第57話『でんでらりゅうば』
妹が憎たらしいのには訳がある・57
『でんでらりゅうば』
――しばらく様子を見る――
二日後にユースケに宛ててメールを打った。
当然、となりの木下クンのPCを中継してメールの出所は分からなくしてある。
――さすが甲殻機動隊。発信源も分からないし、着信履歴も残らないな――
折り返し、ユースケからメールが来た。ユースケも、なかなかやるもんで、発信はペンタゴンになっていた。もっとも原文は――バグダッドは快晴、雲一つ無し――で、世界中に駐留するアメリカ軍、関係施設に一斉送信され、そのどこかのCPをハッキングしているCPをいくつも経由して、木下クンのCPに入ってきたものだ。通信コードからペンタゴンと知れただけである。木下クンのハッキングは秒単位で移動して、しかも痕跡を残さない。ペンタゴンも、軍の情報局も、甲殻機動隊でも見抜くことはできないだろう。
どうせ、腰を落ち着けるなら、適度なPCマニアの側がいいだろうぐらいのネライだったが、大ヒットだった。
その週のうちに国防省で佐官級の人事異動が小さなニュースになった。表向きは、極東アジアの警備の都合ということであったが、裏にグノーシスの権力闘争があることは、わたし(真由=ねねちゃんと俺の融合)も優子(幸子と優奈の融合)も分かっていた。対馬に移動した佐官二名がウミドリ(オスプレイの発展系)の不時着事故で死亡している。
ユースケからの連絡も――連絡あるまで待機――のメールを最後に途絶えた。ちなみに、このメールはあるタレント政治家が愛人に宛てた――しばらくいけない。愛してるよ――に偽装されていた。このメールは週刊BSにも流れ、その週の最大のスキャンダルになった。これはユースケのちょっとしたウサバラシだろう。
わたしたちは、思いがけず、平穏な女子大生生活を送ることになった。
わたしは国文、優子は史学科だった。こないだまで女子高生だったけど、義体なもので、N女子大の学生としては、中の上ぐらいの能力設定にしてある。また、それに合わせて生体組織も変態させ、プラス四歳。胸も念願のCカップにした。
国文の講義で、こんなことがあった。
講義中に、わたしの足もとに消しゴムが転がってきた。斜め後ろの席で小柄なショートヘアがキョロキョロしている。
「これ、あなたのでしょ?」
「あ、どうも」
これだけの会話だったけど、なんだか友だちになれそうな気がした。
「さっきはどうも」
講義がが終わると、その子はちょこんとお辞儀をした。
「あなた、長崎の人でしょ?」
「え、分かります!?」
「なんとなく。よかったら学食でお昼でもどう?」
「は、はい」
その子は、弾けたような笑顔になった。
「真由さん、こっちこっち!」
手際よく、その子は学食の席を二つ確保した。わたしは、まだこの子の名前を知らない。「わたし、渡辺真由。名古屋から……」
そこまで言うと。
「取りあえず、席キープしてきます!」
そう言って、ショートヘアをフワフワさせて学食へまっしぐらに駆けていった。
「あ、まだ自己紹介もしてませんね!?」
それまで、東京に越してきたカルチャーショックについて、ほとんど一人で喋っていた、その子のスイッチが切り替わった。
「わたし、川口春奈っていいます。真由さんがN女にきて最初の友だちです」
そう言って、特盛りのエビカツカレーの、最後のお楽しみに取っておいたのだろうエビカツの尻尾を美味しそうにかみ砕いた。
「友だちだったら、さん付けはよそうよ真由・春奈でいこうよ」
「え、いいんですか?」
「ってか、友だちなら、それが自然じゃない?」
「じゃ、真由……さん(n*´ω`*n)」
「ハハ、ボチボチいこうか」
「デザート、なにか食べます?」
「じゃ、イチゴのショ-トにコーヒー」
「承知!」
春奈はすっとんで、デザートをあっと言う間に確保してきた。わたしは、お金を渡しながらタマゲタ。春奈のデザートは、大盛りのかけそばだった。
「春奈、よく食べるわね!」
「エネルギー効率が悪いの」
そう言うとサロペットのボタンを外すと、七部袖のTシャツを脱いで、勢いよくキャミ一枚になった。小柄だけど均整のとれた体だ。
「もう一杯、なんか飲もうか。わたしおごるから」
「嬉しい、じゃ、ジンジャエール。大……ごめんなさい」
「いいわよ、わたしも、それにしようと思っていたから」
わたしは、義体のわりには要領が悪く。直前に三人組に入り込まれ少し遅れた。席に戻ると春奈が、何やら手で遊んでいた。
「なにやってるの?」
「あ、えへへ(〃´∪`〃)ゞ長崎の手遊び」
「それ、大昔、テレビで見たことある」
「ほんと!?『でんでれりゅば』っていうのよ」
「わたしにも教えて!」
「簡単よ、こんなふう『でんでれりゅうば、でてくるばってん、でんでられんけん、でてこんけん、こんこられんけん、こられられんけん、こ~ん、こ~ん』やってみて!」
歌に合わせて、右手のグーと親指、人差し指と小指を交互に拍子を取るように左の手のひらに打ちつける……案外むずかしい。
わたしは、あえて義体の能力を閉じて、人間の能力でやってみた。
「だめだね、こうだってば……」
この人間らしいもどかしさが、とても愛おしく思えた……。
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