異世界戦士エクシード

朝昼 晩

変身ヒーロー、異世界へ行く

01 最終決戦

 20XX年、悪の秘密結社エンドが人類への侵略を開始。彼らは、概念を具現化し暴走させるアイテム『ナット』を使い、怪物『コンセプター』を次々と生み出して、人々を襲った。

 これに対し人類側は、コンセプターから取り出されたナットを研究し、対コンセプター武装の製造に成功。対コンセプター部隊を結成し、彼らの抵抗は激しくなった。中でも活躍していたのは、逢崎巡一あいざきじゅんいち。彼はナットを利用して変身する唯一無二の戦士、『エクシード』である。しかし、彼はのちに部隊を脱退し、単独で活動するようになった。

 それから数ヶ月後、エンドの首領であるヴァイスは死の概念を具現化させるナット、『デス・ナット』を完成させ、自身に取り込んだ。ヴァイスの強さは格段に上がり、人類を窮地へ追いやった。対するエクシードはこれ以上被害を増やさないため、ヴァイスに戦いを挑むことを決意。

 そして今、エクシードとヴァイスの戦いに決着が付こうとしていた!


       ***


「ぐああああああああああああああ!!!!」

 秘密結社エンドの本拠地、その大広間に叫び声が響き渡る。今エクシードは、ヴァイスとの戦いにおいて劣勢を強いられているのだった。

「フハハハハハッ! 残念だったな、逢崎巡一ィ。今のお前じゃオレは倒せない」

「ぐっ…!クソッ!」

 エクシードは膝をつき、身に纏った装甲が霧散する。息を荒くしながら、満身創痍の体があらわになる。だがその瞳には、未だに戦意が宿っていた。

「いいねぇ、その目つき! まだまだ諦めきれない、って感じだなァ」

「当たり前だ! 俺は絶対に、人類を守ってみせる!」

「…………やはり負けたぐらいじゃ、お前の心は折れないよなァ」

 そう言うとヴァイスは、巡一の胸倉を掴み、そして持ち上げた。

「! 何を……!?」

「まあ、見てろ。格の違いを見せてやる」

 ヴァイスが片方の手を正面に突き出す。すると何もなかった空間に、大きな穴が現れた。

「これは、空間をねじ曲げることによってできる、だァ」

「……世界の、穴?」

「ここを通れば別の世界、所謂いわゆる異世界に行ける。が、それはうまくいけばの話だァ。失敗すれば、時空の狭間へ真っ逆さま。運良く行けてもその世界に対応しきれずに死ぬことさえある。まあ、そもそも戻ってこれないだろうがなァ」

「お前の、どこにそんな、力が……?」

 巡一の問いかけに、ヴァイスは肩を竦める。

「さあな、オレの体とデス・ナットの相性が良いからだろ。ともかく、オレはお前をこの穴に放り込み、天敵のいないこの世界で支配者になる。……最高だろォ?」

「ふざけるな!」

 巡一はヴァイスの左手を掴み、脱出を試みる。だが既に限界を迎えている彼の力では、ヴァイスの手を振りほどくことはできなかった。

 そんな巡一を、ヴァイスは穴の前まで持って行く。

「今日でエクシードともお別れかァ。とっっっっっっっても、寂しいよ」

「そんな風には見えないがな。……安心しな、直ぐに戻ってきてやるよ」

「……そいつはよかった」

 ヴァイスは巡一を穴に近づける。もう巡一の背中側は穴に入ってしまっている。巡一は、自分の体が別の空間にあるという、不思議な感覚を感じていた。

「あぁ、そうだ。お前の持ってるエクシードブレスとナットは選別だ。役に立つかどうかは知らんがなァ」

 エクシードブレスは、巡一がエクシードに変身するためのアイテム。ブレスの窪みに専用のナットを装着し、レバーで回転させることで変身できる。これを奪わないということは、つまりヴァイスにはそれだけの余裕がある、ということだ。

「……本当にいいのか、後悔するぞ?」

「いいよ、別に。必要ないしなァ」

 ゴミはまとめてポイしなきゃなァ、と言いながら巡一を穴の中へ突き出す。暗闇の中に、地面は無かった。

「さようなら、巡一ィ。これでやっと望みが叶うよ」

「またな、ヴァイス。首洗って待ってろ」

 ヴァイスは巡一を突き放し、しばらくして穴を閉じた。大広間に静寂が残る。ヴァイスは己の勝利を確信し、その余韻を噛みしめた。

「フ、フフ、フハハハハハハハハハハハ!!!!」

 笑い声が木霊する。今この瞬間、この世界でヴァイスを止められる者は、誰一人としていなかった。

「――――――さあ、終わらせようか」

 人類を。

 平和を。

 この世界を。

 なぜならヴァイスは、


       ***


 薄れゆく意識の中、巡一はヴァイスの言葉を思い出していた。

『失敗すれば、時空の狭間へ真っ逆さま。或いは、行けてもその世界に対応しきれずに死ぬことさえある。』

(……本当に、俺はこのまま死ぬのだろうか)

 左手に付けたブレスを握り、今までの戦いを思い出す。

(いや、それは駄目だろう)

 今までのどの戦いも、辛く苦しかった。だがその代わり、支えてくれる人が傍にいた。その人たちの思いを、こんなところで蔑ろにするわけにはいかない。

(絶対に、絶対に俺は……!)

 そんな決意とは裏腹に、体は限界を迎えた。彼は意識を手放し、時空の流れに身を任せるしかなかった。

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