6話 戦いの前夜 その2


「ただいまー」と麻衣が元気よく扉から入ってくる。

「あの子、居ませんね・・・帰ったようですね」と瑠偉が部屋の中を、見渡しながらベットの前まで歩いてきた。


「居まーす、ここに居まーす。下してくださーい」


 上から声が聞こえ、3人は一斉に天井を見上げた。そこには大の字で天井に張り付いている、夜巳の姿があった。


「うあぁぁ・・・随分変わった寝方ね」

「最近のお子様は変わってるね」


 そう言いながら、麻衣と瑠偉は天井を見ながら、テーブルまで行き椅子に腰かけた。


「な、なあ…助けなくていいのか?」


 美憂は天井を指さして、瑠偉と麻衣に向かって心配な表情をしていた。


「私の力では無理ですね。麻衣、あなたが助けてあげたらどうですか?」

「え~、何か嫌な感じがするんだけど・・・」


 全く助ける気がない2人を見ながら、「まぁ、いいか・・・」と言いながら、美憂も椅子に腰かける。


「よくないですー、助けてくださいよー。

 股の臭いを嗅いだことは謝りますから! 処女って言ってごめんなさい!

 ほら、はやく、はやく、ヘルプー!」


「麻衣?」と嫌悪な表情の瑠偉は、天井の夜巳を見ながら下す様に促した。

「あの子、なんか兼次ちゃんと同じ匂いがするんだよね・・・」


 麻衣は天井に張り付いている夜巳を見る、夜巳はニコニコ笑顔で麻衣を見ていた。目が早く早くと訴えてかけている。


「しょうがないなー」と麻衣は右手を上げ夜巳に向けた「うぎぎぎぎ、なに? 動かない。さすがは兼次ちゃんね」何時ものように力をこめるが、夜巳の体を動かす事ができなかった。麻衣は立ち上がりさらに力をこめる「50%だぁー!」


 夜巳の体が天井から離れる、手が自由になったのか、右手を麻衣に向け拳を握り親指を出した。


「ナイスです、お胸様! そのままゆっくり下してください」

「むねむね、言うなー」


 麻衣は右手を勢いよく下に振りぬく、すると同じように夜巳の体も勢いよく落下すると、ちょうど真下に寝ていた兼次と、オデコ同士が勢いよくぶつかった。ゴツンと鈍い音と共に。


「いたーーーいいい」

「イテェエー、なんだ、敵襲か?」


 夜巳と兼次は、オデコに手を当て同時に起き上がった。


「グッジョブです麻衣」と嬉しそうな表情で、麻衣を称える瑠偉。

「「ははは・・・」」と乾いた笑いをする、美憂と麻衣。


「イタイヨー、コブが二つに」


 夜巳は頭を押さえながら、近くに立っていた麻衣に向かって走って行き、麻衣に抱き着いた。


「なにするんですか! ゆっくりって言いましたよね?」

「いやぁ、つい力が・・入っちゃった」


「胸かぁ! この胸が悪いのかぁ!」と言って夜巳は、麻衣の谷間に顔を埋め込み左右に振る。「柔らかいよー、フカフカだよー、癒えるよー」


「イヤーーーーーーーーーー」と言いながら、夜巳を力で吹き飛ばす麻衣、飛んだ先には兼次が居たが、彼は素早く回避した。


「ったく、騒がしいな。リヴァララ、食事を頼む」


 俺はベットから降りテーブルに向かって歩いていく、椅子に座り後ろを振り返るが、銀の球体はそこにはない。


「ああ、そういえば休眠していたか・・・しかたない外に食べに行くか」


 その時ベットから勢いよくテーブルに向かって夜巳が走って来た。


「まってー、私が作ります! ふふふ、お米とお味噌を持ってきましたよ。さあ、妻の手料理を食べるのです!」

「よし、作ってこい」


「おっけい、待てってねダーリン」と夜巳は勢いよく走り、部屋から去っていった。

 俺は扉が閉まるのを確認し、立ち上がる「よし、みそカツでも食べに行こうか?」


「みそカツ? 普通はパスタじゃないですか?」

「瑠偉、なぜそこまでイタリアンにこだわる?」


 そこで突然部屋の扉が開いた、全員が開いた扉に視線が集まと、そこには夜巳が立っていた。おそらく調理場の場所が解らず戻ってきたのだろう。


「こりゃーーー、私を置いていこうとするなー! 児童虐待ですよー!

 そして、台所はどこよ!」


「美憂よ連れてってやれ」

「えー・・・・しかたないなー」と嫌そうな顔をしながら、美憂は渋々了承した。立ち上がり扉まで歩いていく。


「こっちだ、行くぞ」


 美憂と夜巳はそのまま扉から出て行き見えなくなるが、すぐに夜巳が扉から顔を出した。


「待っててくださいね、絶対ですよ!」


 ・・・しかたない、待つか。

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