『正義の味方と僕』by 大臣
『正義の味方の始まりは、とある町での何の変哲もない出会いだった……』
〜あらすじ〜
ある町で、浅川祥(あさかわしょう)は面倒な事に巻き込まれていたところを1人の少女に助けられる。
名前は星川響(ほしかわひびき)。まるで正義の味方のような星川は、傍観者である浅川にとって、鮮烈な印象を与えた。
やがて、二人の日常は変化する。
静かな、なんの変哲も無い、それでも幸福な日常を
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〜第一話〜
さて、始める前に僕らの町の話をしようと思う。
S県某市にある僕らの町は、JRを駆使すれば、そこそこ都心も通勤圏内だ。そして、町内には小学校が8校、中学校が4校。そして、高校が2校と、私立学校法人が1校ある。
その中の学校法人三月学園は、戦後日本の人材育成のために、1952年にその使命を成す為に産声をあげた。
当時は中高一貫であったが、そこから規模を凄まじい速度で拡大させ、現在の「三月大学付属三月学園」に正式名称を変える頃には幼稚園と小中高までが一貫となっている。
揺り籠から墓場まで___とまでは流石にいかないが、人生のおよそ六分の一程を、この学園で過ごすことになる。
僕は小学生、星川は少し遅れて中学生になってから、三月学園へ入学した。
……もっとも、最初の頃は接点なんてなく、互いの事なんて全く知らなかった。当然、僕と星川が同級生だと言うのもその時は知らない。
そんな中で僕らが初めて出会ったのは、中学2年生の春休みの時だった。
******
世の中の中学生が、受験闘争真っ只中の3月、そんな様子を横目に見ながらも、一貫校に通う僕は別になんとも思わず、怠惰な日常を過ごしていた。そんなある日のこと、僕は町の書店に行った帰りに、1階がレジで、2階が飲食スペースとなっているファストフード店で昼食を取ろうとしていた。
頼んだものはハンバーガーとドリンク、ポテトのセット。安いものだが、書店帰りにはちょっと痛い出費だ。しかし、そうは言っても、どうせ今帰っても母親が、
「いや、急に来られても困るし。自分でご飯は作りなさい」
とか言って、無理難題をふっかけてくるに違いない。それに僕に料理なんて生活力を求めてはいけない。
だから仕方なく、僕は店に寄った。
僕はそこへ行って座り、ゆっくり食事をとろうとしたがそれも叶いそうになかった。
問題は、はっきりしている。店内の客だ。
幼稚園ぐらいの子供を連れた女性。就職したばかりなのか、スーツを着慣れていないのが見え見えのサラリーマン。ここまでならまだ普通なのだが……一つの学生グループ。これが大問題もいいところだ。
「それでね、ヒロミがさ、私を無視してくるのー、私のせいじゃないよねー」
「うんうん、ひど〜い」
「だよねー」
きゃはははは、と、グループ全体が笑う。そこに潮騒のような穏やかさはなく、まるで飛行機が目の前を通り過ぎる時に聞こえる爆音のようだ。そんな騒がしさの中にいるから、集中して食べられることなんて出来るはずもない。
……いつまでも、うだうだ言っててもしょうがない。取り敢えずさっさと食べて家に帰ってから、買った小説を読もう。僕は、ハンバーガーの包み紙を剥がし、一口、口に含む。美味しい……はずなのだが僕には添加物たっぷりのの味が、脳みそに届くようにしか思えない。なぜだろう、
きゃはははは……
……はぁ、やっぱりうるさい。
あまりの騒音に思わず、学生グループをちらりと見てしまった。
その時、最初は分からなかったあることに気づいた。
彼らの奥に、もう一つ別の学生グループがいたのだ。手前が派手めな大学生ならば、奥手にいるのは地味な高校生の集団。そして、その中に1人だけ中学生ほどの女の子が混ざっているのが見えた。高校生の中なので、尚更に浮いて見える。なかなか整った顔立ちをしているが、無表情なので、さながら人形のような印象を与える。
「ちょっと、何見てんのよ」
思わず長い間見てしまっていたようで派手めな女子学生に、そう言われてしまった。明らかに険しい声だし、表情は能面のような……ていうか睨んでいる。後悔しても、もはや後の祭りだ。どうにかして事態収束を図らなければいけないが……どうしたものか___。
「いやぁ、すみません。あなた方を見ていたわけではなくてですね」
一応、虚しい言い訳をしてみた。これで収まってくれれば___
「おい嘘つけよ、今ガン飛ばしてたよなぁ!?」
派手めな男子学生が、机をドンっと叩きながら怒鳴る。なんだか油に火をつけた気がするけどきっと気のせいだ。
「まあまあ、落ち着いて」
僕は、気色ばむ男をなんとか宥めようと試みる。でも、彼は顔を真っ赤にして、鬼の形相といって差し支えないような表情で、両手の拳をプルプルと震えさせている。
あぁ……やってしまった。
直感的に一発殴られるだろうと覚悟を決め頬へと衝撃に備えた。だが、彼の拳は、空を切ることすらなかった。
「ちょっと、うるさいですよ」
この場に響くには、落ち着きすぎた声。さらりとしたアルト調の声が入り込み、みんなの視線が一気にそちらの方へと集まった。
あの人形のような女の子が、いつのまにか席を立ってこちらを見ていた。
「おい、関係ないやつは黙って引っ込んれろよ!!」
「関係はある。このお店に、入った時から、既にね」
男の方は余りの怒りで、呂律が回っていない。彼女はそれに、間髪いれずに言い返して、隙を与える暇もなく追い立てた。
「貴方達、私達が入った時からうるさいわよね?その時点で、私達と貴方達との間ではもう被害者と加害者の関係になっていることを自覚してるの?
だから、私は、一人の被害者として、貴方に物申す権利がある。はっきり言えば、貴方達にはさっさと退出頂きたい」
この言葉に、男はすでにひどい顔を、さらに歪め、怒りを周囲にぶちまけそうになっていた。一方、その女の子の方は、特に怒っているわけではなく、とは言っても、怯えているわけでもない。
ただ、無表情に、人形のように、男の顔を見つめている。それだけだ。
男の怒りは、既に沸点に達していたのだろう。男の手が上がりその女の子がぶたれる、そう思った時だった。
「でていけー!」
一触即発の場面に不釣り合いな、無邪気な声が響いた。声のした方向を見ると、幼稚園ほどの男の子が、母親に庇われるように口を塞がれていた。
しかし、こうなってしまってはもう遅い。
無邪気とか、幼さは、時には残酷に、熱狂的に、人を動かす力になる。
一瞬で店内には、耐えかねた人々の声が均衡を破壊したように響き渡る。
「とっとと出ていけ!」
「そうだ、そうだ!静かにしてたいんだ!」
「もううんざりているんだよ!」
店内のあちこちから響く、批判の声に耐えかね、派手め学生グループは、尻尾を巻いて店内から逃げ出していった。
その時、さっきの男が泣いている派手な女子学生になだめていたのが滑稽で仕方なかった。
でも、たとえ滑稽であっても、僕は彼らを糾弾も、笑い飛ばすこともしない。所詮僕は傍観者だ。最初にちょっかいは出されたものの、途中から、物事の進行は僕の手をもう離れていたから、やはり僕は傍観者だ。
立ち向かうこともせず、誰かが全部背負ってくれる人が現れるのをただ期待するだけの人が、糾弾や、バカにしたりするのは余りにも身勝手な行為だ。
だから、僕は一人なのだろうが、そうなっていても僕は何もしなかった。
彼らがいなくなった瞬間、勝鬨をあげるかのように鳴り響く万雷の拍手の中でもその女の子は一人で目を閉じていた。
「ありがとう」
拍手がひと段落したあと、僕は彼女の元へと向かいお礼を言った。
「いいのよ。当たり前のことをしただけだから」
そんな時でさえ、彼女は人形のような表情でいた。きっと、彼女を称えるあの拍手の中でも、ずっとこの表情だったんだろうな、そんなふうに考えさせられてしまった。
こいつ、絶対に只者じゃない。それが、この時、僕が星川に抱いた第一印象だった。
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はい、今回は大臣さんの作品でした!
星川さんが本当にどこまでも真っ直ぐなのでそんなヒロインを見たい方にはぜひ見てもらいたい作品です
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