第52話『拓磨クン!?』


妹が憎たらしいのは訳がある・52

『拓磨クン!?』      




 事件は、その日の放課後におきた……。


「……道が違わない、拓磨クン?」

「下水道工事で、いつもの道は通られへん。外環に出て、ちょっと大回りするわ」


 たしかに、カーナビには工事中通行止めのサインが出ていた。回覧板の記録と照合したが、隣の町内のことなので記録がない。半信半疑のまま助手席に座り続ける。

 交差点を左折して妙な振動を感じた。道路は平坦なのに、体の感触は僅かに車が乗り上げた感触。 そして緩い坂になり、すぐに車は停車した。

 窓から見える景色は外環を外れた国道○号線のそれだ。左側にはコンビニ、右側は回転寿司と焼き肉チェーン店。ときどきパパと来る店だ。


 拓磨がドアを開けて車から転がり出た。わたしはシートベルトを外すのに0・5秒遅れた。


 車から出て驚いた……そこは大きな倉庫の中だったのだ。


「窓ガラスに、ダミーの映像をかましたのね」

 倉庫の割に声が響かない。高度な吸音処理が施されているようだ。

「おまえが、こっち側のねねちゃんかどうか、確かめたかったんでな」

「……拓磨じゃない……義体なの?」

 拓磨が、あいまいに笑うと、後ろのフォークリフトがガシャガシャ動きだし、三秒ほどでロボットに変身した……おそらく、祐介を取り込んだロボットだ。わたしは、程よく驚いておいた。

「ユースケ?」

『ああ、潜入させておいたねねかどうか確認したいんでな』

「リンクすれば済む話でしょ」

『普通ならな。だけど、敵も味方も技術が向上している。現に、おまえは拓磨が義体だとは見抜けなかっただろう』

「それくらいは言ってくれてもいいんじゃない。CPがバグりそうよ」

『そんなタマか、もし、おまえがこちら側のねねならな。それに……』

「なによ」

『里中のところで上手くいきすぎている。あの里中が全く気づかないのが不自然だ。じゃ、確認しようか』

 拓磨の義体が迫ってきた。

「ちょっと乱暴だが、辛抱してくれよ……!」

 拓磨とは思えない敏捷さで襲いかかってきた。その時点で、この義体のスペックは分かったけど、知らないふりをした。二度跳躍したところで、右手首のグレネード銃を解放し、至近距離で拓磨の頭を粉砕した。拓磨は首のないまま、二三歩前進し、ドウっと倒れた。

「義体のスペックは高いようだけど、戦闘能力はスタンダードね。さ、早いとこ情報交換しましょう。ケーブルを寄こして」

 すると、後ろから急に羽交い締めにされた。首のない拓磨が、わたしを締め上げてきたのだ。

『そいつのCPは、胸にある。タクマ、うちのねねなら、胸骨の鳩尾のところが本物のコネクターだ』

 首無しタクマは、下着ごと制服の前を引きちぎり、わたしの胸を顕わにした。ケ-ブルが伸びてきて、鳩尾のところでコンタクトした、


 一瞬意識が飛んだ。


『間違いない、うちのねねだ。里中は入れ違っていることには気づいていないようだな』

「それを確認するためだけに、こんなことしたの?」

『ああ、これがオレのやり方だ』

 わたしは、解放したままの右手首のグレネード銃で、タクマの胸に風穴を開けた。タクマは仰向けに倒れ、完全に……ブレイクした。

「これが、わたしのやり方。義体でもセクハラは死刑よ!」

『その右手首の傷の言い訳を、考えなきゃな』

 内蔵のグレネード銃を使うときは、手首を270度曲げ、銃口を出す。そのために生体組織である皮膚は、破れて傷になる。現にブラウスの袖口は血に染まっている。

「恋に破れてリストカット……笑うことないでしょ。正直に言うわよ。あんたたち不貞グノーシスと出会って、遭遇戦になったって……なにすんのよ!」

 一瞬バレたかと思った。ユースケのレーザーがスカートごと、わたしの太ももをかすめた。

『遭遇戦をやっていたら、これぐらいの傷はあったほうが自然だろう……』


 それからユースケとは、ケーブルをつないで情報をやりとりした。


 反乱組のグノーシスの全容が分かった。

 そして、ユースケの攻撃方法も。

 合理的ではあるが、残酷な方法であった。どうも、優奈を、あんな形で失ったことのショックが反映されているような気がする。数秒で三百回ほどシュミレーションをやって、一番人を殺さずに済む方法を二人で考えた。むろん、わたしの作戦はユースケを信用させるためのダミープラン。だが、ある線までは、ユースケと行動を共にしなければならないとも覚悟した……。



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