第55話『メタモルフォーゼ』

妹が憎たらしいのには訳がある・55

『メタモルフォーゼ』     



 アズマのセダンに変態させたハナちゃんを三ヶ日のインターチェンジに入れた。


 わたし(ねねちゃんと俺の合体)と、サッチャン(幸子=俺の妹)は、信太山駐屯地にあるシェルターを出発して東京を目指した。三ヶ日を過ぎると検問があるので、このインターチェンジで、これからの行動を考えながら当面の対策を練っている。


「ウナギの焼きお握りたまら~ん」

 サッチャンが優奈の顔で、目をへの字にした。

「義体にしては、よく食べるのね」

 わたしは天蕎麦のエビ天の尻尾をポリポリ囓りながら言った。えびせんのような香りが口の中に広がる。サッチャンは、とっくにそれを食べて、三ヶ日名物のウナギの焼きお握りたまら~ん状態。

「優奈ちゃんに変態したところだから、生体組織に栄養がいるのよ。それに東京での生活の準備あれこれに頭使ったから。ほらこれが、ねねちゃんのID……」

 サッチャンが、スマホにケーブルを繋いで、情報を送ってきた。

「え、わたし渡辺真由!?」

「わたしは大島優子。二人とも親が熱烈なAKBファンだったってことになってる。N女子大のちょいワル女子学生……以下了解?」

「インスト-ル終わり。長期戦覚悟ね」

「そうならないように願ってるけど、いくよ真由」

「へいへい」


 浜松市の外れまで来たときに、検問にかかった。


「この先10キロのところで、ロボットが暴走して、軍と警察車両以外は通行止めです。一般道に降りて迂回願います」

 警官の誘導で一般道に降りた。要所要所に警官が立って複数の一般道に誘導していた。五カ所目からは、国防軍に替わった。どうやらロボット兵のようだ。

「この道を、まっすぐ行くと、東名にもどれます」

 ロボット兵は、そう言ったが、後続の車はしばらく停止させられ、見えなくなってから別の道に誘導されていた。

『どうやら、ハメられたようですね♪』

 ハナちゃんが楽しそうに言った。

「そのようね、でもハナちゃんは大人しくしていてね」

『えー、つまんないなあ』

「ハナちゃんは大事な隠し球なの」

『ええ、そうなんですか隠し玉なんですか。なんだか照れちゃう♪』


 そのとき、目の前にトラックに変態していたと思われるロボットが二体、地響きをさせて降下してきた。


 ズズシーーン!!


「真由(ねね)、こいつら情報とりながら仕掛けてくる。手の内は見せないで一気に倒す……最初に、通信回路をブレイクして」

「言うには及ばないわ」

 わたしたちは、同時にハナちゃんから飛び出した。ハナちゃんは普通のアズマのセダンのように、オートで退避した。いきなりスキャニングパルスを感じた。

「こいつら、義体を探してるんだ!」

 二人はロボットの股ぐらにしがみついた。衛星の映像で、こちらのスペックを知られないためだ。背中づたいに首筋まで上り、グレネードレーザーで首筋に穴をあけ、手を突っこんで、通信回路を基板ごと引きちぎった。これでこいつから情報を送られることはない。

 ロボットも大人しくはしていなかった。ジャンプすると背中から落ちて、わたしをペシャンコにしようとした。その時偶然に振り落とされたように見せかけ、うつ伏せに倒れた。気を失ったフリをしていると、足で踏みつぶされそうになり、横っ飛びに跳んで優子と入れ違って戦う相手を替えた。交差するときに手話で情報を伝えた。

 互いのロボットの首筋につかまると、グレネードレーザーで開けた穴にケーブルを突っこみ、バトルセンサーに細工した。エネミー認識をロボットにしたのだ。

 二人が離れると、二体のロボットは互いを敵と認識して戦い始めた。同じスペックのロボットだったので、勝負は、あっと言う間に相打ちに終わった。


 ハナちゃんが戻ってきて他の一般車両に混じった。


 東名の本線に戻ったところが検問所で、同じアズマのセダンが次々に止められていた。

「わたしたち、引っかからないわね」

『型番を型オチにして、シリアルを、同型のアズマにシャッフルしておきました♪』

「同型って、どのくらいあるの?」

『国内だけで45万台はありますう。そのユーザーと、その知り合い……ちょっと天文学的数字になりますね♪』

「アハハ、ハナちゃんやるう!」

『それよりも、お二人義体丸出しですから、その対策を』

「拓磨の義体が使ってたバージョンアップのコードがあるわ。これで誤魔化そう」

「そうね、ユースケに見つかるまでの偽装になればいいんだしね」


 そうして、東京につくころには、N女子大の大島優子(幸子と優奈の融合)と渡辺真由(ねねちゃんと俺の融合)になりおおせていた……。



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