対卍の百合
穏座 水際
第一話『第七使徒 ――――』1
「ごちそうさま」
美濃焼の茶碗の上に箸を置いて、立ち上がった。
焼き鮭とイカの塩辛の残り香で海めいた口の中を牛乳で流し、欠伸をしながら洗面所へ向かう。
リビングのテレビからはいつも通りのニュースが流れている。バレンタインデーを三日後に控えて、上野ではパンダをモチーフにしたチョコレートが売られているという。どこか遠い国のニュースのように、それは右から左へ流れていった。
もうジャケットを着込んで髪を整えている父と領域を争いながら鏡の前、リボルバー状の歯ブラシ立てから自分のものを探す。
「母さーん、歯磨き粉もう無い……」
「買っておくから。今日はお兄ちゃんの使って」
「うえ」
兄はまだ夢の中だろう。大学生はいいご身分だ。チューブの先端にブラシの毛を当てないようにして、薬剤だけをそこに小指の先ほど小さく出した。
頭を掻き掻き歯を磨き終えると、大して印象など変わらないというのに前髪の撫でつけ方を色々と試す父を肘で脇へ追いやり、意を決して水を手に掬う。
「つっ……!」
冷たい。肌が切れるのではないかと思うほど。そのまま顔をつけて、残る眠気を振り払う。化粧水を頬につけて、今朝における鏡との対話は終わりである。メイクは一切しない。確固たる主義主張があるわけでも学校で禁止されているわけでもないけれど、時間と金の無駄だと思っているからだった。
別に、取り立てて良い顔をしているわけでもないし。強い癖っ毛は、少しばかり繕ったところでどうしようもないのだったし。
冷水の雫をぽたぽたと垂らしながら顔を上げる。
「……よし」
赤いプラスチックフレームの眼鏡を掛け、こき、と首に手をやって鳴らす。寝不足はいつものことだ。女子の平均身長を上回る彼女には、小学校の入学祝いで貰ったベッドはやや小さすぎるのかもしれない。小気味よいテンポで階段を駆け上がり、六畳間の自室に戻って、猫の柄のパジャマを脱いだ。箪笥からブラジャーを選んで身につけながら、脚を後ろに伸ばして親指で器用にガラス窓を開け、換気をする。
途端、二月の風が吹き込んだ。
「いーっ、寒……死ぬだろコレ……」
震えながら手早く紺色の冬用制服に袖を通し、ハイソックスを履いてスカートを上げる。
学習机の上には大きなデスクトップPCとサブモニターが並んでいて、その前にタブレットが投げっぱなしになっている。本棚に収まりきらない漫画がそこら中に積まれており、お世辞にも整頓されているとは言えなかった。
だが、住まう人間にとっては聖域なのである。
首にヘッドホンを引っ掛け、兄のお下がりであるベージュのメンズ・トレンチコートを羽織って、鞄を掴む。
ぴしゃりと勢いよく窓を閉めて、鞄の紐を肘に掛けたまま、軽く拳を固めた。
脚を肩幅に開き、瞼を半ば閉じ、肺を空にするように細く息を吐く。
忙しない朝の只中に在って、思考を無に保つ。直立体位での簡易的な瞑想。拍動のリズムを自分で操るようなイメージで。
ゆっくり目を開くと、世界が変わって見えた。電灯を消したままの部屋が明るく、隅々までよく見渡せる。
「さて……行くか」
背表紙を見せて並ぶ漫画本の手前、本棚に乗せられた小さなシーサーをひと撫でして、部屋を出た。
「カズキー? 今日の晩ご飯、お鍋とロールキャベツ、どっちがいい? パパ居ないけど」
「鍋ーっ」
台所から響く声にこちらも声を張って返し、眼鏡の弦を指で押さえながら階段を一段飛ばしで駆け下りる。母の掃除はよく行き届いていて、ここを靴下で走るとかなりの頻度で滑る。幼い頃はよく兄妹揃って転げ落ちたものだ。
玄関に近付くと室内の空気もぴしっと張り詰めるように冷たくなる気がする。うへえ、ともう既に何もかも嫌になりながら下駄箱を開けて土間にローファーを投げ落とし、手袋を取って嵌めた。
「ふぁ……」
大欠伸の口元に手を当てながら、兄が階段を降りてくる。
「……カズ、髪モジャモジャのままだぞ」
「うっさいな生まれつきだよ!!」
ローファーを履くと、朝の陽射しが装飾ガラスを通して斜めに差し込む玄関のドアを開け。
冬の朝、逗子市の住宅街。吐く息さえ凍りつかせそうな風が細く吹き込む中で。
藤宮<フジミヤ>カズキは、下駄箱の上の写真に向かって小さく手を合わせた。
銀色のシックな写真立ての中では、カズキと同い年くらいに見える少女が白い歯を見せて豪快に笑っている。
「行ってきます、美笛<ミフエ>姉ちゃん」
湘南の冬の海は深く黒々として、寂しげな湾岸道においてはただ寄せては返す波音だけが煌めいた夏のままだった。
「……寒い」
凍えかさついた指の先が、首に巻いたクリーム色のマフラーを口元まで引き上げる。このマフラーも、灰色のダッフルコートも、こちらに着いてから慌てて買ったものだった。今帰仁村には、こんなものを持っている人間はほとんどいない。
海から捲り上げるような風が弧状の歩道に吹きつけて、コートの裾を騒がしくはためかせる。厚手の黒いタイツで防備した脚の上、プリーツスカートが覗いた。
線の細い少女であった。黒い髪はおかっぱ風のボブカットに揃えて、幼い子供の握り拳ほどの大きさのハイビスカスの造花をヘアピンに付けて前髪の左にひとつ挿していた。南の島からやって来た彼女は確かに少しばかり地黒ではあったが、快活という印象はまるで受けず、むしろどちらかと言えば神経質そうに見える繊細な無表情。ただ、やはりどこか日本人離れした風を帯びて整った顔立ちをしていた。
ひとり、曇天の下の海沿いを歩いていく。背は高校生の平均よりもやや低く、歩幅も小さい。ガードレールだけで仕切られた先の片側二車線を車が時折走り抜けると、そのままテトラポッドを越えて砂浜へ飛ばされそうになってしまう。あるいは風に煽られる度に、彼女は長すぎたコートの袖にほとんど隠れてしまった手を小さく挙げて顔を守り、片目を瞑った。
小さな個人商店やコンビニの向かいを歩き続け、海に背を向けて次の横断歩道を渡る。
そうして、まるでお伽話に出てくる苦難の旅人のような絵面になりながら、少女はようやく目的地へとたどり着いた。
風に荒らされた短い髪を指先で軽く梳いて直し、見上げる。
「ここ……」
私立鬼百合<オニユリ>女学院。
ヒビの入ったプレートには、そうあった。
重厚な鋼鉄の門。……と言っても、レールの上を滑らせて開ける型のごく一般的な学校施設の校門だったが、元は恐らく白銀であっただろうそれはラッカースプレーでビビッドピンクとマリンブルーに塗り分けられていた。
振り返ると、国道を挟んで海。太平洋が水平線まで見渡せるそこは、夏ならばうきうきとした胸騒ぎをかき立てる魅力的な光景をもたらすのだろう。だが今は空の白と海の黒が寂寞と広がり、潮の香りと波音が寒々しいだけだ。
少女は門に手を掛けた。冷え切ったそれを一旦は直に握って、びくっと肩を震わせ、今度はコートの袖を手袋代わりに。
「……んっ」
開かない。
鍵がかかっているわけではない。単純に、門が重くて動かないのだ。
「んん……」
全体重をかけて押し、やっと車輪が一回転、二回転と動き始めたくらいだった。
そこに、ふと――
「どいてな」
背後から、声。
振り返ると、頭ひとつ背の高い女がそこにいた。
引きずりそうなほどに長いスカート丈と、突っかけたゴムの便所サンダル。ゆったりとしたポニーテールに結われたパーマの茶髪と濃い紅のルージュ。典型的な八十年代風スケバンルックだった。所謂コスプレなのだろうか。濃紺のセーラー服の上に羽織っている防寒具は、学生コートではなく臙脂色の半纏だった。
もちろん、少女は彼女のことなど知らない。湘南の地を踏むのは初めてなのだから。
誰もが自分の顔を知っている前提で振る舞わざるを得ないということを受け入れ、しかし気取ることなど欠片もなく過ごしている長身の女との、そこが認知の齟齬なのであったが、互いにそうと気付かぬまま、女は軽く手を振って門から離れさせ、少女は離れた。
数珠のようなブレスレットをつけた左手をロングスカートのポケットに突っ込んで、校門に添えた右手にぐっと力を込める。
ごろごろと車輪が転がり、門に狭間ができていった。
「……ありがと」
ぺこり、と頭を下げる。黒い前髪が揺れた。
女は形の良い顎に手を当て、ラメの入ったマスカラが映える睫毛を瞬かせて小首を傾げた。ちゃり、と左耳だけに着けた十字架のピアスの玉鎖が金属音を小さく立てる。
「見ない顔だね。あんた、中坊かい?」
蓮っ葉な口調で、少女に問いかける。
「……ううん。高一……」
おや、と描いた眉を上げるスケバンの女。二月である。新入生が新学年を名乗るにはまだ早かろう。
「へえ? じゃあ、転校生って訳だ。まさかカチコミにゃ見えないしさ」
「……そう。今日が、初めてなの」
こくん、と少女は頷く。
「どうりで、ねえ」
半纏の腰に手を当て、少女の首元に視線を遣る女。セーラー服の大きな角襟がダッフルコートの内側に覗いていた。
「転校生、あたいは些細なこと言うつもりないけど、そいつは気を付けた方がいいね。外連<ケレン>や覇龍架<ハルカ>が見たらうるさいよ」
「……?」
「セーラー服さ。『酔狂隊<スイキョータイ>』の特権ってね」
小さく笑い、女はポケットに両手を突っ込んで門を通る。
その後に続いて――ハイビスカスの少女も、一歩を踏み出した。伏魔殿なりし鬼百合女学院へと。
背の高い女が口にした言葉の意味もよくわからないまま、遠目にも砕けた壁や割れた窓ガラス、スプレー落書きの目立つ校舎に向かう。
内地の大きな学校を見るのは初めてだったが、きっとその光景が尋常でないことには気付いていた。
それでも。
彼女には、この学校へ行かねばならない理由があったから――
「名前……教えて」
門と同様に荒廃した校舎へと並んで歩きながら。
少女は、女の顔を見上げて問うた。
「ははっ、こいつはいいや。名前なんか聞かれたのは久しぶりさね」
瞬間、きょとんとさえして見せて、女は吹き出した。
鞄のひとつも持たず、白い息を吐きながらスカートのポケットに両手を入れたままで。
「あたいは沙羅<サラ>ってもんさ。あんたは」
「謝花<ジャハナ>……百合子<ユリコ>……」
蚊の鳴くような声で、そう告げる少女のことを。
目を細めて、見つめながら歩く。
手を伸ばしたのは別に助けたわけではなく、ただ自分も通りたかっただけだ。だが、不思議なものを感じていた。
「へえ……謝花、謝花か」
……きっと。
それを縁とでも呼ぶのか。謝花百合子との関係は、これっきりでは済まないだろうと。
そんな、確信めいた予感があった。
「わたしのこと……知ってる……?」
「いいや」
かぶりを振る。
「あんたが、ちょっとだけ……似ててさ。妹に」
深緑の便所サンダルが、砂利を踏んで、音を立てて。
冷たい風が吹き抜けた、その一瞬。
「……謝花。下がってな。あたいの前に出んじゃないよ。すぐ済むからさ」
右手をポケットから出して――
百合子の行く手を遮るように、横に手を広げると――
結んで、開いて、ぼきりと鳴らす――
「よ、水恭寺<スイキョージ>……どうよ、調子は」
乳白色に塗られた校舎の脇、雨樋の陰からふたりの少女が姿を現す。
少年のように髪が短くも胸元の豊かに張り出した少女と、長い髪を半分グレーに染めた目の隈が濃く青白い肌の少女。
壁に立てかけていた木刀を背の低い短髪の少女が掴み、腰にベルト代わりに巻いた鎖を抜いて長髪の少女がじゃらりと鳴らす。ふたりとも制服姿ではなく、ジーンズの上にダウンジャケットを着込んでいた。
沙羅の背後で、百合子はマフラーを風になびかせながら目を丸くする。誰がどう見ても、学校の玄関先でお友達と会ってご機嫌ようという雰囲気ではない。寒さのせいだけではなく空気が張り詰めていくのを、肌で感じる。
「ぼちぼちさ。……随分行儀がいいじゃないか、下人<ゲニン>じゃ誰にでも元気に挨拶って教えてんのかい?」
「あァ? ナメてんじゃねーぞ……あたしら『月下美人會<ゲッカビジンカイ>』はよ、テメエらだろうが上等なんだよ」
木刀で肩を叩きながら、短髪の少女が目を細めて沙羅を睨みつけた。
「……」
何も言わず、短髪に寄り添い立つ長髪の少女は鎖の先を短く持って弄ぶように振り回す。
「美人、美人ね……はは、名乗んのは自由さね」
薄笑いを返して、沙羅は紺の長いスカートの中で脚を広げる。
左手はポケットに突っ込んだまま、右手ひとつで手招きをしてみせる。
それは、沙羅なりの喧嘩の体勢で――
どくん、どくんと、百合子は自らの心音を聞いた。熱い塊のようになった唾をなんとか飲み込む。
「三年が出てってよ、このままテメエや楽土<ラクド>になあなあで天下獲らせるわけにゃいかねえからよ――今ブッ叩いとくのが正解だよなァ、水恭寺!?」
「あんたがそう思うならそうなんだろうね、バカたれ」
苦笑して、沙羅は指をすっと伸ばす。筋肉の一本一本まで強張らせて、右に手刀の形をつくり。
短髪が、木刀を振り上げてスニーカーでアスファルトを蹴った。
「死ねやクソが、邪魔なんだよッテメエらァ!!」
ジーンズに包まれた脚を大きく一歩踏み込み、力強く足音を立てて、木刀を真一文字に振るう。
ちょうど沙羅の胸の辺りを横薙ぎに払ったそれはすっかり肋骨を砕いたと思って、百合子はあっと小さく声を漏らした。
しかし。しかし。
「……ま、いいんだけどさ。凶器<ドーグ>遣いながら鬼百合の天下ぁ語る女ってのは、カッコ悪いねえ」
十字架のピアス、揺らして。
長身の沙羅が身を屈め、短髪が振るった木刀の下をくぐり抜けていた。
腕や脚で受け止めるでもなく、自分へと全力で振るわれる凶器に突っ込んでいくことなど、普通はできやしない。――普通であれば。沙羅を突き動かしているのは少女の理性ではなく、不良の獣性であるからか。ただ喧嘩をするためだけに練り上げられ研ぎ澄まされた、天性の感覚がそれを許す。
身を翻す。セーラー服の上に半纏を羽織った古式ゆかしい不良少女が、紅の隙間から白い歯を見せて小さく笑った。手刀、振るわれると思いきや。
「爽<サヤ>ァ! やれェ!」
「……!」
長髪の女が、短髪の声を受けて猫背のままのそりと地を這うように鎖を唸らせる。
綾取りでもするように両腕の間に広げて垂らしたそれを、沙羅の首に引っ掛けようと迫るのだ。
加えて沙羅の背後では、短髪が再び木刀を構える。
左手はスカートのポケットに潜めたまま、右手で長髪の持つ鎖を掴み、上へ引っ張り上げる。上背はあるが猫背で、針金のように華奢な身体をした長髪はそのまま僅かに目を見開いて上体を泳がせた。
その胸元、抉り取るように沙羅はロングスカートに隠したままの膝を突き立てる。
……突き立てる、などと生易しいものか。沙羅の膝は、まるで破城槌のように質量を帯びて閃き、叩き込まれる――!
「……!?」
腹を鈍く重く突き上げられ、小さく呻き声を漏らして体勢を崩す長髪。よろめいて、そのままそこへ蹲る。一拍置いて、磨滅したアスファルトに膝をついた。沙羅はヒップホップのダンスでも踊るように、膝蹴りを放った右足が地に着くや否やそちらを軸にくるりと踵を返し、長髪の手から捥ぎ取った鎖の両端を掴んだまま投げ縄のように放って木刀の一撃を受け止めた。大きく腕を上げ、絡めた木刀を釣り上げるように。
それだけ器用な真似を、右手一本で。
ふたり組を相手取って、沙羅は完全に翻弄していた。圧倒的な実力差が、そこには既に厳然として在った。
統べる者としての、風格。覇気とも呼べるか。
それを帯びて、沙羅は左手をポケットに突っ込んだまま、唇の端を歪めてみせた。
「こん、のッ……!」
短髪は握る手に強く力を込めるが、勢いの死んだ凶器など恐れるに足りない。鎖ごと木刀を捻って短髪の手から取り落とさせると、前蹴りを放って距離を開けさせながら右手を再び固める。指をぴんと伸ばした形に。
同年代の平均は超えているとはいえ、さして身長が高いわけでもない。腕力も脚力も、人並みよりは上であるにしても、決して驚嘆するような域に達しているとは言えない。
ただ――その大人になりかけた女のシルエットの中に、喧嘩への天性が全て詰め込まれている。
沙羅は、そういう星の下に生まれついていた。そうとしか、思えなかった。
だって――強すぎる。あまりに、圧倒的すぎる。
便所サンダルを突っかけた足が、音高く強く踏み込まれる。右手が、振り上げられる。
「ひっ……」
「祈りな」
……息を呑んだのは、見守っていた百合子も同じだった。口元に手をやって。
目を見開き明らかな恐怖を浮かべる短髪の顔面に、沙羅の手刀が閃く。一瞬にして二打、十字の形に走る――衝撃!
「ぎ……!」
掬い上げるような一度目の平手で上体を泳がせた短髪の身体が、二度目の水平打を以て後方に吹っ飛ぶ。
校舎の壁にしたたか頭を打ちつけた短髪は一瞬で失神し、手足を投げ出して崩れ落ちた。
『月下美人會』を名乗ったふたりの襲撃者が沈黙し、校舎入り口脇には再び冬の朝の静謐が訪れる。
沙羅は半纏の裾を払い、ポニーテールを解いて結い直し、白く長い息を吐いた。
それから、ゆっくりと百合子の方を振り返る。
「……と、まあ、こういう学校って訳さね。鬼百合(うち)は」
一部始終を、謝花百合子は見ていた。
マフラーで口元まで隠しながら、線の細い輪郭をした彼女は――「視」ていた。大きなヘーゼルの瞳で。
――これが……内地の、学校……
――本当に、こんなところにいるの……?
――カズキ……
私立鬼百合女学院。街が弧状に連なり太平洋を望む湘南地域に存在する学校のひとつである。
二十一世紀、魔県・神奈川の少女たちは抗争の中にいた。
既に勢力として組織だったまとまりの形成されている横浜・川崎・横須賀と比べ、様々な学校が覇を競っている段階に在る湘南ではあったが、本来は連合の軸となり得べき巨星であり数多の不良少女を輩出してきた鬼百合女学院は、今やその内部にさえ群雄割拠の様相を呈していた。
鬼百合統一に最も近いとされる二大勢力『酔狂隊』『魔女離帝<マジョリティ>』に加え、『繚乱<リョーラン>』『月下美人會』『武狼怒道<ブロードウェイ>』を始めとする幾つもの小チームが喧嘩巧者を揃えて覇権を狙っている。
小汚い海が見守るこの街は夢すら眠る未明で、夜明けが近いのか遠いのか誰も知らない。
それでも少女たちは目指すのだ。ピリオドの向こう側を――迷わず行けよ、行けばわかるさ。
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