第21話「友の帰還」

2時間前。


「……っ!っ!」


何もない空間にパンチを撃ち込む戒。優への復讐を果たす為、優を捜しながらも、今日も1人特訓を行なっていた。

苛立ちからか、付近の樹木を粉砕する。



そこに近づく足音。

気配を察知し、汗を振り払い音のする方を見る戒。


そこにいたのは、アブソルートキルの最強幹部、神夢囲一馬だった。

不敵な笑みを浮かべ、少しずつ戒へと歩み寄る。


「誰だお前」


一馬を睨み付ける戒だったが、次の瞬間、鋭く尖っていた目を大きく見開いた。

一馬が攻撃を仕掛けてきたのだ。


一瞬にして戒との間合いを詰め、能力により形成した透明な防御壁を戒へと叩きつけた。

この防御壁は、一馬の手の動きに連動して動く。


次々と迫る防御壁を、能力の鉄拳により強化した拳で防ぐ戒。

だが、抵抗も虚しく、一馬の伸ばされた腕は戒の首を捉える。


「お前……なんだっ!戦争参加者か!?」

「ああ。俺、神夢囲一馬。テメェを殺しに来た」


「……なっ!いきなりなんだ!」


首元を掴んで見上げる一馬の手を両手で握り締め、戒は叫ぶ。

「テメェが今組んでる奴、かなりヤバイ奴でね。今のうちに潰しておこうってわけだ!」


戒は、連続して繰り出される一馬の能力攻撃に気を取られ、背後から一馬の蹴りが迫っていることに気が付かなかった。

振り向いた時には既に、一馬の蹴りは戒の腹を捻っていた。


「ぐふぅっ!?」


衝撃波と共に後方へ吹き飛ぶ戒。

痛みで意識が飛びそうになる。


「ったく……弱えな」

一馬は耳をほじくりながらつまらなさそうに言う。


「はぁ……はぁ……」




「お前、妹いたろ?」

「!?」


「その妹を殺したのを桐原優と勘違いしてせっせと頑張ってるようだが……残念ながらそりゃ違う」


「ど……どういう……ことだ!」


腹を抑え、苦しみながらも立ち上がる戒。一馬から放たれる一語一語を、耳を澄まして聴いていた。



「まあつまり、テメェの妹を殺したのは俺らってことだ」

「なっ……に……!?」


「桐原優は妹を守ろうとして懸命に戦ってたぜ?俺にぶっ飛ばされても何度も何度も立ち上がってなぁ!」



戒の顔が、後悔と絶望の色に染まる。

全部、自分の勘違いだったのか、と。

それと同時に、一馬への殺意と、優への喪失感を覚える。


「お、俺は……お前っ!!マジで言ってんのか!?」

「まあ、多少は同情してやるよ。だがなぁっ!!」


「テメェッ!」


「これが戦争だっ!!」


嘲笑う一馬に向かい拳を振るう戒だったが、一馬の圧倒的な力を前に為す術もなく倒れた。


「ぐっ!」


「桐原優に弁明したいだろ?でも残念。俺はテメェを殺しに来たんだ。真実を知って絶望しきってる奴の心臓を抉るのは心地よくて仕方ねぇ」



地面に這う戒。もう身体中が泥だらけだった。

一馬の台詞に更なる怒りを覚え、血が滲むまで土を握りしめる。

僅かに勝てないと悟るが、それでも一馬を殺してやろうと立ち上がる。


「そういえばよ、桐原優、対コネクトアイズに参加してるらしくてよ?そんで俺がコネクトアイズのリーダーに作戦を教えてやったんだよ!ははっ、今頃桐原、作戦失敗で死んでるかもなぁっ!」


「なっ……優っ」


その言葉に、戒は今すぐ優の元へ行くと決心した。優を助けねば。という思いが足を動かす。

鉄拳で地面を強く殴り、砂埃を起こす。


「なっ!?テメッ……」


一馬が怯んだ隙に、全速力でその場から離れる戒。

対コネクトアイズの大まかな作戦は耳に入っている為、優が参加しているというならば大体の場所は分かる。

優を助けなければ……


しかし。


「ぐはぁっ!!」


一馬はそれを逃がさない。


「テメェはここで死ぬんだよぉっ!!」


再び、一馬の鋭い蹴りが戒を次々と襲う。

青い森が、赤く染まった。





そして、現在。

優や彩乃、相原を含む前衛チーム6人と、大剣使いの激闘が行われていた。

互いの武器が重なり合う度、放たれた衝撃波が地を揺さぶる。


「はぁぁっ!!」


バキンッ!!


優が先頭に立ち、次々と来る大剣使いの攻撃を受け流す。と言っても、メンバーに蒼黒と気付かれない為に、2本目を抜いていないので、優にとってかなり危うい状況である。


頭部目掛けて振り下ろされた大剣を、優が夜那で防御し、そのまま流して地面に落とす。

あまりの勢いに地面に突き刺さってしまったようだ。右手を封じた。


大剣使いが左手に持った大剣を優の首を跳ねまいと横から迫る。

それをしゃがんで回避。


「なにっ!?」




優の奮闘を傍観するメンバーたち。格の差を理解しているようだ。


そんな中、彩乃は、相原と共に大剣使いの背後に回る。


今、大剣使いの背後はガラ空きだ。


「色季さん!」


「うんっ!」


「行って彩乃ちゃん!」


相原の声援を背に、彩乃は相原の装備していた中型の盾を踏み台にして、高く飛び上がり剣を両手で振りかぶった。

一気に振り下ろして、背中にダメージを負わせるっ!


「はぁぁっ!!」




「!?」


ニヤリと笑う大剣使い。


大剣使いが右手を突き刺さった大剣から離した。

そのまま大きく身体を捻らせ、右手で彩乃の横腹に思い切り拳を打ち付けた。


「きゃぁっ!」


「お返しだ」


そして、ニタッと笑う。

持ち変えた左手の大剣を優へと再び斬り付ける。


「おるぁぁああっ!」


夜那でなんとか防御する優だったが、あまりの衝撃に後方へ吹き飛ばされてしまった。


大剣のような強力な武器は、上からの攻撃は下へ流せるものの、横からの攻撃を防御しようとしても、あまりの力により夜那のような日本刀では防御仕切れないのだ。


「ぐっ!」


ドゴォォン!


動揺する相原やメンバーに見向きもせず、倒れた優へ急接近する大剣使い。


「優君!」

叫び、大剣使いを止めようと足を動かす相原。だが間に合わない。


他のメンバーは大剣使いの有り得ないスピードに驚愕し、動けないでいた。



「ゆ、優さん!」

彩乃は先程のダメージにより立つことすらできなかった。




なんとか夜那を杖に片膝をつかせた優だったが、目の前には既に2本の大剣。

見上げた時にはもう左右斜めからX字に迫っていた。


「なっ……」


「死ねぇぇっ!!」


大剣使いの異常な程の声高と迫力に、思わず優は目を瞑った。


ギュィィィン!!


が、いつまで経ってもそれは優の身体を抉ることはなかった。

恐る恐る瞼を開ける優。


そこには2本の大剣を、鉄のように輝く銀色の拳で全力で受け止める男の姿があった。

その男は服の所々が破れていて、汚れていて、更には全身血まみれだった。


男は振り返りこう言う。


「無事か?優」




「……戒っ!」


ーENDー

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