第51話『テイクオーバー』

妹が憎たらしいのには訳がある・51

『テイクオーバー』      




 三日と持たない……里中副長は思った。


 グノーシスが送り込んできたねねは、シリアルもオリジナルと同じで、昨日までのねねのメモリーは完ぺきにコピーされていた。

 だから、里中副長がニセモノと気づかなくても不自然ではない。

 しかし、里中副長は、自分の住みかをプライベートとアジトに分けていた。

 プライベートにも、ある程度の機密があり、軍や甲殻機動隊ともリンクしているが、ほんの日常的なアクセスしかできないようになっている。万一のためにダミーの戦闘詳報や、機密情報をカマシてはあるが、ねねが気づくのは時間の問題だろう。


 三日目、その時がやってきた。


 ねねの母親・里中マキ中尉の記憶は、レベルCの機密にしてあり、普段のねねは、それを認識してはいない。母親はずっと昔に亡くなったと思っている。先日太一をインスト-ルして母の死を看取り、国防省で的場大臣をコテンパンにしたことは記憶から抜いてある。それを、このねねは知ってしまった。

「ママは、ついこないだ、わたしの腕の中で死んだんだ。わたしはママのバトルスーツを着て、国防省で……」

 ねねは涙を流していた。そしてCPの中で、全ての情報と照合し、矛盾がないか確かめている。

「辛い思い出だから機密にしておいたんだ。でも、やはりねねには自我がある。どうしても見つけてしまうんだね。かわいそうに……」

 里中副長は、そっとねねの肩に手をやり、さりげなく親指で、ねねの首筋に触れた。ねねのCPの中で解析が進み、その情報が圧縮されて外部に転送されているのが分かった。転送先は、様々なCPを経由して分からなくしてある。第一級のハッカーの手口であるが、その先は祐介を取り込んだグノーシスのモンスターであろうことは想像がついた。


 ねねの肩に置かれた里中副長の手に、一回り小さな手が重なった。


 ねねの体から、電池の切れたロボットのように力が抜けた。里中副長は、ねねをゆっくりとソファーに寝かせた。

「ノイズ一つたてずに、テイクオーバーできたわ。この子のCPは、完全にブロック。もう指一本も動かせないわ」

 もう一人のねね、つまり太一と同期したわたしが言った。

「すぐに、このねねの服と着替えるんだ。下着から全てな。痕跡は残すな」

「はい」

 わたしは、動かなくなったねねの義体から服をはぎ取ると、素早く身につけた。

「この下着の繊維、3度以上感知体温が変化すると、アラームが転送されるようになってる。警戒していたみたいね」

「それじゃ、風呂にも入れないじゃないか」

「今日一日の処置。敵も今日あたりが危ないと思っていたみたいよ。この義体は処分ね」

 わたしは、義体をシュラフに入れた。

「待ってくれ、もう、ねねの義体を処分するのは三度目だ……」

「情が移っちゃった? そういうパパ好きよ」

「……今の義体が破壊されたら、すぐこいつにテイクオーバーできるようにしておけ」

「鹵獲兵器の再利用ね」

「デスストックになることを祈ってるよ」


 そこに、我が崇拝者の青木拓磨からメールが来た。


「フフ、ぶっそうだから学校まで送り迎えしてくれるって」

「気を付けてな」

「はーい、じゃ、行ってきまーす!」


 マンションの前を南に行った角で拓磨の車が待っていた。

 一応、義体反応をチェック。パッシブだから、気づかれる心配も無し。反応はグリーン。

「どうも、お世話かけます」

 親しき仲にもナントカ。ちゃんとお礼は言っておく。一応崇拝者だけど、野獣に変わらないためのオマジナイはかけておく。前のこともあるしね。


 事件は、その日の放課後にやってきた……。



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