『#ソラノート』by水空ちぃ

 あらすじ


 主人公であるソラ・グレイシアがとある村のとある少女と出会い、進んでいくお話。日常を淡々と描いたり、たまに戦闘したり、ごく稀に冒険したりなど色々と試行錯誤しながらやっていく様を日記のようなものにした作品。日記要素ないけど。



※6,500字程度あります

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 第一話



「はぁ、お兄ちゃん……今何してるのかなぁ……早く会いたいよぉ」


 地平線の遥か先まで伸びきそうな美しく晴れ渡る雲一つない青空。それをぼんやりと眺めながら、涼しい風にスラっと伸びた白髪を靡かせて、ただ何をするわけでもなく大きな岩の上で私__ソラ・グレイシアは寝っ転がっていました。

 静かながらも遠くから、草葉の揺れる音がまるで潮騒しおさいのように耳朶じだに伝わってきます。

 それは、一見すればなんでもないような、ささやかな日常の一幕。ですが、実際のところはそうではないのです。だって。


「……ここ、どこなんでしょう……」


 …………絶賛迷子中なのですから。


 ******


 私には自分なんか比べ物にならないような自慢の兄がいました。

 家は特に語ることもないような平凡な家でしたが、双子として生まれた私と兄はとても優秀だったみたいで、周りからは持て囃されました。

 実際、私は運動こそ苦手でしたが頭の回転や魔法の才に関しては他の人よりかはあるつもりですし、細かな作業をすることにおいては誰にも負けた事がありませんでした。

 ……しかし、成長すると共に秀でた才能と言われていたことも、他の人より少しできる程度になってしまいました。

 それも当然です。最初の一歩が他より早かっただけなのに私は、その一歩により縋ってばかりであまり努力をしてきませんでした。

 ですが……兄は違いました。元から大人達よりも運動神経がよく、学力も私は一回たりとて兄を上回れたことなんてありませんでした。

 魔法の精密さでならば私も何回か勝ったことはありますが、魔力量、魔法適正、威力、その他諸々全てにおいても倍以上もの差があって、私とは比べることがおこがましい、と思ってしまうほどでした。

 そうして出来すぎた兄に引け目を感じていた私に兄はいつもこう言ってくれました。


「……いつも言ってるだろ? 俺には前世の記憶があるんだ。俺の力は前の世界からこの世界に来るときに神様と会ってな、その時に様々な恩恵を受けたことで得たんだ。だから、この力は俺の物じゃないんだよ。……こんな力なんかよりも自分で頑張ってここまでできるようになったソラの方が俺の何倍も凄いんだよ。ソラは俺の自慢の妹だ」


 それは、小さい頃の私が様々なことでいつも兄と張り合っていたので、そんな私を納得させるためについた優しい嘘だと今になっては分かってます。

 けれど、小さい頃の私はその言葉と一緒に話してくれる様々な物語がとても大好きで、すっかり信じてしまっていたのです。

 今思えば、すごく兄を困らせていたんじゃないか、と思います。でも、兄の話は妙に信憑性がある内容だったので信じちゃうのも仕方がなかったのです。






 ******


 そして1年と少し前、兄は冒険者として生きていくといって家を出ていきました。

 その時には剣も魔法もそこらのドラゴンなら倒せるくらいの腕を持っていた彼を止めようとする人はいませんでした。


 ……私以外は。

 私は兄と離れるのが嫌でした。

 別にブラコンな訳じゃないですよ? 

 ただ、今まではずっと一緒にいて、楽しいこと、辛いこと、美味しかったこと、泣きたくなるようなこと、様々なことを共有していました。

 私の中で”それ”は当たり前のことでした。兄のことを考えようともせず、勝手に一緒にいてくれると思っていたのです。単なる私の驕りですね。


 結局引き止めることはできませんでした。

 それなら私も一緒に行くと、そう言いましたが戦闘に向かず、魔法も日常的なことにしか使えなかった私は、それすらも親に止められてしまいました。

 それ以来、私は悔しくて悔しくて魔法の練習を沢山してきました。

 最初は兄にたどり着くためでした。

 しかし、練習をすればするほどそれは無理なんだと、私と兄の間にある溝はそんなもので埋められるものなんかではないんだと、現実を叩きつけられるばかりでした。


 それを理解してから、次第に私の目標は変わっていきました。

 兄が進んだこの世界は、一体どれだけの不思議が――冒険があるのだろう、と。

 そんなことを思っているうちにいつしか、私は旅に出よう、そう思うようになりました。

 この世界のことを兄がしてくれたように、いろいろな人に楽しんでもらいながら話ができるようにと、そして、いつしかまた兄に会った時に本当に認められるだけの立派な私になれるようにと。


 そして先日、その夢の第一歩である、旅の許可を親からもらうことが叶いました。

 その後いても経ってもいられず、その日のうちに準備をして次の日には旅を始めました。

 最初は親からも言われていた王都に向かっていました。

 親曰く、旅に出るなら王都に出て世間を知ってから色んな所に行くのがいいそうで、言われた通りに向かっていた筈だったんですけど……私は現実を甘く見ていたようです。

 まさか、自分の才能がここまであるとは思いませんでした。

 王都には何度か行ったことはあったので、だいぶ前のこととはいえ、詳しい道順を覚えてはいませんでしたが、大体の場所くらいは覚えていたつもりだったので、すぐにたどり着けると思っていました。

 ………なのに、まさかここまで……これほどまで、ひどかったとは。



 はい、その類希な才能の名は……そう″方向音痴″です。




 途方もなく4日ほど歩いた挙句、王都にたどり着くどころか人っ子一人すらも見当たらないような草原を延々と歩いていました。

 流石にもう嫌になってしまい、休憩としてちょうど良さそうな岩があったので、その上で横になっていたのが今の私の状況です。


「せめて、人に会えたらいいんですけど……」


 いい加減、食べ物も無くなってきたので少しまずいです。

 水は魔法が使えるので、困ることはないですが……食料はそうにもいきません。

 家畜や魚、野菜や果物をどうにかして得て食べなければいけません。

 自分で採ればいいって? 残念ながら人の土地で許可なく物を採取すると捕まるんですよ。

 そういった物の取り引きを仕事にしてる人たちは、ちゃんと手順を踏んで許可をもらってるんだと思います。つまり、そういったことをせずに私が採ると一発アウトです。

 魔物なら狩ってもなにも言われないんですけど……魔物のお肉は正直なところ美味しくないです。それに、ここら辺にはあまりいませんしね。

 まぁそういったわけで、実際問題、こんなにゆったりしてる暇はなんてないわけであって。


「んしょっと、そろそろ行きますか」


 少しだけ先を急ぎましょうか。

 そう決心すると、私は岩の上で立ち上がり、横に置いてあったポーチを肩に担ぐと、右手を空へ掲げました。


「風よ私を運んでっ!! 神の息吹!!」


 精神を集中させ魔法を唱えると、辺りの空気ががらりと変わりました。先ほどまで小さく吹いていた風の音は止み、照り付けていた日差しも今の私には届きません。

 風が止んだと思った次の瞬間、私の周りに小さな竜巻が現れ、その竜巻は私を包み込むように発生し、そのまま私の身体を宙へと浮かび上がらせます。身体は下に落ちることはなく、上へ、上へと上がっていきました。

 雲に手が届きそうなところで、動きが止まり、次は横へと風に運ばれ進んでいきます。

 遥か上空から見た草原は緑豊かで、先ほどまで見えていた範囲からは想像もできないくらいに広々としています。

 しかし、やはりというかなんといいますか、相当に変なところまで来てしまっているのか、本当に人っ子一人も見えることはありません。よーく下を見てみると、小さな動物たちが群れになっているのは見えますが、整備された道の一つさえありません。


「やっぱ歩きよりかはこっちの方が全然効率がいいですね。もうちょっと燃費がいいと良かったんですけど、体が重くて疲れも少し出てきましたね……」


 まぁ、これくらいの予想はしてましたけどね。なにせ今使ったのは上位魔法。大魔導士でもないと使える人がいないという魔法です。しかもその中でも、今の魔法は戦闘向けの魔法で、敵の身体を風で切り刻むという効果を持っているはずなのに、それを完璧に制御して、自分を乗せて移動用として使っているなんていう、魔法使いとして名を売ることなど、容易にできる荒業です……。

 まぁ、私のこのやり方は母から教えてもらっただけなので別に自分で考えたわけじゃないんですけどね。

 まぁ、戦闘向けの上位魔法を移動用にする事を思いつく母も大概な気がします。


「はぁ……せめて人がいる場所にいきたいです。なにかあるまでここでこうして……ゆったりしてましょう……少しきついですけどねっ」


 息が苦しく、呼吸がいつもより乱れますけど、魔法の制御はいつものように安定しています。

 なにか他の手を考えた方がよかったかもですが、まぁ……しばらくはなにかあるまでこのまま飛んでいきましょう。

 あっ、私が履いてるのは短パンなので、変な期待とかはしないでくださいね?





 ******


 夕刻、ちょうど日が傾くかといった頃合い。沈む夕日の中に一つの小さな村を見つけることができました。久しぶりすぎる人工物や、月と太陽以外の明かりをみて感動してしまいそうです。


「あっ……あれ、村ですよね!! これで野宿しなくて済みます!」


 嬉しくて、その場でガッツポーズをとってしまいました。

 ……ガッツポーズって一人だと思ったよりも恥ずかしいんですね。

 でも仕方がないですよ。

 ここ数日ずっと野宿だったんですし、これでようやくベッドの上で眠ることができます。他にも、食事やシャワーなど、ここ数日は簡単に済ませていただけでしたしね。

 とりあえず、このまま行ったら迷惑になるかもしれません。一度地上に降りて、村の中へは歩いて向かうことにしましょう。


 太陽が隠れてしまったのと同時刻くらいに村の入り口にあたると思われる場所へとたどり着きました。

 結構小さな村で家が何十軒かとちょっとした施設がある程度みたいです。

 とりあえず宿を探さないといけないのと、できるなら村長さんあたりに挨拶をしたいですね。


 ******


「さてと……? この家であってますかね?」


 村の中をしばらくまっすぐ歩いて、田畑しか見えない退屈な光景を我慢していると、ようやくそれらしい建物を発見しました。

 その家は他の家より一回り大きく、他の家が木造だけの造りなのに対して、この家だけレンガを使った造りになっていました。

 とりあえず入ってみないことには始まりません。それに私自身も魔法を長時間行使したせいか、もうかなり限界です。

 私は扉の前に立つと、一度深く深呼吸を済ませます。心を落ち着かせると、ノックを3回しましたが、誰も出て来ませんでした。仕方がなかったので扉を軽く開けて、中へと入り声を掛けてみます。


「……夜分遅くにすみませーん。私……わた、し……?」


 ……あれっ? でも、今の私ってなんて説明すればいいんですかね……?

 放浪者……いや、放浪者なのは間違ってはいないんですけど、その呼ばれ方をするのはとても嫌です。

 そうですね……『旅人』、それがいいですね。


「え、えーっと……旅のものですが……誰かいませんかー?」


 改めて考えてみると、今の私って職業不定のかなり怪しいひとですね。

 冒険者ならよくあると思いますが、冒険者でもないのに旅をしているなんて今のご時世だと珍しいでしょうから……。


 中で少し待っていると、建物の奥から何かが倒れるような大きな音が響き渡りました。

 人がいたことに安堵しながらそのまま立っていると、バタバタという大きな物音と共に、腰まで伸びた紫宛色の髪が特徴的なとてもかわいらしい少女がこちらへと走ってきました。

 その少女は、大きく魅力的な目に長い睫毛をしており、ほんわかとした優しそうな雰囲気を漂わせています。身長は私よりも一回りほど小さく、それでいてとても健康的な身体つきをしていました。

 ずいぶんと若そうな――そう、見た目は十五歳くらいでしょうか?

 どうやら随分と急いでいたようで、格好は今していたそのままでした。そう、お風呂の時のまま。

 ……その少女は裸に簡素なタオルを巻いただけの姿をしていました。


「あのっ……お客さんですか? お客さんですよね!? 宿とか決まってますか!? ここ宿屋なんですけど今開いてるんですよ!」


 眼の前にいる少女は自分の格好に気づいていないのか、私の周りを飛び跳ねていました。

 ……ちょっと待ってください!? いろいろと駄目なところが見えちゃいそうなんですけど!? いいんですか!? 見ちゃっていいんですよね!! 目が癒されますありがとうございます!!


「あっ、自己紹介が遅れましたっ! ……わたしはこの宿屋「カトレア」の娘兼村長代理をしております。リリィ、”リリィ・ヴァイオレット”と言います……!!」


 さっきまでのはしゃぎようが嘘なのではないかと思わせるくらい、しっかりとした自己紹介をする。その声すら、とてもかわいらしく耳が蕩けてしまいそうです。

 うん、可愛い。とっても可愛いです。リリィちゃんと言うんですね、とってもいい名前です。


「私は最近旅を始めたばかりの旅人? でいいんですかね。名前は”ソラ・グレイシア”です。この夜分に急に押しかけてしまって申し訳ないです」


「ソラさまですね。そんなことないですよ。お客様はいつでも大歓迎ですっ。それで、ソラさまは本日の宿とか決まってますか? もしお決まりでないなら、是非うちに泊まっていきませんか? 宿のお仕事とかは、ちゃんとできるか分かりませんけど……。精一杯やらせていただきますので!」


 かなり真剣な表情で私へとにじり寄って、お願いをするようにそう私に告げました。

 さっきの反応からしても、本当に人が来てないんですね……。

 そんな甘い眼差しで上目遣いとかこんな可愛い子にされたら、誰でも首を縦にふる以外なにもできないですよ……。

 元々泊まるつもりだったので関係ないですけど、そんなつもりなくてもリリィちゃんのためだけにここを宿にしちゃう人いそうですね。


「……あっ、すみませんっ! こんな無理やりみたいな……決して強制とかじゃないんですっ! ごめんなさい、ソラさまの都合とかも考えずに……」


 もうっ! 天使ですかってくらいに可愛いです……! 感情に合わせて表情がコロコロと変わっていく様子とか、しっかり振舞おうと背伸びしてる感じなのに若干抜けていたりしているところとか……。

 さっきからぴょんぴょんしたり、反省して落ち込んだり、まるで犬か何かのようで……感情の起伏が耳やしっぽとして、幻視してしまいそうです。


「いえいえ、元々泊まる予定でしたので、こちらとしても是非泊まらせて頂ければ、と。それと、是非ご一緒にお話などさせていただけたらと思います……」


 精一杯の笑顔を作り、少しでもお近づきになろうと返事をする。すると、リリィちゃんの顔がぱあっと明るい、周りを照らす太陽のような笑顔になりました。

 ……可愛い、やっぱり可愛い子には笑顔が一番似合います。なんとしても、守り抜いて見せたい、この笑顔……。


「はいっ、ありがとうございます! それじゃあさっそくっ!」


「あのっ……すみませんっ、その前に一ついいですか?」


「……はいっ、なにかありましたか?」


「いえっ、そのー、その前に着替えた方がいいんじゃないかなと……流石に我慢が……。んんっ風邪を引いてしまいますよ?


「ふえっ……?」


 なんのことを言っているのか理解していないようで、目を大きく見開いたまま下を向く。

 あっ、やっぱ気づいてなかったんですね……。

 ……すごいです、白く澄んだ可愛らしい顔が徐々に赤くなっていきます。

 ………………。

 ………………………。


「ひっ……!? ひゃあああぁぁーーーっっ!!?? いやっ……ちがっまっ……!? ちがっ、違うんです!」


 咄嗟に身体を丸めて、タオルでしっかりと隠そうとしています。

 期待以上の反応、眼福です……ごちそうさまでした。

 正直もっと見ていたかった気持ちはありますけど、これ以上は私の方が我慢できなくなりそうですから……。

 少なくとも、これだけで数日は元気でいられそうです。


「うわぁぁぁああーー!!?? すみませんっ! お客様だと思って急いでたんですっ!! 着替えるので少し待っててくださいっっ!!!」


 そう絶叫しながらリリィちゃんは全力で奥へと走り去ってしまいました。

 もう少しあの完成された、神が創造なさったような完璧な芸術作品を眺めていたかったですけどね。



 それにしても、まさかこんな場所で初めて天使と出会えるとは、思ってもいませんでした。

 ふふふっ、旅も案外悪いことばかりじゃなさそうですね。



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もちろん水空ちぃさんにも許可は取ってあります!


長かったぁ……けど、めっちゃ楽しかったですね!

この作品はなろう産の作品ですが興味が湧いた人はぜひなろうの方で覗いてみてはどうでしょうか?


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『#ソラノート』https://ncode.syosetu.com/n6468eq/



第一回の作品のurlもどうぞ!

『女神に愛されて勇者になったけど、女神の愛が重すぎてすでにつらい〜俺、勇者なのに女神が全部やっちゃいます〜』

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