第24話「また会えるその日まで」
「来ちゃダメ」
そう言った舞友実は、優を近づけまいと、手の平を前へ伸ばす。
「っ……」
そこで優も立ち止まり、伸ばした手を引き戻した。
「ま、舞友実……どうして……」
優の顔を見て微笑んだ舞友実は両手を背中に回し言う。
月の光が草木や川を流れる水、舞友実の笑顔を照らしていた。
「優君、久しぶり!今、優君は夢を見てるんだよ。だから死んじゃった私に会えてるってわけ」
「ゆ、夢……?」
「覚えてない?優君、大剣使いに豪快に刺されちゃったんよ……」
優は舞友実の言葉にハッとなると、無力な自分に呆れるように微笑しながら、深く俯く。
「そう……だったな……俺、死んだのか」
「違う。優君は生死を彷徨ってるの。今、色季さんが頑張ってくれてる」
「色季……さん……?……!?そうだ、みんなは……」
「大剣使いに押されてる。だから優君、こんなとこで死んじゃダメでしょ?」
「でも……俺が行ったところで……また……舞友実を守れなかったように……」
「このままだと色季さんやお兄ちゃんやみんなが死んじゃう」
「でも……俺は……弱い。舞友実だって……俺なんかに会わなければ……」
「何言ってんの!」
そこで、舞友実は優に強く叫ぶ。
「優君にはみんなを守る力があるでしょ!私を守れなかったんだから、残った人たちくらい守り抜きなさいよ!!それに……私は!優君に会えて、優君と一緒に過ごせて……嬉しかった!優君が、大好きだった!!」
「!!」
顔を強張らせた舞友実は、愕然とする優に、更に続ける。
「だから……優君。君にこれ以上……失ってほしくない。失わなければ強くなれない。それは違う。誰も失わない為に、強くなるの!」
そう言った瞬間、強く風が吹き、優のコートや、髪を舞い上がらせる。
舞友実に対して慥かな表情を見せ、口を開く。
「……分かった……分かったよ、舞友実。今度こそ……」
「ふふん!それでこそ優君!私が惚れた男!」
自信満々の表情で胸を張り、恥ずかしげもなくそんなことを言う舞友実に、優は少し頬を赤らめ、下を向く。
やがて顔を上げ、勇壮と言い放つ。
「舞友実、俺、あの時お前に頷けなかった。今、もう一度約束させてくれ」
「えっ」
強く一歩を踏み込み、舞友実を抱き締める。
流石の舞友実も、一瞬にして頬を赤く染めた。
その瞬間、暗闇に覆われていた空を、地平線から抜け出した真っ赤な陽が照らす。
そして、優は目を閉じ、小さく呟く。
「俺はみんなを、戒を、必ず現実世界へ連れ出す。約束する。絶対」
「ちょ、ちょ、優君!?」
優は、それ以上は言わなかった。
舞友実も、焦燥していた表情を緩ませ、瞼を閉じる。そっと微笑み、優の胸に身を預けた。
「あ、あと……俺の見る夢のことなんだけど……」
舞友実を離した優は、再び口を開いた。
ふと、夢の中の女の子のことが頭をよぎったからだ。
だが、優がそこまで言うと、舞友実は指を優の唇に合わせ、遮った。
「そのことはダメっ。私、死んだからもう分かっちゃってるんだよね〜」
「な、なにが」
と、そこで、優の耳に声が届く。
『優君!優君!優君!』
「あ、色季さんの声……い、行かないと」
「ほらほら!早く行った行った!夢のことに関してはその内分かるから!」
「え、ええっ」
「あーもう時間ない!」
舞友実は、彩乃の声に後ろを振り向いた優の背中を押し、その場から距離を置かせる。
離れた優は、再び舞友実を振り返った。
「じゃあね優君!ファイト!」
「……うん、じゃあ……また会えるその日まで」
「そんなの来なくていいから!生きて!優君!あと約束、絶対守りなさいよ!」
「うん。必ず」
笑顔で優を送る舞友実。優はその笑顔に応え、別れを告げた後、光に包まれて消えた。
「優君!優君!優君!」
心臓マッサージを続ける彩乃。未だ、優は目覚めない。溢れ出る涙を振り払い、それでも諦めず優を呼び続けた、その時。
「ブッ!?ぶはぁっ!!……ケホッ、ケホッ」
優の口から血液が漏れた。
何度か濁った咳を繰り返し、薄っすらと目を開く。
そして、呆気にとられた彩乃を見て、掠れた声で言った。
「色季……さん」
「優君!!優君!よかった……よかった……」
彩乃のこれまでにない笑顔が、優を覆う。
嬉しさのあまり彩乃の目には涙が浮かんでいた。
「色季さん……舞友実……ありがとう」
彩乃と共に身体を起こし、立ち上がった優。
無残に殺されてしまった相原の死体を確認して、表情を歪ませた後、再び彩乃を見る。
「ここにいてくれ。絶対、もう誰も死なせない」
「うん」
それに、彩乃は笑顔で頷く。
「ぐはぁっ!!!」
血だらけの戒。先程まで優たちがいた廃墟の壁に打ち付けられ、最早死を待つだけの状態にあった。
戒を除いた残りメンバーも残り5人。もう誰にも戦意などはなく、皆硬直状態にあった。
それでもまだ戦おうと起き上がる戒に、大剣使いは気だるそうに蹴りを入れる。
「ぐはっ…………」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
戒にはもう、立ち上がる力すら残されていなかった。
大剣使いは大剣を空高く振り上げる。
「シ……ネ……」
そして強く振り下ろされた大剣を、何かが弾いた。
カキィィィィィン!!!
「!!」
優が戒の前に立ち塞がり、攻撃を防いだのだ。
先程とは桁違いの強大な優の力に、能力により理性を失っていたはずの大剣使いは、一歩、二歩と身を引いて行く。
ゆっくりと顔を上げた優は、小さく、それでも強い声で言い放った。優の持つ2本の刀は、段々と緑の光を灯していく。
「能力……強化……開始っ!!」
能力。それは偽界戦争を有利に進める為の切り札であり、弱点。
優は、自分の、蒼黒の能力を戦争参加者たちに知られまいと、2つ目の能力を隠してきた。能力を知られるということは、自分の攻略法を知られるようなものなのだから。
それを今、解放した。
みんなの命を、守る為に。約束を、果たす為に。
ーENDー
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