第14話『フライングゲット』
妹が憎たらしいのには訳がある・14
『フライングゲット』
土日を挟んで幸子は学校に行くようになった。
合間の土日は佳子ちゃんが入り浸っている。
佳子ちゃんは一見口数少なく大人しい子に見えるが、なかなか心と頭のアンテナの感度がいい子だ。
幸子の事故では旺盛な好奇心を示すだけでなく、示談のやり方から弁護士の紹介までしてくれようとした。何より喜怒哀楽の表現がハッキリしていて、俺も佳子ちゃんのそういうところが好きだ……って、一般的な意味だから、念のため。
日曜は、親父が幸子の部屋の防音工事……と言うほどじゃないけど、カーテンを遮音性の高いものにし、ドアに遮音の細工をした。別に二人の声が大きいためじゃなく、幸子が自分の部屋でも心おきなく歌が唄えるようにするためのものでなんだ。
その間、俺やお袋も混じって二人の話を聞いていた。
二つのことに気づいた。
幸子は佳子ちゃんが良く喋るように巧みに話題をもっていく。
「演劇部の山埼先輩って、パッとしないんやけど、なんとなく和んでしまうんよね」
「そうそう、部員二人だけなのに、男と女の関係を感じさせないとこなんかね」
「ほんまやあ、あの二人の先輩、それは無いなあ……」
「どんなとこで感じる?」
幸子は、佳子ちゃんの感じたことに、さりげなく具体的なイメージを喚起させたり、表現をさせる。その佳子ちゃんに、
「なるほど! やっぱりね!」
などと感心してみせるので、佳子ちゃんはますますイメ-ジを膨らませて表現が豊かになっていく。
そして、幸子の表情が一瞬佳子ちゃんのそれと被って見えてしまう。
なるほど、そうやって自分の表情を豊かにしているようなのだ。
幸子の表情や身のこなしは十分女子高生らしいが、慣れてくると、いくつかのパターンの使い分けであることに気づいていた。例えばアイドルが、パターン化したリアクションになってしまうように。俺は一瞬オシメンのアイドルサイボーグといわれるMWのことなんかが頭にうかんだが、MWは人間。幸子は、ほんとうにサイボーグなんだから、当然なエクササイズと言えば身もフタもないんだけど。
ときどき見せる熱心な眼差しに人間的な友情を感じるんだけど、これは幸子に「そうあって欲しい」と願う兄としての欲目かもしれない。
日曜に宅配便がきた。
親父は大工仕事。お袋はお昼の用意。幸子と佳子ちゃんは話に夢中。
で、俺が出た。
めずらしく、若い女の宅配さんだった。
「どうも、ありがとうございました!」
元気よく出て行った宅配さんのお尻をマジマジと見てしまった。どうもスーパー温泉以来、ボクは変なクセがついた。まあ、並の高校二年の男子として、健康っちゃ健康ではある(#^0^#)のだ。 オホン!
午後からは、優子ちゃんが加わった。そこで、三人揃って、河川敷の公園に遊びに行った。
優子ちゃんのために、お花の冠なんぞを作るというので俺は遠慮した。
そして、しばらくすると幸子一人が帰ってきた。
「なにか、あったのか?」
「ラジコンの飛行機が落ちてきた」
と、慣れっこの歪んだ笑顔で言った。なぜか、手には『紅の豚』のポルコロッソの人形……。
その晩、動画サイトを見て『ラジコン墜落』というのを発見した。
『紅の豚』のポルコの飛行艇が下手な曲芸飛行をやっている。
ロングになったりアップになったり、いかにも素人カメラマン。ロングになったとき、対岸の土手で「あ、赤い飛行機!」と言っているように小さな女の子が指差している。
アッと思ったら、ポルコの飛行艇はコントロールを失って失速。水面スレスレでコントロールがもどって急上昇。かなりの高みに至ると、非常に上手く捻りこんで急降下、そのまま真っ直ぐ全速で地上の一点めがけて突っこんでいく。
――コントロールが!――
――どうした!?――
そんな声がかたわらでして、ポルコは神風特攻機のように対岸の土手に激突し、ラジコンとは思えない爆発と火柱が上がった。
その瞬間が気になったので、コマ落としで再生しなおした。
幸子とおぼしき女の子が無心に花冠を作っていて、墜落の寸前、花冠を風にさらわれて追いかける。間一髪で、幸子は直撃を免れている。墜落を予見した?
明くる日学校に行くと、その話で持ちきりだった。
俺は動画で見ただけだけど、テレビのニュースにもなったようで、みんなが「お前の妹、今度は運が良かったなあ!」と言ってくれた。
警察も来たようで、事情聴取も行われ、ラジコンの持ち主は厳重注意されたようだ。
「これ、今朝のニュース」
優奈がスマホで見せてくれた画面には、モザイクこそされていたが、見る者が見ればハッキリ分かる。
「ポルコロッソ、フライングゲット! キャハハハ」
幸子がポルコの人形をぶら下げて笑っている……予見じゃなくて墜とした……のか?
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