第31話 ミノタウロス
「――な、なんでお前がここに」
ルナ達を王蟻から救ったのはミニャだった。この街最強であろう猫娘がどうしてここに?
いや、俺達をここに行かせたのはミニャだ。俺達の実力を測っていた? それとも恩を売るためにギリギリまで待っていたのか? タイミングが良すぎたぞ。
「にゃはは、新米の尻拭いは長の努めにゃよ。っと、先ずはコイツを倒してからにゃ。詳しくは地上で話すにゃよ」
「ギギギギギギ!」
王蟻は大変怒っているみたいだ。邪魔されたわけだしな。レベル的にミニャなら問題ないだろう。強者の戦いぶりを見学させてもらうとしよう。
ミニャの登場で緊張が切れたのか、フーカはペタンっと座っており、ルナは俺にヒールを使ってくれている。お陰でどうにか動くことはできそうだ。
「それじゃ、お仕事やりますかにゃ!」
――その戦いは圧倒的だった。
ミニャの動きはフーカを軽く凌駕していた。王蟻の動きも速く今の俺では対処出来ないほどだったのに、ミニャは王蟻をその速度で圧倒していた。
疾風の加護。このスキルのお陰なのかミニャの速度は常人の域を超えている。
ミニャの攻撃が王蟻に当たり、王蟻はそれに反撃するがその時にはミニャの姿は王蟻の視界から消えて背後から斬りつけられていた。これが少佐クラス冒険者の実力なのか。
ただミニャのデュランダルは攻撃力があまり高くないみたいだ。すでに数十は斬りつけているが王蟻の傷で一番深いのは俺がフルンティングでつけた傷だ。使用者が違うデュランダルではこの王蟻は殺せないのかもしれない。
「にゃはー、カッタいにゃー。しょうがないにゃ。――血の盟約をここに。我が血脈に宿りし古の力、我が怨敵を討ち滅ぼす力となれ。――デュランダル!」
ミニャが掲げたデュランダルが青白い光りを放ち輝きだした。今まで完全に眠っていた神具がまるでミニャの呼び声に反応して目覚めたかのようだった。
「これは、神具がミニャを所有者と認めたのか? そんなことができるのか?」
「そんなこと出来るわけないわ! そんなことが出来るなら世界のバランスが完全に崩れる。ヘルトスは何をしてるのよ!」
錯乱気味のルナが天を見上げるのを横目に俺はミニャから目が離せないでいた。ミニャの持つデュランダルの美しさ、その清良かな波動、その輝きはまさに聖剣。
これが誠の所有者が扱う神具なのか。
「ふー、ふー。あんまり持たないからサクッと終わらせるよ」
ミニャが構えたと思ったら次の瞬間には王蟻の片手を切り飛ばしていた。
「ギ、ギイギギイィ!」
その剣筋はまるで見えなかった。そしてそれは王蟻も同じだったみたいだ。驚愕を思わせる鳴き声と動きだった。
「これで、終わらせる――風の太刀、風切り!」
ヒュンっと剣が風を斬る音が聞こえたと思ったら王蟻の首が、腕が、足が、胴体がバラバラになって崩れてしまった。
「ッ! なんつー強さだよ。つか初めからそれ使えよ」
「にゃ、ニャハハ……。ちょっとムリし過ぎたにゃぁ。ジンにゃん、おぶっ――避けなさい!」
「ッ! フーカ!」
ミニャの緊迫した声に近くに居たフーカを抱え思いっきり横へと飛び去った。
するとドゴンッ!! っと凄まじい衝撃が地面を揺らした。
「最悪にゃ。なんでこんなとこにいるにゃよ」
ミニャの視線の先には、棍棒を振り下ろしたミノタウロスがいた。
「フーカ無事か?」
「は、はい。なんとか。ジン様は大丈夫なのですか?」
「どうにかな。フーカは出来るだけ下がるんだ」
もうフーカは戦えない。一度緊張が解けたせいで今までのダメージを認識してしまっている。
「そ、そんな。まだ」
「フーカ、下がりなさい。足手まといって分かるでしょ。今は口論している暇はないわよ」
ルナの言葉にフーカは唇をかみ締めながらも頷き入り口の方へ駆けて行った。
「ちょっと言い過ぎたかしら?」
「そうだな。あとで謝らないといけないな。二人でな」
「ふふ、そうね。無事に帰りましょう」
ルナと笑い合い、俺達はミノタウロスを睨む。
「ジンにゃん、戦えるかにゃ?」
「ギリギリな。正直長くは持たんぞ」
もう体中が悲鳴を上げている。ルナの回復魔法でギリギリのところを維持しているだけだ。
「にゃはは。それは困ったにゃ。私もさっきので魔力は空だし、骨が何本か逝ってるにゃ。でも逃がしてはくれないよねぇ」
「ブオオォォォォォ!」
ミニャの問い掛けに答えるようにミノタウロスが咆哮を上げた。
「ミニャ、なにか魔力回復させるアイテムってないか?」
魔力さえ回復できればルナの回復魔法でまともに戦えるようになれる。このダンジョンに入ってから相当レベルも上がっているから体力も魔力も総量はかなり上がってるはずだ。
「んー。結構慌てて来たから消耗品はあんまり揃えてないにゃ、それにアイテム自体残して来た他のメンバーが持ってるにゃ。……ただ一つ心当たりならあるにゃよ」
「もったいぶらずに言えよ。役立たず猫娘」
「ひどいにゃね? 助けに来て、一度は命救ったのににゃ。……あそこにゃ、ジンにゃんが倒したダンジョンボスが残した魔石、あれには相当の魔力が蓄えられているはずにゃ」
ミニャの示す先はミノタウロスの足元だった。目を凝らすとミノタウロスの足元すぐ横に淡く光る石が落ちていた。
そしてミノタウロスを鑑定してみると、
牛人種Lv50 牛戦士Lv50
・狂戦士 ・???
さっきの王蟻より強いな。
「――あれを拾いに行けと? それだけで命がけだな」
「そうにゃね。だからジンにゃんに質問にゃ。――あの魔石があればミノタウロスに勝てる?」
普段のフザケた態度を隠し、真剣な表情でそう言うミニャ。デュランダルを使った代償はかなりのものだったのだろう。骨折をしていると言っているがそれだけじゃないのだろう。自身より格下である俺に託すほどに。
それを知っての俺の答えは死刑宣告なのではないだろうか。だけど、それでも。
「勝てる。勝ってみせる!」
俺はそう宣言する。
「ふうー。なら、私が頑張るしかないか。正直さっきの反動であと数分もしたら戦闘不能になるのよね。だから――後は任せるわよ?」
「あぁ、最悪でもお前を背負って逃げてやるよ」
「志が低いなぁ。絶対倒すって言って欲しかったよ。……それじゃ、後は任せたにゃ」
ミニャはそう言うと再びデュランダルを構えた。
その姿を見たミノタウロスも戦闘態勢へとなり、緊迫した空気が流れる。
「ブォオォォォ!」
「ハァァァァ!」
ミニャは正面からミノタウロスを向かえ撃ち棍棒を避け受け流し、押さえ込み数撃をミノタウロスに当てたがミノタウロスには殆どダメージはなかった。
「硬すぎ。でも」
ミニャの足元には光る石が落ちていた。
ミノタウロスと刃を合わせながらミニャは立ち位置を入れ替えていたのだ。
俺にはまだ出来ない、高等な戦闘テクニックだ。やはりミニャは一流の冒険者だ。
「私の役目は終わりだよ。後は任せた、にゃ」
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