ふたりぼっち

1

『荒れ果てた大地』と言っても、自然というものは人が介入しなければ意外にも精力的に活動できるらしい。

全てがボロボロに崩れさり、深い緑に飲み込まれる中に残る高速道路の橋脚、コンクリート製の巨大な塊はまだ暫くの間この世界に留まることを選んだようだ。


創造主に打ち棄てられ、存在意義を喪失した無機物ですら、まだ生きることを望んでいるというのに、今を生きている筈の私は、私という存在を観測してくれる者も無く、一人煙草を喫する。

華々しい香料にコーティングされ、ニコチンと共に口内に侵入してくるのがはっきりと分かるタールの蘞みだけが少しずつ、しかし確実に私の命を削り取っていく。この感覚だけが私の命を証明してくれる。


私の人差し指と中指に挟まれた煙草は、既に半分以上が灰と化し、残された葉は、空気を吸い込む時に濾し取ったニコチンやタール、その他の不純物に塗れていて非常に不味い。私は寿命を縮める為に煙草を喫している訳ではない、あくまでも、旨いから喫しているのである。前者は副次的な物に過ぎない。


ひび割れたアスファルトの上に煙草を投げ捨てる。数分前にはあれだけ愛しかった物も、時間が経てば紙くずと大して変わらない。嗚呼、なんて悲しい世の中だろうか。


「まだ吸える」


背後で可憐な声が響く。

声の主はちょこちょこと私の横を通り過ぎ、ひょいと煙草を拾い上げて、おもむろに咥える。


「吸ってる時は近寄るなって言っただろ」


目を細め、シケモクを喫する少女に私の抗議は届く筈もなく、そのままちょこんと私の足元に腰掛ける。


「せっかく格好良く決めて、センチな気分に浸ってたってのに、お前なぁ・・・」


「美味しい物を独り占めするあなたが悪いんです。私達は運命共同体ですよ?」


「・・・・・・・・・旨いか?それ・・・」


「不味い」


幸運なことに、私はまだ一人ではない。殺されるか、事故で死ぬか、はたまた肺がイカれて死ぬかは分からない。しかし、恐らく私は死ぬまで孤独ではないだろう。


残された時間で、どれだけ彼女を大切にしてやれるだろう。いずれ独りになる彼女に、どれだけの事を教えてやれるだろう。

そんな不安に苛まれた時は、煙草が、紫煙と共にそれを何処かに連れさってくれる。


今、私は一人じゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふたりぼっち @syumi_bot

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ