第26話「語られる過去」
「ここは……?俺は……俺は誰なんだ」
目覚めた優は、頭を抱えながら辺りを見渡す。木を主調とした和風な家の畳の上に、優は寝ていた。
そこへ近づく男。優の義理の父親、切夜だった。
「目覚めたかい?はじめまして、俺の名前は桐原切夜。よろしくね。早速だけど、君はディザスターインパクトの影響で気を失って倒れていたんだ。そこで、俺が拾った。どうかな、俺と一緒にここに住んでみないか?」
切夜から視線を離し、沈む優。
「…………俺の、名前は?」
「あ、ああすまない、君は、今日から桐原優だ。俺は最低な人間だけど、俺と、暮らしてくれるか?」
「桐原……優。分かった、よろしく、切夜、さん」
切夜は、優の笑顔を見て、にっこり頷いた。
「ああ、よろしく」
「……んん……」
あれから3日程経ったある日、優が目覚めると、そこは彩乃の部屋だった。
ゆっくりと上半身を起こし、安堵の表情を浮かべる優。
「父さん……」
先の戦いで生き残ったコネクトアイズメンバーはリーダーである軍服の覇剣を含む3人。
大剣使いを含んだ4人の討伐に成功した。
対コネクトアイズはあの日をもって解散。現在に協力関係はなく、いつものように殺し合いを続けていた。
あれ以降、ずっと彩乃の家に居座っている戒と、レイン。
「って!お前いつまでいるんだよ赤のレイン!!」
リビングのテーブルに肘を付いてくつろぐレインに、戒は罵声を飛ばす。それを台所から傍観してクスクスと笑う彩乃。
「え〜だって優が全然起きないから〜」
「だからなんでそんな馴れ馴れしいんだよ!あっち行けあっち!」
「馴れ馴れしいのはそっちだろ〜?その日暮らしの俺にそんな酷いこと言うんじゃないよ」
「だ、大丈夫ですよ戒さん、この家無駄に広いですから」
そう言って、2人を和ませようと笑顔を作る彩乃を横目に、レインはにやにやしながら戒に言う。
「ほらほら、優の彼女もこう言ってるし〜」
レインがそう言った瞬間、戒が口を開くより先に彩乃が顔を真っ赤に染める。
「かっ、彼女じゃないですっ!!……あっ優さん」
優がリビングに顔を覗かせた。
「おお優!起きブファッ!?」
飛びつこうとした戒を跳ね飛ばし、レインが優の前に素早く立った。
「久しぶり優!」
「え、ええっ、あ、あの」
優と2人で話がしたいと言うレインは、彩乃と戒を残して、優と外へ出ていた。
レインは、河川敷の原っぱへ腰を下ろすと、嬉しそうに話し出した。
「生きてたんだな優。また会えて嬉しいよ」
「……ごめん……俺、分からない」
「……な、なんでよ?」
優の記憶には、レインという男は存在しなかった。恐らく、記憶のない10年前以前の知り合いだったのだろうか。
「実はさ、俺、10年より前の記憶がなくて……」
「そうなのか!?あ、ああ俺と優が一緒にいたのはちょうど10年前だからな……」
「聴かせて、ほしい、10年前のこと」
「……分かった」
優とレインは昔、尾神(おがみ)というおじさんの家に引き取られていた。レインは親がおらず、偽界を彷徨っている内に拾われ、優は0歳の頃元の家族に預けられたという。
偽界では子を宿すことはできない。つまり、優は0歳の頃偽界に転移したということになる。
共に尾神優、尾神レインという名で生活していたそうだ。
2人は仲が良く、毎日のように外で遊んでいた。レインが2つ年上な所為か、まるで兄弟のようだった。
そんなレインを、優はレイン兄と呼び、とても慕っていたそうだ。
だが、尾神さんが突然偽界中で培養した病気になり、倒れてしまったのだ。優より年上のレインが家事のほとんどを行い、優は1人で遊ぶようになった。
そんなある日、事件が起きた。
ディザスターインパクトだ。
10年前、第2次偽界戦争終了直後、原因不明の大災害が偽界を襲ったのだ。
地が割れ、空からは隕石のような粒子が降り注ぎ、偽界は火と血で真っ赤に染まった。
被害者は1万人以上にも及んだという大災害となったのだ。
尾神さんやレインが住んでいたセーフティータウンは被害が最小限だった為、2人は何とか無事だったが、その日1人で出かけた優は、二度と帰って来なかった。
自分が優を1人にしたからだと責任を感じ、偽界を走り回ったレインだったが、優が見つかることは遂になく、尾神さんも病いに倒れた。
やがてディザスターインパクトで優は死んだのだと思い始め、レインは自分を責め続けてずっと1人で生きてきた。
目に涙を溜めながも語り切ったレインは、優を向き直る。
「んで、お前に会えた。ほんと、生きててよかった。ごめんな優、1人にしちまって」
「そんな、ことが……」
「少しずつでいい、また昔みたいにやろうぜ。今度は、向こうの世界で!さあさあ腹減った〜!飯飯〜!」
そう笑顔で言いながら家へと戻るレインへ、優は笑顔を返すことができなかった。
こんな過去があったとは、知らなかった。
それに、尾神さんという人がかかった病気は、舞友実の病気と同じなんじゃないか?
自分が時々見ている夢は、ディザスターインパクトの夢なのではないか?
自分の本当の名前が、尾神優ということ。
自分の母親である祈凛と、優の本当の父親が、15年前から既に偽界にいたということ。
そして、祈凛と、本当の父親は自分を迎えに来てくれなかったこと。捨てられたの……か。
様々なことが優の頭をよぎり、頭を抱える優。
考えている内に、太陽は沈みかけ、空は真っ赤に染まっていた。
それを見かねた彩乃たちが、背中を向ける優に言う。レインや戒は、なにやら炭や網などを運んでいる。
「優さーん!!」
「優!バーベキューしようぜ!肉肉!」
「肉肉うるさいんだよ〜、ほんと筋肉バカだな君は」
「はぁ!?お前よりは頭いい自信あるね!」
「拳で戦うキャラクターは大体バカなんだって〜」
「お前の主観押し付けんじゃねぇよ!」
そう喧嘩する戒とレインを離れて、優に寄り添う彩乃。
「どうしたんですか?」
「いや……昔の話を聴かされてさ……なんか、俺ってなんなんだろうなって」
泣きそうな顔を浮かべる優。親に捨てられたことや、レインを10年間も苦しめてしまったこと。様々なことが優の胸を締め付ける。
そんな優を見て、彩乃は僅かに笑う。
「優さんは、優さんです。優しくて、ちょっと抜けてて、自己犠牲が強くて、みんなの為に頑張れる。そんな人です。私は、そんな優さんが、好きですよ」
「……っ」
「優さんはあの日。私たちはあの日偶々出会っただけの関係だと言いましたけど……私はあの日優さんに助けられて、今ここにいるんです。それって……本当に凄いことだと思いませんか?」
優の今にも泣き崩れそうな顔を見てハッと我に帰った彩乃は、頬を急激に赤らめる。
「あっ、いっ、今のは!!ああそのそのなんというかぁぁ!」
「おーい!イチャイチャしてないで手伝ってくれよ!」
「バカか君は?!空気読みなさいよ空気を!」
「はぁ!?お前は黙ってろよ!!」
そこへ、戒とレインの声が届く。
「さ、行きましょ!」
「……うん」
彩乃が笑顔で優の手を引く。
それに優は、薄っすらと笑った。
過去に何があっても、今の自分は、桐原優だから。
ーENDー
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