、フーカを強敵と見定めたようだ。
「フーカ、あの剣は――」
「大丈夫です。見ていて下さい」
俺の助言は要らないみたいです。余計なことはせず、黙って見ていよう。
「フーちゃんってこんなに強くなっていたの? 動きも全然見えないよ?」
リムリはフーカの戦闘を唖然として見ていた。リムリが驚くのも無理はないだろう。ほんの数日前まで自分と同じぐらいの少女だったのが、今では格上の冒険者と張り合っているのだ。
しかし、いくらダメージを負っていたとはいえ、中尉冒険者ってのはこんなに弱いのか? フーカが強くなっているのは分かるけど、僅か数日ダンジョンに潜っただけで追い付くレベルっておかしいだろう。
……俺にも少し戦わせてくれないかな。俺ってどれくらいの強さなんだろ。
「フィロ姉、あれ!」
「フーとあの男が戦ってるわね。……ミニャ、あんなところに穴なんてあったかしら? それにブリッタの屋敷も見当たらないわよ?」
ジン達を追い掛けて急いで来たけど敵の姿がない。
ブリッタのことだから傭兵を大量に雇っているだろうと思っていたし、ミニャの情報でもそれらしい話はあった。
しかし、駆けつけて見ると傭兵の姿は確認出来ない。まだジン達のところまで距離があるけど、姿が見えないほどの距離ではない。
先ほどジンに説明したのはまさにあの場所だし、ジン達もいる。でも屋敷があるであろう場所には大穴があるだけだ。
そしてその前でフーと先ほどの男が戦っていた。男は剣を使わずにナイフで戦っているようだが、その動きはまさに将校クラス冒険者といった動きだ。多少動きに繊細さが欠けているようだけど、フーでは荷が重いだろうと思った。
「ミニャ? あれって」
「……まさかにゃ。あの子、スペルドの動きを見切ってるにゃか? ありえんにゃ」
ミニャもその動きを見て驚愕していた。つい先日まで可愛い奴隷の少女だと思っていたのに、ジンに買われてからここまで成長したというの?
「完全に見切ってるわね。ッ、今の虚空斬撃よ。私でも避けるのに苦労したのにあの子完全に見切ってるじゃない」
怪我と半身の麻痺があったとはいえ、経験があった私でも避けるのに苦労したのに。あの子は初見で避けて見せたわね。普通の冒険者なら今の一撃で決まってたわよ。
「一体ジンにゃんはどれだけ過酷なことさせてるにゃ」
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