小説怪獣を作ったのはあなたです。

ちびまるフォイ

あるある怪獣「カクヨム」

「ヒョウカァァァァ!!! ヒョウカァァァァァーーー!!!」


怪獣はカップルが集うロマンチックな建造物を破壊し、

インスタ映えに使われる撮影スポットをどんどん壊していった。


「あ、あれはいったい……!?」


「うそだ……そんな……どうして……」


「おい、お前! なにか知ってるのか!? あの怪獣は何なんだ!!」


「あれは……あれは俺の小説だ……」


「なんだって!?」


怪獣はなおも破壊を繰り返している。

町の人々はがれきの雨の中を必死に逃げ惑う。


「俺の小説が、完結していない小説が……。

 放射能とか恨みとかを吸収して怪獣になったんだ……」


「クソ! こうなったら小説を書いて対抗するしかない!!」


リア充のピンチに駆けつけた作家たちは紙とペンと、

マックブックを持ってWIFIスポットへ集まった。


「みんないくぞ!! 完結小説でやっつけるんだ!」


作家たちがキーボードをタイプして小説をつづると、

空から小説をかたどった全身タイツのヒーローが下りてきた。


「紙とペンの必要性は!?」

「形式だけだ!!」


「ヒョウカァァァァァァァーーーッ!!」


怪獣は強烈な熱戦を吐くと、完結ヒーローたちはドロドロに溶かされてしまった。


「な、なんて強さだ!? とても急ごしらえの短編小説ではたちうちできない!!」


「あの怪獣……いや、小説は俺の自信作だったんだ。

 描く前にいろんな資料を集めて、設定を書き溜めて書いたんだ。

 とりあえずで書いた異世界批判系クソエッセイじゃ、作品の厚みが違う」


「だったらどうして書くのを止めたんだよ!

 お前が続きも書かずに、完結もさせずに放置していたから

 こんなにも巨大化&凶暴化してしまったんだろ!!」


「設定に凝りすぎて、毎回資料と確かめながら書くのが負担だったんだよ!!」


「ヒョウカァァァ!!!」


怪獣はますます自分の完結されなかった怒りを力に変えて

あらゆる人工物を破壊していく。


「凝った設定を作って、誰にも負けないアイデアだと思っていたのに、

 いざ投稿してみれば、頭の悪そうな量産型ハーレム準エロ小説に完封負け……。

 

 それでも再評価されるのを信じて根気強く書いてても、

 辛くなるばかりで……その怒りを怪獣という形で発散しているんだ……」


「あんた作者だろ!? なんとかできないのか!?」


誰がもあきらめかけたそのとき、一人の男がやってきた。


「私が相手になろう」


「だ、大丈夫なんですか!? 相手は相当強いですよ!?」

「あいつを倒して私が英雄になろう」


男は目にも止まらぬ速さで作品を具現化させると、一気に怪獣へ猛攻をしかけた・


「な、なんて更新頻度なんだ! それに作品の質も高い!! これなら!!」


小説怪獣はたまらずグラグラと背中から倒れて、

キス直前になっていたカップルのベンチをまっぷたつにへし折った。


怪獣は瀕死でもう動けない。あと一発。


「いっけぇーーー!!!」


人々は声を合わせてヒーローを応援した。

ヒーロー小説はとどめの一発を怪獣におみまいする瞬間、急に動きを止めた。


「あ、あれ……動かなくなったぞ? どうかしたんですか?」


「限界がきたのなろう」


「限界って、どういうことだよ!」


「小説家になろうではまだこの先の話数を書いていないんだろう」


「転載かよ!!」


動きを止めたヒーローを怪獣が突き飛ばすと、マウントポジションで猛烈なパンチ。

これにはたまらずヒーロー小説もやられてしまった。


自己修復を済ませた怪獣小説はふたたび立ち上がり、

ナイトプールでチーズタッカルビを食べる集団へと襲いかかる。


「おい作者! あんたの小説ならなんとかしろよ!

 完結さえさせればあの怪獣はおとなしくなるんだろ!?」


「いまさら完結なんて無理だ……。設定もキャラも展開も思い出せないし。

 まして、ほかの作者からアイデアをもらっても続きが書けなかったのに

 今になって完結できるまで書ききるなんて24時間トライアスロンより無理だ」


「だったら、夢オチでも爆発オチでも俺たちの戦いはこれからだ!でも

 強引な方法でも完結させればいいだろ!?」


「し、しかしそれは……あまりにも……」


「このまま町が破壊される方がいいっていうのか!?」


怪獣はますます足を進めていく。

口の奥でエネルギーを溜めて、鼻につくあらゆるものを破壊しようとする。


「誰か助けてぇ――!!」



熱戦がお色気要員の水着お姉ちゃんを消し炭に変える寸前。

小説怪獣はサラサラと砂のようになって崩れていった。


「た、助かったの……?」


意味なく乳を揺らす女の横にはうつむいた作者が立っていた。


「お前……完結させたのか」


「元はといえば、俺が完結してあげなかったのが問題だった。

 これで平和になるのなら、誰にも読まれない小説の1つくらい

 むりやり打ち切っても問題はない……」


「良かったのか」


「ああ……そして、今はなにもかも懐かしい……。

 頭の中で"これは名作だ!!"と書き始めた1話のモチベーションも

 トイレで浮かんだ面白アイデアをすぐに書き留めたあの日々も……。


 でも、この平和な世界には何ににも代えがたい……」


世界は平和になり、曇り空の切れ間から光が差し込んだ。

がれきの山になった町にはきれいな虹がかかった。




その穏やかなムードをぶち壊して、新たな怪獣が現れた。


「カンケツゥゥゥゥゥゥ――!!!!」



「どうしてまた別の怪獣が!? 完結させたんじゃなかったのか!?」


作者は青い顔をして、すべて思い出した。



「しまった……知名度を上がるかもと、ほかの作者に二次創作してもらったんだ。

 きっとあれも完結しないまま、ずっと放置されていて――」



俺たちの戦いはこれからだ!!!



[FIN]

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