Crown the Hunter~道化師の殺人鬼~

@antimaterial

第1話 獄中の話

「起きろ! 怠け!」

「…起きてるよバァカ、うむぅぅ」

 と、こんな感じなやりとりがいつも繰り返されているとある牢獄。

 牢獄にいる男――長身痩躯、血の様に紅い、肩口までのびた髪、三白眼且つ炎のような緋眼、そして口に浮かんだ薄笑いが特徴的な彼は眠たそうな声で答えた。

 いつもなら見逃してくれるこの心優しい看守(口は絶望的に悪いが)に甘えてもう一眠りするところだ。

 いつもなら、の話である。

「こら!さっさと起きろ! ウスノロォ!」

「…………………………」

 …今日はいつも道りにはいかなかった。

「…あ~あ~分かったよ起きれば良いんだろ起きれば」

 面倒面倒、と言いつつものらりくらりと起きた。

「…たく。なんだよ、いつも道りに見逃してくれよ、おじさん」 

「今日はそう言う訳にはいかん。ペテロ様から直々に招集しろと言われているのだ」

 それを聞いた瞬間、牢獄から出てきた彼はげんなりした。

「…うそだろ。まさかあのジジイに呼び出されるとか、最悪だ・・・」

「こら。だれがじじいだって? まだんな年じゃねえよ」

 は? と驚き半分、疑惑半分で看守を見て――完全に吃驚した。

「……おっどろきー、まさか変化能力持ちとは。あと、今のお前の見た目だとジジイに見えないだけであって、実際の年は二千は下らないだろ、そこまでして若作りしてえのか、ペテロ」

「くはっ、なぁに。見た目だけでも若くしときゃ身体能力はその分高くなるんだよ。あと、老婆心から言わせてもらうが、んなぐうたら生活続けてっと体が鈍くなっちまうぞ阿呆」

 ついさっきまで看守がいた所に――二十歳前後の青年がいた。

 背は牢獄から出てきた男と同じくらい、髪は腰まで伸びた白髪、穏和そうな目の形だが、その眼には、何か抗えない力が込められている。

 この男こそ、この牢獄の看守長、聖人ペテロである。

「余計なお世話だこの馬鹿。て、駄弁ってる場合じゃないか。何の用だよ、ペテロ」

「おいおいおい、看守長って名目の給料泥棒のこの俺が、直直に来たって意味は分かってんだろ、え?」

「いやまったく」

「ああ、そうだよな、ちゃんと覚えてねええええええのかよおおおおおお!?!?」

 うんそうと、あっさり認めるこの男。

 逆にペテロは肩を落とす。

「……ぉぉぉおオオマァァァアアえええ…っっっっっっちばん最初に、言ったよなあああ!」

「…あ、なんか言ってたな。全然聞いてなかった」

 ペテロは今度こそがくりと膝を着いた。そして次に顔を上げた時、ど怒りの笑みを浮かべていた。

「…あと一京年ぐらいいっとくか?」

「ご免被る。もう嫌だ。飯もマジいし」

 ガキの台詞か! とペテロは突っ込んだ。

「はああああああ…もういいや、とりあえず来い…」

「ん? …ああ、分かった」 

 そのまま歩く事約三分。

「ほいストップ、ここで止まれ、て触んな!」

「ん? これそんなヤバいやつなの?」

 今まさに彼が触ろうとしたものはある怪物を封印してるヤバいやつだったりする。

 ここには神々やその眷属が封印している怪異化物悪鬼羅刹が封印されており、その中でも特別ヤバい奴らが鎮座している部屋でもある。

 閑話休題

「さて、んじゃまさくっと終わらすか」

「ん?」

 何を、とは続かなかった。

 一瞬部屋全体が光ったかと思った瞬間、彼は消えた。

「さて、仕事終わり」

 そう言ってペテロは息をついた。

「転生はさせた。さあ、どうなるかね、ジャック」

 転生させられた男――彼こそが十九世紀のロンドンを恐怖に陥れた最凶最悪の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパー――和名、切り裂きジャックとして、恐れられていた男である。

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