幽霊の扉

鈴川教徒@

第1話

空は快晴、気分は良い。

普段通りの見慣れた道ですら、神秘染みた何かに見える。まぁ本当は変わらずただの道な訳だが。

「ハハハ!!楽しいなぁー!!嬉しいなぁー!!」

何が楽しいのかは誰にもわからない。勿論、当の本人もだ。

「なにやってんだろう……俺……」


空は快晴、気分は実はあまりよくない……


時は少し遡る。


「なぁ、知ってるか?幽霊の扉って都市伝説」

「おい、やめろ。お前の言う都市伝説って洒落にならないレベルで本当になるから!」

「突如現れる扉をくぐると、魂がぬけちまうって話なんだが……」

「おい!やめろよ!あーあー聞こえないー!!」


放課後の教室、耳をふさぎ奇声をあげる青年。それが俺だ。


「……って話でな、面白そうだろ?」

「面白くないわ!」


俺は話を聞かないように努力したのだが、無理だった。

扉をくぐると魂になって、一時間以内にもう一度扉はくぐれば元に戻れる。戻れなかったら一生そのままだそうだ。

へーこれを体験するのか~俺。


話の後、俺は帰路についた。


「まぁ現れるわな。謎の扉」

あの友人と関わると、このような事象はありふれている。階段は普通に13段ある、音楽室の絵は話す、人体模型は走る。

いちいち驚きはしない。


「遠回り…」


華麗な180ターンを決めて、遠回りを決意する。急がば回れだ!!


しかし、後ろにも扉はあった。


……ふむ。扉の脇を通ればいいかな?


ガチャ……


「何故開く?」


ひとりでに開く謎の扉、向こう側は光に満ち満ちている。


―――風が吹いた。


追い風だ。凄い勢いで吹き荒れる。


「す、吸い込まれる!!」


正確には押し込まれるだが。

必死に抵抗したのだが、抵抗虚しく扉の中へと追い込まれてしまった。



で、気がついたら体が透けていて、今に至る。という感じだ。

 

現実逃避で走り回ったのは懐かしい記憶だ。

疲れていたんだな。この程度の現象で動揺するなんて。


「話通りだと、もう一度扉に入れば良いんだっけか」


しかし、扉はない。あれば現実逃避などせずに無言で戻っていったはずだ。


簡単には見つからない、か。


「探すしかないのか……」


何処に現れるかを推測する。始めは帰り道だ。偶然にも人は居なかったが、普段ならば人は通る普通の道。


ならば、人が居ない場所にあるのが普通の推測。

しかし、範囲が酷く広いな。

仕方がない。しらみ潰し、これの他に生還はない。

ついでに、霊体を楽しもう。この体は壁を透けるからな。俺に立ち寄れない場所はないぜ。


「まずは、あいつの元へ向かうか」


行き先は友人A。ちなみに名前は田中 一(たなか はじめ)だ。


「おい!!聞こえるか!!はじめ君!!おいゴラァ!てめぇのせいでこんな目にあったぞ!おい!助けて!何でスルぅー!?ねぇ、ねぇってば!!」

「……」


結論をいうと意思疏通は無理だった。

この姿では、言葉は通じないそうだ。


悔しいので、部屋に向かって、探索してやる。黒歴史の一つでも持ち帰って、今後の生活に行かそうと思う。


「ほうほう。何故か立ち入らせてくれないやつの部屋に入ってやったぜ。くくく」


部屋の中は普通だ。はじめの家には何度か行ったことがある。しかし部屋だけは入れさせてくれなかった。待望の部屋だ。


本棚、机、ベッド……etc.

普通だな。


「拍子抜けだ。もっとなんか、ヤバそうな部屋だと思ったんだがな」


都市伝説が現実になるし。妙に裏がありそうな言動をたまにとるしな。


ふと、本棚へと目を移す。

―――何か変だ。

ここの段にある本と、そこの段にある本は、同じ大きさのはずなのに、微妙にこっちのほうが前に出ている。


「何かあるのか?」


エロ本にしては凝った隠し方だ。


――――あ、


残念ながら、この体ではものを動かすことは出来ない。盲点だった。


だが!!体をこうして透かしてやると、ものを透かして見ることが可能なのだよ。いわゆるスペクテイターモードさ。


『ふくしゅうノートNO.2』


見たことあるぞ…これは…


「ま、まさかね。ハハ、伝説のふくしゅうノートがこんなところにあるなんて…」


あるとしたら、人が死ぬぞ!!


俺は何も見なかった。

No.1なんか知らない。


ボトッと何かが落ちる。


ノートだ。

何で落ちるの?俺は霊体だよ?


開かれたページにはそれはもう恐ろしいことが書かれていた。


SAN値が50減った。


「あいつには、黙っておこう。うん。見ちゃいけないものは誰にだってあるな。うん」


時間はあと20分程度か。時間がないな。


「どうしたものか。……焦るな、考えろ」


出会いは唐突に、別れは必然に。


そうか!!わかったぞ!!


俺は走っていた。何処へ?知るか!何処かだ。

無意識の先に運命がある。今までだって走ってればどうにかなった!

言っておく!俺の衝撃の告白だ!

実はなぁ!!俺は陸上部なんだよぉ!!


どうでも良い、告白だ。


―――うおぉぉぉぉ!!!!!


その瞬間に限った話、彼は光の速度に達した。霊体だからか、それとも陸上部だからか。

ものすごい速度だ。時間すらスローに感じる。最高速だ!!


―――助けて欲しい――はい!!助けます!!

―――苦しい―――はい!!これで大丈夫か!!

―――死ね―――断る!!俺は生きる!!


走りながら、数々の同業者を助ける。これでこの辺の幽霊はもう居ないことだろう。


時間はない。

体感ではもうとっくに一時間はたった。あとどれくらいの時間がある?


―――どうしたらいい?わからねぇよ。


焦燥、死と密接なこの状況、思考はもうめちゃくちゃだよ。


疲れたな。もう、いいかな?

一生分の善行したよ?

神様ぁ、助けてよぉ……


気がつけば、俺は自宅に帰ってきた。

いつだって帰りはここだ。自宅のような安心感。いやまぁ自宅なんだけど。


やっぱり死ぬときは自宅がいいよね。


まぁ、このままだとしたら、死ぬとか無いんだろうけどさ。


自宅の扉を開く。


「ただいま」

「ん?お帰り!お兄ちゃん!」

「へ?」


あぁただいま?

ありゃ?認識されとる?


「あーさっき扉を開けた。かな」

「なに言ってるの?」


首を傾げる妹様。

可愛いなぁちくしょう。

だが、まぁクリアしたようだな。




「今回のクリア方法、帰宅か。無事に家に帰りましょうってことかい?」

また、安直な。

ノートを閉じて、目を瞑る。

田中はじめ、都市伝説を知るもの。今日はもう寝ます。



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幽霊の扉 鈴川教徒@ @sinenn555

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