2-3
『ここは……』
桃園先輩が目を覚ました場所は、パソコン室だった。
『私、イスに座ったまま寝てたの……? トン魔王っていうのが出て、青野君が……青野君?』
とっさに探した相手は、隣のイスで眠っていた。揺さぶるとすぐに気が付いて――
『桃園さん、無事?』
――いきなり告げた。桃園先輩が驚いているなか、青野先輩は辺りを見渡してから苦笑い。
『夢か……そりゃそうか。桃園さんがトン魔王とかいうのに捕まって、僕が助けに行くなんて』
『その夢、私も見た……!』
二人は顔を見合わせた。
『僕たち二人で同じ夢を見るなんて。本当に夢だったのかな』
『わからない。でも……』
桃園先輩は、にっこりとした。
『私、青野君ががんばってくれたからうれしかった。あんな夢の中なら、もっといたいかな』
いたずらっぽく、舌を出してみせる。
『今度試合があるっていってたよね。応援、行ってもいい?』
私たちはゆーま君の部屋にいて、二人の様子をしっぽ玉越しに見ていた。
「大成功ですね!」
「うん! サイトにあった話は、『パソコンに閉じ込められて出られなくなる』。だからこっちは『パソコンに閉じ込められて出たくなくなる』にしたんだけど、そう思ってもらえてよかったよ!」
「ややこしいな。それと、きれいにまとめたつもりかもしれないがカラテビームはないだろ」
アミちゃんからいわれた最後の技はハンセー。でも、新しく現われた短冊には〈パソコンに閉じ込められて出たくなくなる〉と記されていた。
「これで六つ。あと一つだね!」
「最後くらいは、怖いのにしてほしいっシュ」
ゆーま君はやっぱりおずおずといってきた。でも、ここまで来たら怖くないのでそろえたい。
「怖いかどうかはともかく、ちゃんと七つ作るからね!」
「おっと、そろそろ遅くなる。先生に見つかったら怒られるぞ」
ツキちゃんのスマホを見ると、たしかにこの部屋へ入ったときからかなり時間がたっている。今回のヘンななフシギは長々とかかるものだったから当たり前だ。
次からは私たちが参加するんじゃなくて、トン魔王やコッコマンみたいにゆーま君の妖力で作られた幹部が出るようにしてもらおう。あと、コッコマンはもう少し手加減しないと。
私たちは三人でゆーま君の部屋から出た。グラウンドを横切って裏門に向かう。
(何あれ)
私は裏門を抜けたところで立ち止まった。変わったものが道路に落ちている。
紙でできた人形。大きさは私の手首からひじくらいまであって、細長い。ちょんまげが付いていて、着物姿。
(どこかのおみやげ品?)
かなりボロボロ。誰かが友だちに渡すつもりで学校まで持ってきて、この辺りで落としてしまったんだろうか。通りすがった人から何度も踏まれてあんなふうになったんだろうか。私はそんな想像をしたけど、違うって気もする。色あせたりしみが付いたりして、古びている感じ。
「何してんだよ。早く帰らないと親にも怒られるぞ」
道路の先から呼びかけられて、私は駆け出した。人形のことはすぐに忘れてしまった。
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