とてとてた

福倉 真世

第1話 とてとて た

とてとて た


君の足音が聞こえる

肉球がそっと、畳を押す


とてとて た


居なくなってしまったなんて

嘘だろ?

まだ君の毛がぶらしに残ってる

玩具も転がってる

大好きだった寝床には君の、人からしたら

少し獣くさい香りも


とてとて た


最初から分かっていたことだろうと

言う人もいるだろう

そう知ってはいたんだ

君が僕の何十倍も早く年をとること


とてとて た


面倒くさいことだっていっぱいあった

家具や持ちものをいくつ台無しにされたことか

でも、そんなのは良い

いくらだって良いから


とてとて た


優しい足音が聞こえる

誰よりも優しい足音



大好きだった



一瞬にいるだけで



僕に何が出来たろう



良い飼い主だったかな



あともう少しだけ

せめてもう少しだけ


君がここにいる。

そう思わせてはくれないか。


とてとて た


小さな後ろ姿が遠ざかる

世界で一番愛しい光景


逝かないで

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