初めての別世界

 「着いたわよ。此処がセカンド・アースに繋がっているマシンが、設置されている場所よ」


 私は、一度落ち着かない心をそのままに、ゆっくりと辺りを見渡した。


 人は言うまでもなく沢山いて、武装している人もいれば、武装をしていない、普段着っぽい人もいる。


 大きな円形のスペース中央に、横にも縦にも大きい機会が設置されていて、円形のスペースの端に、大小色々なお店が並んでいる。


 「何ここ。でかぁー!。まじで滅茶苦茶広いねここ!」


 ミラのこの反応にも納得する。本っ当に広い。勇人も無言で目を輝かせて辺りを夢中で見ている。


 「本当に広いね」


 私達が辺りをキョロキョロして見回してると、エマさんが「いい反応するわね」と愉快そうに笑った後、軽くこの広間の説明をしてくれた。


 「この広間は半径250mで高さは70m位だったかしらね。真ん中にある大きい機会が、セカンド・アースへ行く為のマシンよ。後は武器、防具、旅に必要な道具が売ってる店とか、セカンド・アースで取れた食材を扱った飲食店なんかもあるわよ」


 「セカンド・アースで、食材も取れるんですね」


 「そうね。基本的には、地球と酸素濃度が同じで、気候が安定してる区域内の湖なら、魚も取れたりしているわね」


 こんな話を聞いてしまったら、早くセカンド・アースに行きたい気持ちがどんどん強くなってくる。


 「今から直ぐセカンド・アースに行くんですか?」と堪らず聞いてしまった。


 「まだよ。慌てない慌てない。今日は比較的安全な範囲で行動するつもりだけど、念の為に最低限必要な準備はしないとね」


 「今入って来た入口から見て一番右奥に、私の知り合いがしてる何でも屋があるから、そこで必要な道具を貰いに行きましょ。沢山貸しは作っているから、ある程度の物なら多分くれると思うわ」


 売り物をくれるって、どれだけ大きい貸しがあるんだろう?まあそこは気にしても仕方ないので、取り敢えず置いとこう。


 「じゃあ3人とも行くわよ」


 私達は人混みの中をゆっくりと歩いて、エマさんが言った右奥にある店へと向かった。


 「着いたわ。ここが何でも屋よ」


 「ジェイク〜いる〜?私が来てやったわよ〜」


 エマさんが人の名前を呼んでから十秒程で、凄く身体がガッシリとした、黒人の厳つい見た目をした、金髪の男性が店の奥から出てきた。


 「おう。エマか。今日は何の用なんだ?」


 あ、あれ?なんか凄く嫌そうな顔をしているような。多分気のせいだろう。


 「今からこっちの新しく星拓者になった3人をね、向こうに連れて行ってあげようと思ってね。それであんたには沢山貸しがあるから、新人3人分の道具くらい貰ってやろうと思ってね」


 エマさんが凄く悪い顔をしている気がするのは、気のせいだと思う事にする。


 「お前この前もそんな事言って、転送拡張器持っていったじゃねえか」


 「そうだけど、あんたにはもっと沢山貸しがあるでしょ。何?何か文句でもあるの?」


 「はぁーーーーーーーーー分かったから。本当に今回限りで勘弁してくれよ」


 文句をブツブツ言いながら、厳ついジェイクさんが、《新人応援》と書かれた札が付いている商品箱の中を、何やら探してくれているようだ。


 「判ればいいのよ」


 エマさん。ちょっと強引過ぎない!?でも何故かは分からないけど、ジェイクさんが嬉しそうな顔をしているのも少し気になる。


 私がジェイクさんをじっと見ていると、ジェイクさんと目が合ってしまった。

 顔が合うとやはり、厳つめの顔をしていて怖かったので、思わずエマさんの背後に隠れてしまった。


 「何ビビらせてんのよ」


 「ビビらせてねぇよ。ただ助けを求めてただけだっての」


 庇ってくれたのかな?見た目はちょっと怖いけど、いい人そうだ。

 

 商品箱の中から小さめの機械を取り出したジェイクさんが、小さいため息をつきながら「お探しの物はこれですか?お嬢さん」とエマさんに言った。


 「そう。それそれ」


 「3人ともちょっとこっち来てみ。今から転送拡張器と回復ポーションを渡すから」


 エマさんに手招きされて3人が集まると、ジェイクさんが、お店の奥の小部屋へと案内してくれた。


 「よし。じゃあ先ずは、さっきジェイクから頂いたアイテムの使い方とその効果を教えます」


 「はい」

 「はーい」

 「よろしくお願いします」


 「それじゃ、さっき作ったライセンスカードを取り出して貰える?」


 私は言われた通りにライセンスカードを自分のズボンの右ポケットから取り出した。


 「取り出したら、ライセンスカードの右上に、メニュー表示があると思うから、そこを押すとカードから画面が出てくると思うわ」


 カードの右上にメニュー表示がある事を確認して押すと、カードから幻影みたいな物が出てきた。手で触れても特になんとも無いみたいだ。


 「カードから出てきた幻影にさっき渡した転送拡張器を入れて見て」


 私はさっき配られたばかりの小型機械を、ライセンスカードから出てくる幻影にゆっくりと流し込むように入れた。

 すると幻影の色が黒から白へと変わり、転送拡張器搭載完了という黒文字が表示された。


 「皆んな転送拡張器搭載完了って文字は出てきた?」


 「出てきました」

 「私も出たよ〜」

 「僕も大丈夫です」


 「じゃあこの機会の機能を簡単に説明します」


 「セカンド・アースは今私達が住んでいる、地球の表面積の約20倍程の大きさがあるんだけど、セカンド・アースから地球に戻るのには、さっき広間にあったマシンが向こうにもあるから、それを使って戻る必要があるの」


 「そこでさっきカードに入れた、転送拡張機の出番ね。この小型機械をカードに搭載する事で、ある程度の範囲までなら帰投する時に使うマシンまで、テレポート出来るようになります」


 「回復ポーションは怪我をした時に、先に付いてある蓋をずらして怪我をした箇所に垂らしたら、ある程度の傷なら直ぐに塞ぐ事が出来るわ。この2つはセカンド・アースに行くには必須のアイテムね。説明は以上よ。何か質問とかはある?」


 転送拡張機のテレポート出来る範囲と、回復ポーションの効き目がイマイチ分からないのが少し気になるけど、それよりも早くセカンド・アースに行ってみたいと思いエマさんに応えた。


 「今の所は大丈夫です」

 「オッケーだよ〜」

 「僕も大丈夫です」


 「よっし。じゃあそろそろセカンド・アースに行くとしますか。ジェイク、アイテム毎回ありがとね」

 

 エマさんがジェイクさんに適当な挨拶をして店を出て行ったので、私もジェイクさんに軽く頭を下げてから、お店を後にしようとした時、「エマは怒ると怖え〜からきおつけろよ」とジェイクさんが後ろから声をかけてくれた。


 「分かりました。あの、アイテム無料で頂いてしまってすいません。又今度ここでアイテムを買いに来ます」


 「ありがとよ。じゃあ又今度、うちの店でなんか買い物してくれたらそれでチャラって事にしとくぜ」


 「分かりました。又来ますね」


 私はもう一度ジェイクさんに軽く頭を下げて、少し先を歩いている3人の元へと小走りで追いついた。


 ミラが皆んなに聞こえる位の声で、「お腹減ってきたぁ〜」と言うのでライセンスカードの時刻を覗いてみる。


 現在の時刻は午後18時になりそうな所だ。確かに少しお腹がすいてきた。


 「僕も少しお腹がすいてきました」


 「大丈夫よ。食事も向こうでする予定だからそこは心配しないで」


 エマさんが笑いながらそう言ったので、暫く無言でゆっくりと歩き、遂に目的地のマシン前まで到着した。

 

 「3人とも心の準備は大丈夫?出来てなくても行くんだけどね」


 エマさんが笑顔でそう言うと、3人声を合わせて「準備万端です」と応えた。


 「よし!じゃあ行くよ」


 4人でマシンの中へと入って行く。何秒経ったのか。多分一瞬の出来事だった。


 気づけばそこは、私が知っている場所では無くなっていた。


 背後には、此処へ来る時に使用したマシンがあり、周囲はガラス張りの空間になっていて、ガラスの向こうには、今まで見た事がなかった父からの土産話でしか知る事が出来なかった世界が広がっていた。


 真っ先に目に付いたのは、月なのか太陽なのか分からない翠に輝く球体だ。視線を自然と釘付けにしてしまう程の迫力があり、地球で見る太陽や月の目測の10倍は大きいと思う。


 辺りの岩肌が翠色の光に照らされて輝いている光景は、今まで見た何よりも美しいと思える程に綺麗だ。


 我を忘れて夢中になって、この美しい光景を眺めていると「おーい。3人とも初めて来てはしゃぐのも分かるけど、私もそうだったから。でも、そろそろお腹減ってやばいからご飯食べに行くわよ」


 私はまだまだ見足りないその光景を暫し見つめて、エマさんのいる所へ小走りで向かった。


 「あの翠の月凄く綺麗だね。本当にびっくりしたぁ〜」

 「そうだね。今まで見た何よりも綺麗だと思ったよ」

 「僕も凄く綺麗だと思ったよ」


 「この星も、翠月も逃げる事はないんだからね。それじゃ、このフロアの下に私のおすすめの食べ物屋があるから、今日はそこで夕飯を食べましょうか」


 「此処は夜も翠月のお陰で明るいから夕飯を食べた後でも、近場なら色々探索出来るから慌てない事。いいわね?」


 「わかったぁ〜」

 「はい」

 「分かりました」


 「此処が私のおすすめのセカンド・アースで取れる魚介を扱った料理店よ。その日に取れた食材でマスターが料理してくれるわ」


 「今日は私が3人分出してあげる。ほら、行くよ」


 エマさんが『皇魚』と木に刻まれた看板が付けられている店へと入って行ったので、それに続いて私達もお店の中へと付いて行った。


 「マスター今日もとびきり美味い料理頼むよ。今日は初めてセカンド・アースに来る新人3人がいるからいつもよりも気合入れてよろしく」


 「了解だ。今日の料理は今までに作った中でも五本の指に入る一品を用意しよう。まあ、期待して待っていてくれていい」


 「今日も自信満々ね。期待しているわ」


 エマさんはとても上機嫌そうに鼻歌を歌いながら目を瞑っている。


 お店のマスターさんが今から調理を行う様だ。セカンド・アースで取れた食材を調理する所が見れるなんて初めての事だ。こんな事を言うとキリはないけど、それでも初体験の事になると興奮してしまう。


 キンッキンッとナイフが擦れる良い音を奏でた後、30㎝程の魚が綺麗に捌かれていく。魚の骨抜きが素早く、全く無駄の無いナイフ捌きに思わず見入ってしまった。


 10分程の時間が経ったと思う。4匹の魚を捌き終えたマスターさんが口を開いた。


 「今日獲れた魚は、ただ塩焼きにするだけで絶品だ。だが、今日初めて此処に来た客人もいる事だ。とっておきのを味わせてやる」


 そう言って取り出したのは、紫色の果実の様な物だ。マスターさんが果実の様な物にナイフを入れると、紫色の皮の中から黒く輝く果肉が現れた。


 見た目は宝石の様に綺麗なのだが、これは本当に食べられるのか?と少し不安になる位毒々しい見た目をしている。


 果実を四当分して、それを皮ごと細かく刻んでいく。刻んだ果肉を、目の前でいい具合に焦げ目が付いてきた魚へと乗せていく。


 「よし。後1分で完成だ。余りの美味しさに涙を零さないようしてくれると助かる」


 凄い自身だなと素直に私は感心した。此処までの自身がある料理がどんな味なのか。完成間近だと解っていても、早く食べたくて涎が出てきた。


 20秒ほどお店の中が魚の焼けるパチパチという音だけを響かせていた。


 「出来上がりだ。冷めないうちに食べて貰えると助かる。冷めても美味いのは美味いが、やはり温かい方が美味いからな」

 

 「頂きます」


 私は自分で思っていたよりもお腹が減っていたらしい。豪快に一口魚の腹の部分を口の中に頬張った。


 口の中に先ず広がったのは、バターの濃厚な味だ。その後にさっきの果肉の程良い酸味と甘みが、バターの濃厚な味を引き立たせていて、もの凄く美味しい。


 魚の身も柔らかくて食べ易く、あっという間に30㎝近くあった魚を平らげてしまった。


 自分が食べ終わって、左右を見ると、皆んなも食べ終わっているようだ。


 「ご馳走さま。流石マスター。やっぱりいい腕してるよ」


 エマさんがマスターに満足そうに笑いながら言うと、マスターも嬉しそうにしている。


 「当たり前だ。俺が料理したらなんでも美味くなるのは当然だ。でも、今日のはその中でもかなり良い出来だった」


 マスターさんも皆んなに褒められて凄く嬉しそうだ。


 「本当に凄く美味しかったです。ご馳走さまでした」満足感に満たされて、心の底から私はそう言った。


 エマさんがお会計を済ませてくれて、私達は店を後にした。


 「食事も済ませたし、外に出てみようか」


 「はい!」


 いよいよセカンド・アースの土地に足を踏み入れる。深く呼吸して外に出ようとすると、誰かが私の手を握ってきた。


 「折角初めての冒険になるし皆んなで一緒に、せーので行こ」


 私はミラに笑いかけながら頷いた。


 ミラとモリトとエマさん。今日知り合ったばかりの仲間達。まだまだお互いの事は何も知らない。でもこれから冒険をする事で色々な事が分かってくると思う。


 「じゃあ行くよ!せーの」


 初めての別世界。初めての体験。初めて見る景色。新たに出来た仲間と一緒に、これから沢山の未知を体験するだろう。今日から私も星拓者の仲間入りだ。

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誰も知らない【未知】を求めて 【CLOWN】時雨 十六夜 @CLOWN_shigure

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