第10話

 ギルド本部の1階大広間は、かつて無いほどの賑わいを見せていた。

「「かんぱぁぁあい!!」」

 副ギル長の帯刀の合図で、みんな一斉に手持ちのグラスを掲げる。各々ビールやらジュースやらがグラスに入っていて、乾杯でこぼれそうになっては慌てて手元に戻す人も。

「さあ、みんなお待たせ!ワイバーンの肉だよ!どんどん焼いちゃって!!」

「しゃぁぁあ!!キタコレ!!」

「男どもが焼くんだからね!」

「理不尽な!!」

 葦原 和也あしはら かずやと山本 雪奈の会話にくすっとくる面白さを感じる陽人。

「焼きマース!」

 クライスされたワイバーンの肉が、続々とバーベキューグリルの金網に載せられていく。一度乗ればジュワァァと香ばしい音と香りで周囲の人間をたちまち空腹に誘う。

 滴る肉汁、香ばしく色づく肉。全員ヨダレを啜って焼き上がるのを待っていた。

「いいねぇ。焼肉なんてやったのいつぶりだろうか。」

「なに思い老けてんだ。ほれ、ビール。」

「お、サンクス。」

 陽人の傍らにやってきたのは迩摩 和也にま かずやである。昔から陽人、遠山と共に戦ってきた同期であり、ライバルである。

「その子ら、その寝顔を見る限りちゃんと親としてやってるらしいな。」

「ああ。まあ、あまりいい親ではないけどよ。」

 そう言って陽人は、ソファーで隣に眠るエリカとエリナの頭を撫でた。

「……ん?……パパ?」

「あ、お、起こしちゃったか。」

「………なんか、いい匂いがする。」

 同時に起きたエリナが、クンクンと周囲の匂いをかんではじゅるりとヨダレを拭う。

「焼肉パーティー中だ。お前らも楽しみにしてただろ。食ってらっしゃい。」

「「わーい!!」」

 ガバァっと起き上がって一直線に駆けていく二人。

「微笑ましいな。」

「ホントだよ全く。世話が焼ける時もあるけど、まあそれもいいかなって。」

 すると、迩摩が陽人のことをじっと見つめる。

「………え、なに?なんだよ?」

「……おまえ、少し性格丸くなった?」

「みんなそれ言うな!!最近あった人みんなそれ言うぞ!!」

「いやー、だって昔はもっとこう、サバサバって言うか、トゲトゲっていうか、取っ付き難い正確だったじゃん?」

 今思い返してみれば、たしかにそんな時もあったのかもしれない。昔は特にレベルは上げのためとか、ランク上げのためとかでひたすら狩りをしてた時期があった。朝の6時から夜の10時までぶっ通しでやってた時もあった。そんなことから喧嘩腰で話したり、角張った性格をしていた時もあったなと今になっては思うが、それでも丸くなったと言われれば自分自身疑問に思うところもある。

「まあ兎に角、傍から見ればお前は随分心が丸くなったってことだ。」

「そうなんかなぁ……」


 ガチャりと広間の木製の大きなドアが開いた。

「ただま。」

 そう言って入ってきたのは遠山だった。

「遠山!随分早かったな。」

「ああ。まぁな。陽人、ちょっといいか?それと迩摩も。」

 1階大広間のすぐ横にあるバルコニーテラスに迩摩と陽人を連れ出した遠山は、なんか楽しそうだった。

「なんだお前。さっきからニマニマしやがって。迩摩か?」

「は?人の名前をこいつの汚ぇにやけ顔と一緒にすんな。」

「まあまあ2人とも落ち着けって。ちょっと吉原の爺さんから面白い情報が入ってな。」

「あの爺さんか。面白い情報じゃなくて恐ろしい情報の間違いじゃないか?」

 吉原の爺さんとは吉原 三蔵の事である。御年75歳の老いぼれヨボヨボの爺さんだが、狩人界では知る人ぞ知る凄腕情報屋。世間に多く出回っている情報はもちろん、その情報どっから手に入れたと言うようなちょっと怖い情報まで、とりあえずこの人に聞けばなんとかなる。

「で?その情報ってなんだ?」

「おうよ。それが………宝物のあるダンジョンが見つかったらしい!」

「「…………は?」」

 二人は思わずは?と声に出してしまう。

「どうした二人共?もっと喜んでいいんだぞ?金だぞ金?こんなに嬉しいことがあるか?」

 どれだけ面白い情報を持ってきたかと思えば、金の話であった。がっかりと言うか呆れてしまう。恐らくではあるが、遠山に女性ができない理由は金に目がないからであると思う。

「一応聞くが、そのダンジョン行くのか?」

「あったりまえじゃないか!!これが行かずしていられるか!!一攫千金!まさに夢じゃん!」

 やはりとは思っていたが、こいつ金にホント目がない!!

「ダンジョンの場所も教えてもらったぞ!関東平野81ブロック第32区画だとよ。」

「ふーん………ん?待てよ?その場所にダンジョンなんてあったか?」

 関東平野にあるダンジョンは、その地形が故に場所が地下と制限される。だだっ広い平野にダンジョンを作ろうものなら、それも必然的ではあるが。そして主に旧地下鉄路線のトンネルにモンスターが住み着いてダンジョンとなることが多い。しかし、このエリアは地下鉄が通っていない場所である。

「こ、怖くね?それって。」

「問題ない。何とかなるさ。」

「いやいやいや、何とかなるさで済んだなら防具なんていらないんだよ。」

「しかし、行ってみる価値はありそうだな。」

「俺はパスだぞ。エリカとエリナの面倒見なけりゃいけないからな。」

「連れてきゃいいだろダンジョンに。」

「バカ言うな!そんな危ねぇところに連れていけるかよ!俺焼肉食いに戻るから!」

 そう言って陽人は、再び大広間に戻って行った。

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