『偽装クール会長三雲さんと素直になれないハジメ君』byデトロイトのボブ
あらすじ
普通でなんの取り柄もない少年 工藤創にはある秘密があった。
彼には嘘を見抜ける力があり、幼い頃から彼の日常は全部嘘で塗り固められていた。
誰よりも平凡な人間になろうと自分自身に嘘をつき続けて早十年。
平凡の振りをずっと続けられると工藤創は思っていた。 しかし、三雲真梨愛という入れ替わり能力を使える少女に出会った事で工藤創にとってつまらなかった学園生活は豹変する。
学園内には三雲真梨愛以外にも能力者がおり、工藤創は彼女達が起こすトラブルに巻き込まれる。幼なじみヒロイン宅からの脱出、セクシー美少女との対決など。
ドキドキなトラブルに果たして工藤創は彼女達とどう向き合っていくのか!
それではどうぞ!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
01
(……せますぎる)
今、俺はおしくらまんじゅう状態の満員電車に乗っている。周りは死んだ魚の目をしたサラリーマンばかりで夢の欠片すらありゃしない。
満員電車に揺られながらなんとかポケットからスマートフォンを出し、高校がある最寄り駅につくまでの間、お気に入りの音楽を何曲か垂れ流した。
電車内は人と人が密集しているせいで、聞きたくもない会話も聞こえてくる。誰が押しただの、痴漢冤罪、うるさいおばさんの声などはっきり言えば、不愉快だ。
だから俺はイヤホンを両耳に繋げて、現実世界から抜け出し、旋律の世界へと足を踏み入れていた。
いつも通りに俺は代わり映えのしない風景を眺めているふと隣にとても希望に満ち溢れている男性の顔があった。
何を楽しそうにしているのか分からないが、今どき珍しい人もいるもんだなぁ……
「―――きみ」
「ん?」
少し、隣にいる人物が俺の目を見て何か喋っているな。一応イヤホン外すか。
「君、もしかして桜ヶ丘高校の生徒かい? 」
「えっ……えぇ、そうですが……貴方は? 」
桜ヶ丘高校のOBの人かと思いつつ、聞いてみるとその男性は希望に溢れた眩しい表情を崩さず、自分の身分を話した。
「僕は今日から君達の高校に着任する事になったんだ。 まさか、初日から生徒と喋れるとはついてるな」
あー今は四月だから、もしかして新卒の先生なのか? それならあの顔にも納得がいく。
話した感じだと良い人そうに見えるし、生徒にも人気が出そうだ。でも……それ以前に問題がある。
「先生、今の時刻を確認した方がいいですよ? 」
現在の時刻は八時十五分、三十分に学校に着けば俺は間に合う。しかし、先生が登校するにはかなり遅い時間帯だ。
「うおぉ!? 初日からやらかすなんて最悪だ!! 」
高校がある最寄り駅に着いた途端、先生は足を車輪のような速度で回しながら階段を降りて行った。
…………嵐みたいな先生だったな。ま、いいか。
――――
――――――
俺は上り坂を登っていき、ピンクの花びらが空を舞い、コンクリートの地面が桃色に染められている桜並木をくぐり抜けていくと学校が見えてきた。
花粉症が辛い人はここの道通るの大変そうだなとつくづく思う。と、考えてると校門前に立っていた一人の女子が話しかけてきた。
「あ、おはよう! ハジメちゃん」
「おう、今日も風紀委員長様は頑張ってるな」
目の前で笑っている女子は俺の一個上の幼なじみ、呉野叶枝だ。いつも毎朝、生徒の荷物検査を行っている。
身長は同年代の女子より大きく、街中を歩いてるとスカウトを受けるぐらいに顔は綺麗だ。文武両道で、男女からの人気は凄まじい。ウェーブがかかったセミロングは幼なじみの俺でも思わず見惚れてしまうぐらい美しい。
一見すると完璧な美少女ではないかと思うが、そんな叶枝にも少しだけデメリットがある。それは……
「ハジメちゃん、ちゃんと私が作った朝ごはんを食べてね。インスタントばっかり食べてたら栄養偏るよ? お弁当はハジメちゃんが好きな鮭のおにぎりやだし巻き玉子も入れたから! あっ、誰かにあげたりしたら駄目だよ? お代わりしたかったら私のお弁当も分けてあげるから安心してねっ」
……このように過保護なところだ。叶枝は小さい頃から俺の身の回りの事をしてくれて、助かるが行き過ぎなところがある。
「わーかった、わかった。ちゃんと弁当は残さず食べるから」
「むぅ、私はハジメちゃんの体の事を思って言っているんだから……ちゃんと聞いてっ」
まずい、叶枝のスイッチが入ってしまった。誰かが止めないと永遠の説教を食らう事になる……
「呉野風紀委員長、自分の仕事を放棄して何をしているんですか?」
「っ! 三雲生徒会長……」
俺は後ろを振り向くと、そこには氷のような表情をした少女がいた。
三雲真梨愛(みくも まりあ)、桜ヶ丘高校の理事長の姪で三雲財閥の跡取りだ。
叶枝と比べると身長は小さいが、そんな叶枝に対して表情も変えずに意見を氷の刃のように突き出す。
また、生徒達からは『孤高の冷血女帝』と呼ばれており、恐れられている。黒く長い髪を靡かせながら、叶枝を蛇のように睨んでいた。
「風紀委員長とは名ばかりに、噂では一部の生徒にだけ持ち物検査を緩くしてるみたいですね」
「そ、そんな事はないわ」
三雲は嘘はついていない。 何故、嘘をついていないと言えるのかというと……
俺には嘘を見抜ける能力がある。他人が嘘をついた場合はその人の周辺が淀んだ色になる。逆に嘘をついていない人は色が一切つかない。
この能力のおかげで俺は小さい頃の『あれ』を乗り切った。
叶枝は昔から嘘をつくのが苦手で直ぐに顔に出てしまう。
……仕方ない、叶枝の為に嘘をつくか。
「真面目で誠実な叶枝が特定の生徒を甘くするわけないじゃないですか。それに、そろそろHRの時間始まりますよ。 三雲会長」
三雲は俺の顔を見た後、自分の時計を確認すると少し眉がピクっと動いた気がした。
「確かにもう時間ですね、教えてくれてありがとう。工藤さん」
三雲は俺にお礼を述べ、黒髪を春の風に靡かせながら教室へと向かって行った。
……ん? 今、気のせいか笑っていたような……
「……ハジメちゃん、何見惚れてるの? 」
叶枝は頬を膨らませるながら、俺に嫉妬の篭った怒りを露にしていた。変に触るとまた長くなるし本当に授業が始まるからサクッと流すことにした。
「見惚れてなんかないよ。そんな事より早く行こうぜ」
「……うん!」
02
「はぁ……やっと午前の授業終わった」
俺は先程の事件のせいで、四時間目が終わった瞬間に疲労が体に降り注いできた。
「今日は本当にツイてなかったな、工藤」
俺の形だけの友達兵藤春馬(ひょうどう かずま)といっしょに昼ごはんを食べながら朝っぱらの事件を愚痴っていた。
こういう時に形だけの友達でも作っててよかったなと感じる。
「まあ、朝の事件は工藤以外止められなかったと思うぜ。先生も傍目から見てたしな」
「それはそれで問題と思うけどな」
俺は弁当を食べ終わった後、購買で買ったパンを食べようとしたその時、教室前に見覚えのある人影が見えていた。が、出来ればスルーしたい。
「なあ、兵藤。あそこにいるのって誰だろうな」
「誤魔化すなよ、工藤。お前も自分の幼なじみの性格を良く知っているだろうに」
はぁ……もう俺の体は午前の段階で疲労困憊しているのに幼なじみの叶枝さんはあそこで何をしようとしているんだろうな……。
「ったく、仕方ない。兵藤、叶枝の用事が終わったら何か奢ってやるよ。愚痴を聞いてもらったしな」
「おいおい、死亡フラグを立てるなよ……」
俺はパンを早めに食べて、クラス前にいる叶枝の元に行く。 兵藤は何故かニヤニヤしながら俺を見送っていた。
廊下には女子が持つには重たいであろう書類の山を叶枝は苦しそうにしながら持っていた。……もうこの時点で、叶枝が何を要求しようとしているのかすぐ分かる。
「叶枝、他の風紀委員にその書類持たせないのか?」
「他の子達は三雲の事を怖がっているから行かないよ。私も今朝の事があるから行きたくはないんだけどね」
やっぱり三雲は他の生徒からは嫌われているのか……叶枝も今朝の事があって行きずらそうだしな……。
「分かった、この書類を生徒会室に持って行けばいいんだな?」
「めんどくさい事押し付けてごめんね。この恩は後で誠心的に……」
申し訳なさそうに叶枝は俺に書類を渡し、何度かコチラを振り向き手を合わせて「ごめんね!」といいながら去っていた。
「よし、じゃあ行くかな」
生徒会室は俺が在籍しているクラスの近くにあるので、少し楽だ。
女子に重たいものを持たせるのも男子としても少し気が引けるしな。
俺は軽々と持ち上げながら五分もしない内に生徒会室に着く。
「叶枝にああ言ったものの、やっぱり緊張するな」
大量の書類を持った俺はノックをせず、生徒会室の扉を開ける。 少し無礼だけど、誰もいないだろうに後で謝ればいいよな。
「生徒会長ー、風紀委員長の代わりに書類持ってきた、ぞっ!? 」
「ちょっ!? 工藤君!?」
三雲の美貌が俺の直ぐ目の前にあり、我を忘れそうになった。
どうやら三雲は何処かに行くようで急いでいたようだ。
つまりは……そういう事だ。
「「あいたっ!!」」
三雲のおでこと俺の鼻先が激しく正面衝突し、俺は自分がノックをしなかった事を後悔した。
持ってきた書類を盛大に空中にぶちまけながら俺の意識はだんだんと薄れて……いっ…………た――――――。
______________________
7作品目はデトロイトのボブさんの『偽装クール会長三雲さんと素直になれないハジメ君』でした!
2連続で書いたので多少疲れちゃいましたが、良かったです!
書き方がボクと似ていたので、言い回しを変えるだけでした。
リンクを貼っておくので良ければ是非見てくださいね!
↓↓↓偽装クール会長三雲さんと素直になれないハジメ君↓↓↓
https://ncode.syosetu.com/n2669ev/
そしてお知らせです。
8作品目のリンゴンさんですが、1話の改訂をすると言うことで10作品目に移行します。
よって次は9作品目のめがわるいあきさんの『Change the World 〈At Chronostasis〉チェンジ ザ ワールド〈クロノスタシス〉』になります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます