Code//Element...精霊を纏いし者たち

一松直人

プロローグ

  ————人と亜人、そして精霊が共に生きる世界“エレ・シディア”。

 偉大なる精霊神<タマナ=エレ・シディア>は、外の世界より来たりてこの世界を無から創造されました。


 彼の神はまず最初に世界を構成するために必要な元素を生み出すと、それらに形と志向性を与えた<源精霊>という存在を解き放ちました。

 源精霊たちはタマナが創造した枠の中を飛び回り、その身に宿る力を振り撒いていって大地と海を生み出し、空気を満たし熱を泳がせていったのです。やがて草木が生まれ咲き誇り、そうやって私たちの住む星は生まれ育まれていきました。


 源精霊たちの働きに満足したタマナは、異なる次元の層を生み出し、その層に彼らを住まわせました。源精霊たちに構築させたこの世界が、彼ら自身の無尽蔵な力で破壊されてしまうことを恐れたのです。

 次にタマナは、世界に住まう住人として人間や獣を生み出していきました。人はタマナに見守られた楽園の中で生を謳歌し、世界に秩序と社会を育んでいったのです。やがて人は幾つもの文明を築き、それを争いにより失うことを幾度となく繰り返していきました。

 

 それでもなお人類が最大の繁栄と栄華を手に入れたそのとき、一人の魔女の訪れ共に——世界に破滅は訪れたのです。


 黒煙を纏いしその魔女は、遥か彼方の別世界で神として君臨していました。

 この世界を創造したタマナと彼の魔女は、“始原の世界”で共に生まれ育った姉妹だったのです。

 魔女はタマナに告げました。


 ——また、随分と下らぬ世界を創ったのだな。『半神』を真似た存在を生み出すなどと……共に始原の星から旅立ったことを後悔でもしているのではないか。

 

 ——そうだ、後悔している。貴女の導くままに、偉大なる父を捜し求めて彼の楽園を捨てた。我らに縋りつき泣いた、彼女とあの子たちを見捨てて。しかし間違いだったのだ。偉大なる父は見つからず、貴女も兄妹たちも旅の目的を忘れ、散り散りとなっては各々望む世界を創造していった…………そして、この私も。絆を取り戻すための旅であったはずなのに、我らは絆を失ってしまった。


 ——其方は寂しいのだな。ではまた、あの頃のように共に暮らそうではないか。このような不出来な世界は消し去り妾の世界に来い。もう、其方を独りにはせぬ。


 ——いいえ、それはできない。私には、貴女の邪悪な願いが解るから。今、やっと全てを解ることができた。貴女は最初から父のことなど、どうでもよかったのだ。貴女はあの子たちを愛しておらず、それどころか憎んでいたのだな。そうであったからこそ、容易に見捨てることができたのだ。それ故ににあの子らに似た存在を許せず、この世界の私の子たちすらも消し去ろうとする。


 ——そうだ。妾は、偉大なる父が最後に遺したあの者たちを愛せぬ。あれらは失敗作なのだから。妾に従わぬのならば、もう其方も要らぬ。己の愚かさを悔いながら、この世界の全てと共に滅べ。


 魔女はタマナに宣戦布告をし、たちまちに黒煙をまき散らすと、それは“エレ・シディア”を病や悪意で覆ってしまう災厄と化したのです。

 タマナは己が創造した世界を守るために、姉である魔女と袂を分かつ決意をしました。こうして“エレ・シディア”が誕生して以来、史上もっとも激しい戦いの幕が開かれていったのです。神と魔女の争いは、互いの眷属を巻き込んでどこまでも繰り広げられていきました。

 魔女は永い時の中で様々な外の世界を渡り歩き、他の神の創造物たちを奪い従えていたのです。

 魔女の禍々しく歪んだ祝福を授かった彼の者たちは、<黒の呪縛眷属>と呼ばれました。


 タマナは魔女とその軍勢である黒の呪縛眷属に対抗するため、精霊界で眠っていた源精霊たちを呼び起こしました。

 彼らに巨大な獣の器を与え、そしてより攻撃的な存在へと進化させたのです。


 しかし源精霊たちはその大きな力を持つがゆえに、自身を確かなものとする知性を有していませんでした。タマナはこれを補うため、人間たちの中から徳の高き善き心を持つ者、そして優れた武を有する者たちを集めると、その中からより優れた勇者を選別していったのです。

 彼らは精霊と心を通わせることを可能とし、人々から契約者と呼ばれました。

 タマナに選ばれし契約者たちは源精霊の核へと封じられると、互いの意識を融合させることによってより強大な存在と化して戦場に送り出されました。

 これが後の歴史において『纏いし者』と呼ばれることとなった勇者たちと、その彼らが纏いし巨大な戦士——『精霊鎧装』の誕生の瞬間だったのです。

 

 纏いし者が精霊鎧装を以て黒の呪縛眷属の侵略に抗うと、タマナは自ら魔女と相対していき、死闘の末に魔女の身を切り裂き外の世界へと追い返したのです。

 そしてタマナは纏いし者たちと共に残る黒の呪縛眷属を打ち滅ぼし、こうして戦いは終結したのでした。


 ふたたび、世界に平和は訪れたかのように思えました。

 

 しかし————

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