異世界スローライフ(物理) 〜人生を投げた俺は異世界でも投げるハメになりました。〜 byてのての

【頭空っぽにして読める異世界コメディです】


 至って普通の高校生の桜庭ミナトが異世界で勇者となり仲間を集めて、ハーレムを築いて、魔王を討伐する話────


 ──などではなく。


「おいクソ女神。10秒待ってろ、必ず殺す」


「え、ちょ、待ってください!」


 転生したくないのに【投石スキル】&【防御スキル】を持って転生させられた極度の面倒くさがりな主人公が石ころで転生初日に魔王を殺し、女神に報復し、自分を殺せる存在を探すor永住の地を探すために、道連れにした幼女天使などと共にグータラするために冒険する話。


 シリアス展開? 手に汗握る戦闘描写? そんなのめんどくさいので書きません。

 展開ゆっくりになったと思ったら、急にトップスピード。

 至って普通の異世界スローライフ(物理)です。


 ___________________


『プロローグ』


 桜庭ミナト、16歳。めんどうな事が何より嫌いだった。

 どのくらいかって言えば、生きること自体面倒くさいし、息することも面倒くさいし、マラソン大会とかいう謎イベントが嫌になって投身自殺したくなるくらいだ。俺の家は両親共に厳しいので学校をサボりでもした暁には、もれなく死への片道切符が配布されるのは目に見えてる。

 ならマラソン大会の前日に俺はどうしたかって?そんなのもうやる事は決まってる。


 ―――死ぬしかないな


 という訳で俺は迷わず超高層ビルの屋上からてーん!、と身を投げ出した。……まぁ、なかなかに気持ちよかったな。ジェットコースターより遥かに凄まじかったかな。







「んん…………」


 目を覚ますと、俺は白い部屋にいた。

 何も無く、何も見えないただの部屋。


「ここは……」


「あ、お目覚めですか? ミナトさん」


 起き上がってみると、目の前には美しい緑髪の女性がいた。白い貫頭衣に、頭にはオリンピックとかで見かけるような草の冠のようなものをつけている。いかにも典型的な『女神様』というような感じだ。


「…………こいつ起きるの遅い。蹴る」


「こらっ、そういうこと言うな!」


 その女性の後ろには、羽の生えた赤髪と白髪の2人の幼女が何やら言い合っている。

 赤髪幼女は女神と同じような緑──いや、もっと宝石のように澄んだ……例えるなら夜のエメラルドの瞳。

 白髪の方は、見ているこちらが引き込まれるような瑠璃色の目。いずれも人間離れした容姿である。間違いなく地球の人とは思えない。

 ……なんだこれは。もしかして夢か?


「いいえ、夢ではありませんよ? あなたは確かに自ら死ぬ道を選び、希望通りに超高層ビルからてーん、と飛び立ちその命を絶ちました」


 命を絶った……?  なんだそれは? 素晴らしい事ではないか。……じゃあ、この状況はなんなんだ?


「言うなれば、ここは天界です。私はそこの女神にあたります」


「そして私は天使ですっ!」


「……右におなじく」


 自分のことを女神という女性の後ろには天使の幼女…………。なるほどこれは死後の世界というやつか。


「死ねたんだったらそれでいい。さっさとどこかに放ってくれ」


「え、転生とかしたくないんですか? 異世界ですよ? 男の子でラノベ好きなら1度は夢見る異世界ですよ?」


 俺がその場に寝転がって身を委ねると、女神は不思議そうな様子で聞いてきた。なるほど、漫画やアニメの世界のように転生という概念はあったのか……。

 だが俺の答えは決まっている。


「だが断る。というか異世界自体興味がねぇよ。そんなことはいいから早く死なせてくれ……こうやって何かを認識するのも面倒なんだ」


「いやいやいや、それは困ります!  せめてガチャだけでも引いてもらわないと、私のお給料が出ないんです! 女神にも生活費が必要なんです!」


 ガチャ……?  なんだそれは。というか給料って雇われ女神なのか? ……あぁー面倒くさいからどうでもいいや。


「め、女神様っ。あんまそういうこと言ってしまうと威厳というものが……」


「……いいから早く引け」


 後ろの幼女たち────やけにうるさい赤髪の方は、もし人間だったら俺が1番嫌いな人種だ。関わりたいとすら思わねぇ。

 逆に白髪の方の、あの人生を諦めたような感じは俺と気が合いそうだな。死ぬ前だったら友達になってたかもな。


「……それでガチャってなんだ? 引いて終わりならさっさと引かせて放ってくれるか?」


「は、はい!  まあ、どうせ当たらないと思うので、説明は省きますねっ」


 女神はそう言うと、一瞬で箱を出現させて俺の前に差し出してきた。うわー商店街とかで見る面倒くさそうなあれじゃねぇかよ。


「女神様ちょっと適当すぎますよ……」


 後ろで赤髪の天使がグチグチ文句を言っている。しかしあまり強く言わないところを見ると、本当に当たらないもののようだ。

 まあどっちでも構わん。早く引いて放ってもらうか。


 俺は穴の空いた箱に手を突っ込み、探すのも面倒なので1番上にある玉を取って確認した。


「………………で、当たりってどんなやつだ?」


「え、気になるんですか? なんだ〜気になるんなら最初から素直に聞けば―――」


「いいから早く言え」


「は、はいっ!」


 俺が女神の面倒な態度に半ギレすると、彼女はその豊満な胸のあたりから1枚の紙を取り出して、開いた。…………そっから物取り出すやつリアルで初めて見た。いや、いたらいたでドン引きするわ。


「えーと、当たりの確率は1/1,000,000,000で……当たった方はもれなく、そのまま異世界の勇者になって魔王を倒す使命を得られますね。それ以外は……まぁ、特にないので輪廻の輪に乗るまでの間、お菓子でも食べて貰いながら過ごすことになりますね」


 前者は有り得ねぇけど、後者は最高じゃないか。俺は改めて自分の引いた玉を見た。


「…………ちなみに当たりの玉にはなんて?」


「それは見れば分かりますよ〜。おっきく『当たり!!』って書いてありますもの」


 俺は自分の引いた玉に対して、3度目の確認をした。なるほど、玉に大きく三文字のきったねぇ字が書かれてるな。

 なんだよ、結構当たんじゃねぇか……。


「……で、拒否権は?」


「(拒否権なんて認め)ないです!」


 女神はいい笑顔で、いい声で答えた。

 なるほど拒否権は無しってか……。


「…………あ、この人当たってる」


 俺が色々考え込んでいると、いつの間にか後ろに回り込んだ白髪でやる気なさげな天使が俺の玉を報告した。


「またまた冗談なんか言っちゃってー」


「……これだが」


「―――ん?……えっ、えええええええええええええ!!!!」


「う……そ…………当てちゃった……」


 俺が仕方なく当たりの玉を見せると、女神は大仰に驚き、後ろの赤髪天使なんかは腰を抜かしていた。


「お、おめでとうございます!」


 女神がパチパチと手を叩いて俺を祝福する。一方の俺は自分でも分かる……人生でもしたことないくらい顔が死んでるわ。

 ないわー、異世界とかないわー、勇者なんてもっとないわー


「これが喜んでるように見えます?」


「ええ、とっても!」


 ……こいつ頭かち割ってやろうか。


「じゃ、じゃあ早速転生魔法をかけますね! 転生まで10秒ほどかかるので待っててください!」


 そう言うと女神の周りに白い魔法陣のようなものが出現し、俺の周囲にも同じようなものが現れ、俺を白い光が包み込んだ。綺麗ではあった。


 まぁ、魔王討伐なんてマラソンより遥かに面倒なことしなくても、すぐに自殺すれば問題ないな。そうして、俺がどうやって死のうか思案しつつ目を閉じていると────。


「あっ、ちなみにいくら死んでも教会で復活しますし、魔王討伐に時間がかかりすぎたら毎日催促の天啓出しますからね!」


「おい、そこを動くなクソ女神、10秒で殺す」


「えっ、ちょまっ……いやあああああ!! 止めてええええ!!」


 目を血走らせた俺が人生でも出したことのないスピードで女神に突進しようとするが、赤髪の天使に羽交い締めにされた。こいつ幼女のくせに、力がやけに強いんだが?


「女神様逃げてください!  こいつ目がガチです!」


「ちょっと離せ赤髪幼女天使。今からあいつの首をへし折ってくるからよ!!」


「私をそんな名前で呼ばないでください! 私には『アカエル』って名前が……っ!?」


 俺は天使の力に負けず、ジリジリと女神の元へ近づく。


「ち、ちょっとシロエルもこいつ押さえるの手伝って! こいつ人間なのに力がおかしい!」


「……やだ、めんどい」


「じゃあ、あんた何しに来たのよおおぉ!!」


 あと……あと3歩であのクソ忌々しい顔を真っ赤に染めてくれるのに………………!


「早く転生してええええ!」


 俺が女神の顔に手が触れる瞬間、視界が白く染まり、全身に浮くような感覚が訪れた。


 あいつ……絶対殺す! 何があろうとぶっ殺す! 面倒くさいけどぶっ殺す! じゃないと俺の気が収まらねぇんだよ!!


 魔王討伐編もいよいよ大詰めです!


 ──────────────────


『第1話』


 ……気づいたらそこは広大な草原だった。

 あぁ、青い空、照りつける太陽、広がる真っ白な雲、辺りを取り囲む…………草ァ!


「くそ……転生しちまった……」


 俺はそんな辺り一面のクソみたいなミドリの中で1人、膝をついて全力で悔しがっていた。


「あの年増クソ女神ぜってぇ殺してやる……!」


 強い憎悪の念を抱くも、相手は一応(雇われ)女神。面倒ごとをしなければ殺せないのなら諦めるしかない。


「あーもういいや、もうここで一生寝てすごし……うん?」


 歩くのも面倒な俺は早速そこで寝ようとするが────何かカードのようなものが下にあるな。


 体を起こしてそれを見てみる。


「冒険者カード? なんだこれ」


 冒険者カードと書かれたものには俺の名前の『ミナト』という文字と謎のマークがあった。


「おっ」


 試しにマークに触れてみると、カードに記載されている内容が変化した。

 うわ……読むのめんどくせぇなぁ……。

 まぁ、読まない方が面倒なことになりそうだから、とりあえず読んだ。


『ミナト』


 HP50 MP25


 投石スキルLv1000


 防御スキルLv1000




 ………………ん?


 目を擦ってもう一度見てみる。



『ミナト』


 HP50 MP25


 投石スキルLv1000


 防御スキルLv1000





「……………………は?」


 いやいや投石スキルってなんだよ、Lv1000ってなんだよどうせLv1000なら光合成スキルが良かった!!  しかも投石スキルってあれだろ? モン〇ンで挑発にすら使えるか微妙なあれだよな?


 要するに? クソみたいなスキルを与えられ? 勇者として魔王と倒せと? 自殺も出来ない、クソ忌々しい女からの催促も来る?


「もう意味わかんねぇよ……」


 あーこれ死なない方が良かったのか? ……もう何もかもが嫌になったから、冒険者カードをポケットに押し込んで再び寝転がる。そういえば服装は前世のまんまなんだな。……どーでもいっか。



 それから数時間後、もはや風に転がる石よりも石になりきった俺はとある音に気づいて顔を上げた。


「なんだこの音……?」


 ドスン、ドスン


 音は段々近づき、それが背後からしていることに気づいて俺は後ろを向いた。

 そこには全長10メートルはある巨大なゾウが2頭。俺のことは気づいていないようだが、どう考えても序盤に会うような相手ではない。


 おっ、これはもしや……行けるかもしれない。


「……よしっ、死んでみるか」


 ちょうど投石スキルがあるんだ。挑発して死んでみよう。

 ゾウは見た目以上に獰猛と聞いたことがあるし、ぺしゃんこにして殺してくれるだろ。


「石ころは……これでいいかな」


 直径5センチ程の石を手に持ち、肩をグルグル回してウォーミングアップ…………うん、もう疲れたからこんぐらいでいいや。


「じゃ、こっちに気づいてくれよ──────っと!」


 昔1度だけやった野球のピッチャー。意外と筋がいいと言われたその感覚を思い起こしながら、前にいる方のゾウに向かって全力でぶん投げた。


「………………あれ?」


 投げたと思ったら石が忽然と消えた。おかしいな、確かに手から離れたと思うんだが…………?


 念の為前にいる2頭よく見てみると、狙った方のゾウが足を止めてるようだ。

 そのまま様子を観察していると────。


「……はい?」


 足を止めた方のゾウが凄まじい砂埃を舞わせながら倒れた。何故か血も噴水みたいに出てる。後ろにいるもう1頭がすごい困惑している。そりゃそうだ、俺だって困惑している。


 すると困惑していた方のゾウが俺の存在に気づいたのか敵と認識し、猛スピードで突っ込んできた。


 まあ、何はともあれこれはこれでいいか。結果的に襲われるわけだし、安心して死のう────。


「……………………」


 足音が地響きと共に近づいてくる。俺は目を閉じて2度目の最期の時を待ち続けた。


「……………………」


 待ち続ける。待ち続け――――


「……………………あれ?」


 既に足音は止まっている。

 おい、焦らさずにあくしろよ。俺は死にたいんだ。

 取り敢えず目を開けて何が起きているのか確認してみると────そこにはゾウの巨大な足の裏があった。


「っ!? びっくりした……」


 踏まれる3秒……いや1秒前くらいの距離。

 それがまるで見えない壁に阻まれているかのように届かないでいる。

 見えない壁…………?


「……まさか……んな馬鹿なことが、」


 俺はポケットの冒険者カードを確認する。謎のマークを押して、防御スキル詳細を確認。


【鉄壁】……防御結界の生成が可能。他人や物にも付与可能。使用可能範囲:∞ 。


【自動防御】…………被弾直前に、絶対不可侵領域結界を自動展開。


 防御スキルLv1000ってこれのことか!あのクソ女神面倒なものばっか押し付けやがって。ていうか絶対不可侵領域結界ってなんだよ!名前なげぇし、本当に通さねぇじゃねぇかよ!


 ……自殺出来ないじゃねぇかよぉぉぉーー!!!


「あっのクソ野郎ォ……」


 俺は遥か天上世界にいる女神に列記とした殺意を覚えた。やっぱり殺す。

 その為にも目の前のゾウが邪魔くせぇ。投石しかできないないけど、やるだけやってやる。


「おらよっ!」


 ドゴォン!!


 俺が軽く足元に向かって石ころを投げてみると、地面に凄まじい爆発が起こった。

 え、なに地雷でも当てちゃった?

 ゾウが激しく鳴く。その足元をよく見てみると太い足に直径5センチの穴が空いていた。血もワインボトルを逆さまにしたように流れ出てくるわ。


「あー、そゆことな」


 なんとなく何が起こったか理解したぞ。防御スキルLv1000があれなら投石スキルLv1000も規格外ってことか。

 とりあえずこのゾウは用済みなので、石を脳天に投げて頭蓋骨を跡形もなく吹き飛ばしてやった。……それにしても、この草原やけに石落ちてんな。

 再び暇になる…………いやしかし、少しだけ楽しかった。こんな気持ちは18年振りかもしれん。


 ……つまりは初めてということだ。


「もう少しスキル見てみるか……」


 俺にしては珍しく、スキルに少しばかり興味を持った。2つしか無いしそこまで面倒な作業でもないからな。

 再び防御スキルを見てみる。


【鉄壁】……防御結界の生成が可能。他人や物にも付与可能。使用可能領域:∞ 。


【自動防御】…………被弾直前に、絶対不可侵領域結界を自動展開。


 この【鉄壁】にある付与ってどんなのだろうか。俺は石を手に持ち、試しに発動してみた。


「【鉄壁】…………おおっ!」


 すると石が網目状の球体に覆われた。

 直径5センチ程の石が直径10センチ程のボールに早変わりだ。この大きさならさっきのゾウも秒殺できそうだな。


 続いて投石スキルも見てみる。


【千里照準】……相手がどこに居ても照準をつけることができる。名前検索可。


 ……G⚪︎⚪︎gleかよ。……どうでもいいけどな。


「【千里照準】」


 声に出して見ると、視界にまるでゲーム画面のような照準マークが浮かび出した。


 右端に検索画面があるな。俺は半分冗談でそこに『魔王』と打ち込んで検索をかけてみた。

 まぁ、そんなイージーモードなわけ────。


『検索完了。ターゲット名「魔王」に照準を合わせますか? YES/NO 』


 機械的な音声と共に目の前に文字が現れた。

 おっ? まさか?


「い、YES」


 そう言うと、山の向こうに人型のシルエットが浮かび上がった。その上に三角マークと距離が表示される。


 俺はその位置に体を向けて、先程防御スキルで作成した直径10センチのボールを構えた。


「おらよっと!」


 試しに全力で肩を振りぬくと、目にも止まらぬ速さでボールが飛んでいった。投げたとき僅かにズレたが、ホーミング弾のように軌道を曲げてシルエットに向かう。


「………………」


 数秒後、


『Congratulation!!』


 …………魔王が討伐されました。



 ……………なんだそれ?



――――――――――――――――――――――


第9作目はてのてのさんの『異世界スローライフ(物理) 〜人生を投げた俺は異世界でも投げるハメになりました。〜』でした!


書き直すところがなさすぎてもはやネタを入れ込むだけになりました(白目)


さすが、サクッと5桁のPV獲得するだけあると確信するくらい、直せそうなことろがあまり見つかりませんでした。さすが、の一言でした。


良ければ見てくださいね!

↓↓↓こちらから↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886844069





さて、次が最後の作品、リンゴンさんの『その転校生、殺し屋ですよ―――』です。

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