第4話

「起きろぉう!!」

 陽人はそう叫んで二人の寝るベッドの布団を引っぺがした。

「んん……… 」

「ほら起きろ起きろ!!今日は出かけるんだろ?」

「………………あと6時間…」

「ふざっけんな、はよ起きろ!!」

 寝ぼけてんのか分からんが、エリナがとんでもねえこと抜かしおるので、カーテンを開けて目を覚まさせる。

 家を出るまでは長かった。飯を食べるにも、顔を洗うにも、歯を磨くにも、眠いのかこっくりこっくり首を垂れながらなんとかやっていた。首の動きがシンクロした時は流石に吹いたが。

「パパ、今日はどこ行くの?」

「今日は………って、えぇ!?ぱ、パパ!?」

 いつの間にかおじちゃんからパパにクラスチェンジしていてめちゃくちゃビビる陽人。

「……昨日、私達とずっと一緒にいると言った……パパはパパ、お父さんはお父さん。………だから、よろしくお父さん………。」

 なんだこいつら、可愛いところあるじゃないか!!いや、もとから可愛いのは可愛いが、いつもに増して可愛いと思ってしまうのは何故だろう……。

 それにしても唐突なパパ呼ばわりは心臓に来るなー。

「今日はギルドに行く。昨日話しただろ?」

「そうだっけ?」

「ああ、そうだ。」

 街を歩いていると、至る所で白い服に白い縦長の帽子を被ったおじさんが必死に話しているのを見かけた。

「パパ、あれは?」

「宗教勧誘だよ。あまり聞かない方がいい。」

 次元断裂以降、元来日本にあった文化がほぼ無くなってしまった。宗教もその一つである。全国に分布していた神社や寺が無くなったことで、人々の信仰意識が無くなってしまったのが要因と言える。そんな中で新たな宗教がいくつか生まれたが、その殆どは闇宗教と言ってもいいものだ。そもそも人々が進行することすら少なくなったこと時代に、宗教を開くというのはなかなか大変だろうに。

「パパのギルドはなんて所なの?」

「『遊星の虹』ってところだ。」

「……加入人数87人、ギルド純資産12億6800万円、モットーは『常識の範囲内で自由!』。」

「エリナ………どうして情報を?」

「………私の特技は情報収集。……言ってなかった?」

「初耳なんですがそれは………。」

 そう言えば、こいつらの事まだほとんど知らないよな………。いくら拾ったと言っても、流石に基本情報くらいはわからんとな。

「二人とも何歳?」

「「10歳。」」

 予想通り過ぎる返答に少し動揺する陽人。分かってたけど!そのくらいの年齢とは分かってたけど!ドンピシャ過ぎないか?

 その後も聞いてく度に色々とわかる面白さ。

 エリカ:誕生日10月21日、好きな食べ物は白米と肉。 身長132cm

 エリナ:誕生日10月21日、好きな食パンと肉。身長131.9cm

 こいつらめちゃくちゃ肉好きやんけ。


 そうこうしている間に、中心市街地に着いてしまっていた。

「到着ー。ここが俺の入ってるギルド、『遊星の虹』だ。」

 12階建ての煉瓦とコンクリートで作られた建物。外見は素朴だが、中はロビーがあったり、居住部屋があったりしてなかなか贅沢。大浴場もあるぞ☆

「よし、じゃあ入るぞ。」

「「うん…………」」

 人見知りが出たせいか、二人は陽人の服の背中をがっしり掴んで離さない。なんだろう、この小動物めいた可愛さ……。尊い!

「お?やっと来たか。待ってたぞ。」

 真っ先に出迎えたのは遠山だった。

「………昨日のおじさん?」

「ん?そうだよー。ごめんね、急にお邪魔しちゃって。」

「ううん……おじさん悪い人じゃなさそうだからいい。」

 あれ?割となんか平気そうじゃないか?こいつらかなり人見知りだと思ってたけど、なかなか話せている気がする。

 と思っていた次の瞬間。

「陽人ぉぉぉお!!貴様ァ、今まで何をしていたどこに居たぁぁぁぁあ!!」

「…出た。」

 気怒 小鬼きど しょうきである。すぐキレる。そしてなんか俺に敵対心剥き出しだし。俺に「お前をぶつ倒す!!」とか指さして宣言したこともあった。理由は不明。

「貴様ァ………よくそんなクソみたいな面してノコノコと顔出せたなここに。」

「はいはい、お蔭さまで。」

「俺は今日のために腕を磨いてきたぁ!!すべてはお前を倒すため!!この手でお前をぶっ殺して」

「分かったって。悪いがそこどいてくれ。中に入りたいんだけど?」

 沸点が低い気怒を煽っていくスタイル。当然のごとく、ここで気怒が激昂する。

「貴様ァァァァァア!!!陽人ォォォオ!!てめぇ人が話してる時に遮るとは、いつまで王者気取ってんだゴラァァァア!!」

 その圧倒的な殺意と迫力。とてもじゃないけど子供に見せられない。てか、見せられたもんじゃない。ん?まてよ?子供?…………………あ。

「「うっ……ひぐっ…………」」

 あまりの恐ろしさに泣き出すエリカとエリナ。

 あーあ。やっちゃったよ。

「………え、ちょっと待って…こど、子供?」

 急に動揺し始める気怒。おいおい、さっきまでの威勢はどうした?

「ちょっと小鬼!!何子供泣かせてんの?」

 奥からやってきたのは帯刀 愛里寿たてわき ありす。ギルド副リーダーである。姐御肌な性格であるが20代前半の若さ。しかしかなりの手練。

「まぁたあんたは誰にでも喧嘩売って!いい加減成長しなさい!」

「いで!いでででで!!まてまてって!!俺は陽人を倒そうと……」

「あんたじゃあいつは倒せないよ。実力じゃまだまだあっちが上なんだから。それに九条さん、あんたも人を煽らないの。こういう奴は、無視するか適当に流すくらいが丁度いいの。」

 それじゃ自体が悪化すると思うのですが………。

「肝に銘じときます。」

「………それと、おかえり。」

 さりげなく言ったつもりだろうが、俺にはめちゃくちゃぎこちなく聞こえたぞ。と言うか、そういう優しいのワイルド系のお前にゃ似合わねぇー。

「ヒュー。モテ男。」

「うっせぇ。」

 茶化す遠山を適当にあしらう陽人。

「はぁ…そろそろ行くか。なぁ、二人とも…………」

 振り向いたそこには、ぷくぅーっと頬を膨らませたエリカとエリナの姿。なんだなんだ?

「どうした?そんなふぐみたいな顔して……? 」

「パパ、モテ男。ダメ、ゼッタイ。」

「お父さんはモテ男………不覚。」

「なんだ?何のことだ?」

 陽人には良く分からなかった。

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