ヘンななフシギ
大葉よしはる
プロローグ
1
五歳の私が泣いていた。
すぐそばには、いつも眺めながら歩いている川。浅いし道路のわきで水が流れているだけなんだけど、そのときはとてつもなくにくたらしかった。
朝、私はお母さんから百円もらった。理由は覚えていないけど、「春音、大事に使うのよ」っていわれたような。
今の私からすると、そんなに大きな額じゃない。でも五歳のころは大金だったから、川に落としてしまったことはものすごいショックだった。いくら川を見下ろしていても、百円玉は返ってこない。川はいつもなら透きとおっているけど、前の日に雨だったせいかにごっている。底に泥が積もっているから、百円玉は沈んじゃったかもしれない。
「そうか、ハル。あそこに落としちゃったのか」
そばにいるのは、私よりもずっと背の高いお兄ちゃん。年は五つ上。近所に住んでいるイトコで、よく遊んでくれる。私には親の次くらいに見慣れた相手。
あんなところに行っちゃったんだから、もう絶対見つからない。私が泣きながら話すと――
「本当にそうか?」
――お兄ちゃんはニヤリと笑った。
「絶対見つからない、か。決めつけはダメだぞ」
そのころの私にはよくわからない言葉だった。でもお兄ちゃんの自信ありげな様子を見ていると、はげまされているのがわかった。
「待ってろ」
お兄ちゃんはサンダルを脱いで、私が止める間もなく川に入った。ひざから下が水につかる。
「案外、探してみれば……」
右手を水に入れて、しばらく探って、出す。
「ほれ」
お兄ちゃんが見せた手のひらには――
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