8話 戦いの前夜 その4


 俺がララの胸を触ってから、3人と1体はしばらく沈黙のまま見つめ合っていた。

 そんな時、部屋の扉が開くと同時に、夜巳が入ってきた。


「ダーリン、お待たせーー」


 笑顔で入ってくる夜巳、後ろから食事の乗ったワゴンを押して、美憂が遅れて入ってきた。

 ララが遅れて入り口の方に顔を向けると、夜巳と目が合った。


「あ…ああ、おなごが増えちょる・・・・

 わああぁー、ダーリンはめかけ作りすぎーーーチェーーック」


 入り口から走ってきた夜巳は、ララの股めがけてタックルをした。


 ガコーーーーン


「ふぇぇぇ、またかたいょー」


 衝撃音が部屋に響き渡る、同時に夜巳がうつ伏せのまま床に崩れ落ちた。

 そのまま気絶したかに見えたが、指がピクリと動き、床に手を置き上半身を起こし、四つん這い状態になった。


「耐えたぞ、耐えきってやったわ…ハァ…ハァ…

 わぁぁぁぁ、癒しをぉ、癒しをぉー、イタイヨーおねーちゃん」


 夜巳は、起き上がるとテーブルの下をくぐり、椅子に座っている瑠偉の太ももに抱きついた。

 瑠偉は夜巳の頭を両手で押さえ、引きはがそうとする。しかし、両手を足に回して抱き着いている夜巳を、引きはがす事は出来なかった。


「治してやれよ、おねーちゃん」

「なんでこの子は、知ってるのよ?」


 そう言いながら瑠偉は、左手を夜巳のオデコにあてた。そのまま目を閉じると左手が薄い青色に発光し治癒の能力が発動した。


「癒えるよー、痛みが引いてくよー、ありがとう。処女って言ってゴメンね」と夜巳は立ち上がる、去り際に右手を出し瑠偉の胸を触った。

 夜巳は、そのまま指を動かし、膨らみの感触を丹念に確かめた。


「きゃっぁ」

「えーか……っぷぅ…ぷぷぷっ」

「Bよ! 笑わないでよ、失礼ねぇ!」


「くだらない事をやってないで、食事にしようぜ」


 ワゴンを押している美憂の方を見る、俺を見ながらこちらに近づいてきた。

 どことなく疲れが出ている感じだ。


「織田さん、色々とセクハラを受けたんだけど?」

「俺に言われても困るのだが…

 女同士だし、相手は子供だろ? 大目に見てやれよ」


 ったく、おっさんかよ、触りすぎだぞ。


 美憂は料理をテーブルに並べ始めた。見ると、御飯に赤出汁に野菜炒の3つだ。

 しかし夜巳は、俺の好みをよくわかっているな、さすがは転生してまでストーカーをするだけはある。


 赤出汁を見ながら、露骨に嫌な顔をしている、瑠偉と麻衣が気になるが。


「なにこれ?」

「瑠偉よこれは赤味噌だ、東京は白味噌だろう、見るのは初めてか?」


「これが噂聞く、名古屋人のみが食べると言われた、伝説の食材ね」

「いや麻衣よ、伝説でもないし名古屋以外でも、赤味噌の地域はあるから」


 スープ皿に入っている味噌汁、容器については今後変更する必要があるな。

 皿を持ち上げ、かき混ぜながら口に含む、旨い旨過ぎる。東京に住んで居るときは、外食しても白味噌しか出てこなかったから、余計に美味しく感じる。


「ふっふふふ、えへへへへ」


 夜巳が微笑みながら、俺に顔を近づけてきた、おそらく<うまい>の一言を、待っているんだろうが、調子に乗るから言わないでおこう。

 夜巳の顔が近すぎなのでオデコを指ではじく、当然強めにだ。


「イターーイ、もう素直じゃないんだからー」とオデコに手を当てて仰け反る夜巳、そのまま辺りを見回している。「ところで私の席は?」


「しゃーねな・・・ララ、出してくれ」

『了解しました』


「うわぁっぁ、なに? 床から椅子が出てきたよ?」

「天井からも出てくるぞ」


 夜巳は、せり上がってきた椅子を、恐る恐る人差し突く、座る部分を手で叩き、さらに何かを確かめていた。


「罠とか仕掛けてないから、さっさと座れ」


 そのまま腰掛ける夜巳、身長が足りないので足がぶら下がっている。


「ところでそちらの銀髪方はいいんですか? あと桃髪の方とか一緒に食べないの?

 妾なのに・・・」

「妾じゃねーし、タックルして気づかなかったのか? ロボットだから、食事の必要はない」


 俺が日本に居た頃は、そこそこのロボット技術があった、46年の歳月でどの程度進んだのだろうか「今の日本には人型ロボットは無いのか?」


「さすがにここまで精巧なものは無いですね、あれが現れてからは、兵器関係に科学技術が集中してますからね」


 そのまま食事をしながら夜巳は、現在の生活環境について聞きだした。それによると、俺が宇宙に強制的に旅立ってから、劇的な発展していなそうだ。車は電気に変わってはいるが、相変わらず地面を走っている、飛行機も今もジェットエンジンで飛んでいる。


 コンピュータに関しては、量子チップはいまだに研究段階らしい、シリコンチップの進化もほぼ停滞しており、ここ30年ほど足踏み状態だとか。中条がここの科学力に、興味を示すのも解るな、提供はしないけどな。


 会話の切れかけを狙い、瑠偉が話かけてきた。「ところで、なんで私の能力が解ったのですか?」

「私の力は一つだけではないんですよ? ダーリンの側では抑制されて予知能力は使えませんが、どんな能力が使えるか、又は眠っているかを見ることもできるんです。

 ふっふふふ、尊敬してくれていいですよ?」


「へー、凄いですね・・・」


 食事をしながら聞いていた瑠偉は、そのまま興味なさそうな顔で相槌をした。

 美憂と麻衣も興味ない! といった顔つきだ。


「もっと、驚いてものいいよ? さあ、私を尊敬するのです!」


 瑠偉達は黙々と食事をしている、よほど夜巳を嫌ってるようだ。つまりセクハラは嫌われるということだな、そして子供に触られても彼女達は、笑って受け流す心は持ち合わせていないようだ。まぁ、中身が子供じゃないからかな。


「むーむむむ…妾なら、もっと正妻を盛り立ててください!」

「妾じゃねーし、妻も居ねーからな」

「まぁいいですよ、今はね・・・ふふふふ」


 今はか・・・何か知ってるのか? 聞きたくねーけど。


「夜巳、送っていくから飯食ったら家帰れよ」

「帰りませんよ? 今日からここが私の家です、夫婦は一緒に住むのは当然ですからね。

 ちなみに孤児院暮らしですので、両親の心配は無用です。

 あと痕跡消滅の処理はしておいたので、私が居なくなっても問題はおこりません」


 居座るのかよ、めんどくせーな。

 それより痕跡消滅とか、今まで詳しく聞けなかったが、どうやら複数の能力を持っているようだ。夜巳は成人するまで放置しよう、それから考えるか。


 喋りながらの食事も終えかけた頃、出入り口の扉が開いた。何時もの給仕ロボ、が飲み物をもって部屋に入って来て、食器を下げると同時に、飲み物をテーブルに置いて去っていった。


 さて、そろそろ夜の時間だ。瑠偉と美憂を個室に追い出して始めるとしよう。


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