第四章 ペアリング・シンフォニー
銃と乙女と遊戯世界 第四章 1
第四章 ペアリング・シンフォニー
* 1 *
もうすっかり空が明るい五時過ぎ、校庭に集まったのは八〇人近いファイターと、少し離れた場所から声援を送る避難民の人たち。
空には相変わらず黒い座標線が走る下で、わたしたちは最後の打ち合わせを行っていた。
「それでは避難所の方はお願いします」
そう自衛官のひとりに話しかけたのは、綺更ちゃん。
険しい表情を浮かべた富岡さんは、彼女に一歩近づいて言う。
「やはり貴女はここに残るべきだと思う。ボス討伐は我々で行うべきだ。総司令は本部にいるべき人だと私は考える」
「いいえ、そうは思いません。これまで私はここの取りまとめ役としていろいろやっていましたが、私もファイターであり、そしてタクロマプレイヤーのひとりなんです。ほとんど外に出られなかったのは、私なりに不満が溜まってたんですよ。それに、大規模戦闘の指揮は得意ですし、いまこそ私自ら戦うべきときです」
微笑んで言いながらも、一歩も譲る気がなさそうな綺更ちゃんの言葉に、富岡さんは苦々しい顔をしながらも引き下がった。
今日の作戦では、三人の自衛官のうち、ふたりが討伐部隊に参加し、ひとりが全体の防衛の指揮を執るため残ることに決まっていた。
余りがひとつもなくなったスマートギアはファイター経験者を中心に配られ、昨日の夜に初めて志願した人も特訓が行われて、多くの人はここを、それから防備の薄い避難所に散って配置されることになってる。
討伐を行う二四人三パーティのリーダは、自衛官のふたりと、綺更ちゃん。
ちょくちょく外で戦闘経験は積んでたらしいけど、彼女はわたしや稔に比べるべくもないくらいしか戦闘回数はない。
でも、とくに不安は感じない。スネアロックマスターの力は、稔が言うにはゲームの中以上にえげつなく発揮されてるらしい。
「それから計画通り、このふたりには別働隊として動いてもらいます」
「それも、残念だな……。銃戦姫ティンカー殿には、我々の精神的な支えとしてこちらに参加してもらいたかったのだが」
「じゅ、銃戦姫?! って何?」
「ファイターや、避難民みんなの心をまとめ上げた銃を持った戦いの姫。保存された動画を見せてもらったが、私も現場に立ち会いたかったくらいだよ」
富岡さんだけじゃなくみんなに真顔で頷かれて、わたしは思わずたじろいでしまう。
「もうなんか風よりも速い速度で話が広がってるよ? 智香」
「仁奈……。いったい何なのよ」
近づいてきてそう言ったのは、わたしが使っていたハイ・フェアリーを、配布されたスマートギアと同じ青に染めて纏っている仁奈。
「智のキキーモラ、力のミノス、心のティンカーってことで、避難してる人の間では三英雄って呼ばれ始めてる」
どう見ても面白がってる顔で言ってくる仁奈に、わたしは眉根にシワが寄るのを感じていた。
変更可能な稔のアバター名は、昨日の夜に永瀬稔という本名から、ミノスに変更していた。
ミノスはタクロマの中でもトップランクとして名の通ったファイター。その名前を見た人は、決闘のときに見せた彼の動きと強さに納得したらしい。
「勘弁してよ……。っていうか、英雄ってのはボス討伐終わってからの話でしょうに……」
「まぁそうなんだけどね。でもどうして、ふたりだけの作戦なの?」
「ん……。どうしても今日、行って確認しないといけないとこなんだ。もし空振りだったら、わたしと稔だったらボス討伐戦開始前に討伐隊に合流できると思うから、大丈夫だよ」
近寄ってきた稔が右手を握ってくれて、わたしはそんな彼に笑顔を見せる。
「稔って、いつの間に名前で呼ぶようになったの? 本当は永瀬君とふたりっきりでいたいだけとかじゃないの?」
「うっ……。それは、その、全部が終わった後でも一緒にいられるから関係ないし……」
「へぇ。一緒にいたいのはその通りなんだ?」
「うぅ」
顔が急速に熱くなるわたしに、仁奈は本当に意地悪な笑みを向けてきていた。彼女だけじゃなく、他の人からも口笛や囃し立てる声が飛んでくる。
恥ずかしいけど、嫌じゃない。否定もしない。
――だってこれが、わたしが生き残りたい理由で、戦う意味なんだから。
手をつないでるままの稔の顔を覗き込むと、彼も顔を赤くしながら、でも笑ってくれていた。
「さて、そろそろ出発です」
綺更ちゃんの号令の言葉に、全員に緊張が走った。
速度を活かして先行するわたしと稔は、数歩離れてみんなを振り返る。
何かを待つように注目の目を向けてくるみんなの視線に応えて、右手に短機関銃を喚び出しながら、わたしは言う。
「わたしたちは戦って生き残る! 勝って戻ってくる!! それを望み続ける限り、諦めたりはしない! わたしも、わたしと稔も、ここに絶対戻ってくる! 勝つよ! みんな!!」
言ってわたしは短機関銃を空に掲げる。
それに応えて自分の武器を、手を掲げたみんなは、鬨の声を上げた。
「それでは、出発!」
綺更ちゃんの合図とともに、稔と頷き合ったわたしは、一緒に地を蹴り、目的地へと駆けた。
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