ゆりかごの中から・・・

勝利だギューちゃん

第1話

「ここはどこ?」

「君の望んだ場所」

「僕の?」

「うん、だから君はここにいる」

「でも、どうして?」

「私が君を、導いた」

「君が?」

「うん・・・」

「でも、どうして?」

「君の事が好きだから・・・」


人は誰しも、幼い頃には夢を見る・・・

そして、大きくなるにつれ、その夢を捨てて行く・・・

それが大人になるということだと、思っている・・・


でもそれは、言い訳に過ぎない・・・


誰しも、心の奥底で信じている・・・

いや、願っている・・・

「このままでは、終わらせない・・・」と・・・


でも、そんなに甘くないのは、理解している・・・

そして、思う・・・

「せめて、夢の中でもいい・・・」と・・・


「じゃ、ここは夢の中」

「うん、そう・・・」

「でも、君が考えている夢の中ではない」

「というと?」

「ここは、君の夢の中ではない。私の夢の中」

「君の?」

「私が、君を私の夢の中へ、導いた」

「招待?」

「それとは違う・・・」

「じゃあ、何?」

「それは、君で確かめて・・・」


僕には、何も出来ない・・・

そう思えば、前へ進めない・・・

でも、季節は巡る・・・

冬がすぎれば、春となり、夏となり、秋となる・・・

そして、また冬が来る・・・

その繰り返し・・・


「じゃあ、少しだけ力を貸してあげる・・・」

「えっ、マイク?」

「好きな曲入れて・・・」

「カラオケ?」

「うん、何でも好きなの唄っていいよ」

「でも、僕は・・・」

「音痴なのは分かっている。気にしないで唄って・・・」

「分かった・・・」



カラオケに行くことはあるが、余程気の知れた相手でないと、

自分の好きな曲は、唄えない。

どうしても、流行りの歌とが、受け狙いの曲を入れる・・・

自分をごまかす代名詞かもしれない・・・


「うん、えらい。ちゃんと自分の意思で、自分の好きな曲を唄ったね」

「何でもいいって言うから・・・」

「それでいいよ。自分の意思で選ぶという事が大事なの?」

「いい?他人の眼を気にしてたら、何も出来ない」

「何も?」

「君は君らしくいて・・・それが、私の願い・・・」

「君は?」

「すぐにわかるよ・・・」


目が覚めた・・・


横で心配そうに見つめる妻の姿があった・・・

(何でもないよ)

そう言うと、逆を見る・・・


生まれたばかりの娘が、ゆりかごの中で寝ている・・・

心なしか、微笑んだ気がした・・・

「そっか・・・」


子供にしか見えない物があるという。

もしかしたら、大人にもあるのかもしれない・・・


がんばろう・・・妻と・・・娘と・・・

そして、何よりも・・・

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ゆりかごの中から・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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