第12話 本気の呪具(の素材)って高いんですね

「そう言えば、レミの呪具って、まだ準備できていないんですって?」


 カーマさんの意に沿わぬ呪具選定の流れから、レミの呪具に話は移る。


「え、まあ。作ってはみたんですけど、この間の『祓い』でダメにしちゃったんですよね」

 途中から木の枝で代用して、『祓い』自体は成功させたが。


「うーん、木性の呪具って素材は手に入りやすいし、錬成も楽だけど、耐久性がねぇ……」

「そうなんですよ。でも、『火』とか『水』は、まず素材自体手にいれにくいし」

「『木』属性が主で、『火』と『水』と『風』が副属性で、『土』属性なし、なんて、珍しい組み合わせよね。大抵、『木』は『土』と『水』の組み合わせが多いのに」


 退魔師の能力は、木火風水土の五元素のうちのどれかが主属性となり、そこに2種から3種の副属性が重なる。

 ちなみにカーマさんは、前述したように『風』と『土』の属性が強い。一応主属性は『土』だが、『風』もほぼ拮抗するレベルで属性が強い。

 この二強タイプの退魔師は、飛び抜けてこのツートップが強い分、他の副属性が弱めである。

 一方、レミのように明確に主属性が現れるタイプは、副属性もそれなりに強く、数も多い。ただし、主属性だけで比べたら、カーマさんのような二強タイプに劣る。

 さらに、副にもならない「属性なし」という項目があると、錬成するのに、少し困ったことになる。


 退魔師は、基本的に自分の属性にあった素材を使用して呪具の錬成を行う。その素材に複数の属性が含まれている場合、自分にあった属性が多く含まれていると、呪具の錬度はあがる。

 逆に「属性なし」とされたカテゴリーの素材は、錬成に必要な魔力の浸透ができない。多少混じっていても、自分の属性に巻き込む形で錬成は可能だが、呪具の錬度が低くなるのである。

 レミの場合、主属性である『木』は、簡単に手に入る。ただし、大抵の場合、木は大地に生えているため、『土』属性を受けやすい。

 同時に『水』属性も受けるので、それなりに錬成は可能だが、錬度は十分でない。

 一番は強度の問題である。

 退魔の力自体は、呪具の錬度だけでなく、退魔師本人や妖霊の魔力も影響するので、退魔は可能であるが、錬度が低いと、すぐに破損する。

 退魔の最中に呪具が破損してしまうことは命取りであるので、皆、サブの呪具は携行しているが、そう多く持てるモノでもない。


「カーマさんみたいに、属性同士が相性がいいといいんですけど。正直、『木』と『火』なんて、どう錬成したらいいのか」

「むしろ『土』属性だったら、大抵の属性と相性いいんだけど。あまりいないものね。主が『木』属性って」


 そうなのだ。レミのような『木』属性が主属性の退魔師自体が希少なため、呪具に『木』利用することはあっても、呪具に『木』使用しなければいけない、という前例があまりにも少ない。


『まあ、本来「土」属性なのが「木」属性に特化した素材もあるし。属性特化した素材は純度も高いから錬度も上がるけと、値段も高いんだよね』

(それって、琥珀とか、黒玉ジェットとか、だよね?)

『あ、知ってた?』

(……昔、ね)


 過去世で結婚した頃に、やたらフォーマル分野のセールスを受けて、一時期宝石の類いを調べたことがあった。その時に、木の化石(珪化木ケイカボクと言う)から採れる樹脂が原材料の琥珀や、黒化した部分を使ったジェットを知った。

(あのまま離婚しなかったら、「出来る奥様」とおだてられて、ブラックフォーマル用にジェットのイヤリングとネックレスのセットとか、買っていたかもしれない……)


(まあ、普通の木よりは強度あると、思うけど。やっぱり高い?)

『まあ、それなりの大きさや数を求めるなら……多分かなり高い。半貴石扱いだと、貴金属や貴石よりは、安い思うけど。「火」や「水」属性が「土」属性を上回っている素材は、ほとんど貴石だし。もっと高いよ』


「カーマさん、ついでに聞いちゃいますけど、その、銀って、高くないですか?」

「……こそこそ何を話していたか、なんとなくわかるけど。……まあ、そこそこ高いわよ」

「それって、元取れます?」

「正直、取れないわ。まともに経費に上乗せしたら、依頼受けるのを断られるかも知れないわね」

「でも、使ってるんですよね」

「だって、……経費かかってないもの」

 カーマさんは斜め上に上目遣いをして、とぼけるように視線を逸らす。

「それは、つまり、あれ、ですね?」

「つまり、あれよ。まあ、レミも素材がいいから、何度か依頼をこなしているうちには、きっと色々届くと思うわよ。でも、深入りしないように、浅く広く公平にね」


 いわゆる信奉者からの贈り物で呪具素材を賄っているカーマさんの、魅惑的な笑顔付きアドバイスが役立つ日が来るのか……。


(とりあえず、最初は数作って、回していくしかないよね)

『あと、「水」属性の強い珊瑚とか真珠も、使えるよ。』

(……いや、どうしてそう高級品ばっかり名前が挙がるのよ? )


『だって、天然の錬成受けているものは、純度が高い分、大体見目もよいか、硬度が高くて貴重なんだよ。でも、耐性も比例して高い。カーマの銀笛だって、楽器としての精度を求めなければ、かなり耐性が高い呪具なんだよ。いくらかは削られるけど、息を吹き込むだけなら、軽く10年単位でもつと思うし。そう考えると、希少な素材使って錬成するのは、長い目でみたら損はないよ』

(ああ、そういう理屈……)


『そう。だからあきらめて、バンバン稼いで高級素材を買うか、魔力と足使って素材収集するか、レミ自身を磨きまくって貢がせるか、とにかくがんばるしかないよね』

(いや、最後のは、最終手段にしたい……)


 そんなこんなで脱力感に疲労困憊しながら乗船一日目を終え。その後は落ち着いた船旅を楽しみながら。

 いよいよ、テプレン上陸の日は近づいてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る