11話 出発の朝に その2
瑠偉と美憂がこちらに向かって歩いてくる、何時より足取りが軽い気がする。
「おはようございます。昨日は久しぶりの一人だったのでよく眠れました。
最初に言っておきますが、してませんからね」
「瑠偉、何をしてないんだ?」
天然のなのか、行為を知らないのか、煽っているのか、美憂は不思議顔で瑠偉に問いかけた。
「知らなくていいですよ…」
「そ、そうか…気になるんだが……うぁぁああ」
会話の途中で驚きの声をあげる美憂、案の定夜巳がお尻を、丹念に触っていた。
「おはようです、今日もいい張りですね、最高の触り心地ですよ」
「だ、だから、やめろと言っているだろう」
お尻を触っている手を素早く振りほどく美憂、それを見て瑠偉は、すかさず夜巳から距離を取り、後ずさりしながら椅子に腰かけた。
「織田さん、嫁をきちんと制御してほしいんだけど?」
「何度も言っているが、嫁じゃないし、結婚もしてない」
何だろう、美憂の中で夜巳が、俺の嫁と認識されている。似た者同士と言いたいのか? そんな表情で俺を見ている、しばし俺を見ていたが、溜息を出しながら椅子に腰かけ、食事をとり始めた。
テーブルを見渡しながら食べていると、俺と夜巳以外は<いまいち物足りない>と、訴えかけて様に見えた。対面に座っている美憂が、スプーンに白米をのせ、俺の方を見ながら、その手を前に突き出した。
「白米のみとか、味がしないんだけど、味付けが必要じゃないのか?」
「発想が欧米人だな、これが標準的な日本の朝食なのだが?」
標準的なと言ったが、白米よりおかずが物足りない。最低、目玉焼きが欲しい、今日も今までと変わらない、野菜中心の朝食である。
「確かに味がしないですね」
「だよねー」
瑠偉も麻衣も不満を言いながら食している。
なるほど、だから朝からカレーとか、オムライスとかが出てくるのか、納得した。
夜巳を見ると、文句も言わず美味しそうに食べている、これが普通だろう。
「おーべいかあぁっ! ソースでもかけて食ってろ!」
「ダーリン、突っ込みが古いですよ・・・50年前ほどの突っ込みです」
俺達には46年の空白があるのだが・・・
話が途切れ静かになったその時、俺は中条の気配を察知した。
気配を深く探る、距離にして3Kmぐらい先のようだ、この中央浮遊都市の住宅街だな。
『お知らせします、侵入者を検知しました。排除しますか?』
「1分待て、それから攻撃を許可する。すこしは手加減はしてやれよ」
『了解しました』
俺の右背後に立っているララさんも、気が付いたようだ。とても優秀な防御システムである。中条なら戦闘ロボットに、攻撃されても死にはしないだろう、そのまま放置しておこう。
「ダーリン、侵入者って?」
「中条だな・・・そのうちヒィヒィ言いながら、ここに逃げてくるぞ」
俺の朝食も終える、同時に部屋の扉が開き、青髪ロボットが飲み物をワゴン乗せて入ってきた、食べ終えた食器を引き下げ、定番の青い飲み物が置かれた。
「ダーリン、その青い汁は?」
「お茶の様な物だ、見た目はともかく味はいいぞ・・・そこそこだがな。
今後は緑茶にするぞ! ガイルアを倒したら、買い出しだ! 」
夜巳との問答に1分以上は費やしたな、そろそろ中条がここに来るかな?
そんなことを考えていると、テーブルの近くに中条が出現した。茶色の和服を着ていて、古風な日本の老人と言った風貌だ。ここに付いた瞬間は、焦っている表情を見せていたが、すぐに落ち着き、アゴ髭を右手で整え始めた。
「なんじゃあれは、わしの攻撃が一切効かんのじゃが?」
「戦闘用のロボットだな、一応手加減はしたぞ、次は無いと思え!
で、何か用か?」
「次は無いとか酷いのう、ぬしと連絡がとれんのじゃ、仕方ないじゃろうに。
で、そちらの銀髪の方は、生命反応が感じられないのだが、ロボットなのか?
ふむ、ふむ素晴らしいのう・・・どれどれ」
中条はララに近づき、ふむふむと言いながら、ララの全身を舐めまわす様に観察している。
「言っておくが、お前と外で戦った戦闘ロボットより高性能だぞ、俺でも破壊不可能なほど、戦闘能力が高いからな。
で、何の用だ? これ言うの2回目だぞ」
「おお、そうじゃな。視るものが全て新鮮で忘れておったわ。
そこの娘さんの親御さん達の調査が終わったぞ。・・・まぁ、残念じゃたな」
「詳しく聞かせて貰えますか?」
瑠偉は食事を中断し、中条の方を向き悲しそうな表情を見せた。
「君たちの両親は、飛行機行方不明事件から数年後に実家に戻っておる。よって、核ミサイルの攻撃は回避しておったわ。全員90歳手前で、天寿を全うしておるな。詳細とお墓の場所は、ここに記してある。落ち着いたら行くとよい。
ちなみに出雲さんには、腹違いの妹がいる。その子は、すでに40歳過ぎで、二十歳の息子がいるぞ、会いたければ手引きするが」
そう言いながら中条は紙切れを3人に渡した。受け取った彼女達は、貰った紙を神妙に見つめている。
「離婚しているし、再婚しているし、年上の妹に年上の甥・・・予想を超えたよう」
麻衣以外は、黙って紙を見つめている、ここはそっとしておこう。
「今後の事じゃが、儂の経営する高校がある。そこに編入するとよかろう、そこなら能力者が居ても問題ない」
「そうか、では中条、用事は済んだろ? サクッと帰れ」
「そう焦るな、主と連絡がとれんのじゃが、どうすればよい? ここに直接来ると攻撃をうけるんじゃろ?」
「仕方ないな・・・ララ、俺につけていたあれを中条に付けろ」
『了解しました』
ララが右手を出す、今まで俺に付いていた、銀の球体が手の上に浮いて出現した。そのまま中条の後方まで進むと停止した。
「それを触れながら、喋りかければララと通信が可能だ、そこから俺に繋いでもらえ。
ちなみに、テレポートをしてもついて来るから、心配する必要はないぞ」
「つまり、儂らを監視するという事かな?」
「連絡手段がないんだろ? こちらで新たな通信手段を、確保するまでの限定的だ。
監視はしないから、気にするな。あくまで、俺は監視はしないと言う事だ」
「ずいぶん意味深な発言じゃな。
ところで、ここのロボット事情を詳しく、聞きたいのじゃが?」
「教えることは無い! と言うか食事中だ。後日にしてくれ」
「しかたいのー、では後日話そうか。<死の流動体>の討伐報告も兼ねてな」
中条は最後に「では」と言うとそのまま姿を消した、銀の球体も同時に消えた。
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