第3話『妻』と擬人化の話
第3話 『妻』と擬人化の話(前編)
「ふわぁぁ~……」
とある土曜日の深夜、俺は『妻』と一緒にアニメを見ていた。寝付けなかった訳じゃない。会社で石田が「これ面白いんスよ~!」と布教してきたのが切っ掛けだ。普段アニメを見ない俺だが、付き合いも大切と考えてのことである。
別に俺はアニメ自体は嫌いじゃない、見るのを敬遠していただけだ。理由は昔見たアニメの出来が酷かったことに始まる。原作設定無視やキャラ崩壊などはかろうじて許せたが、ストーリー自体が矛盾だらけで全く面白いところがなく、途中で気分が悪くなって見るのを止めてしまったのだ。
──フハハハハハッ! 今日こそは魂を根こそぎ奪い取ってくれるわ!
──そうはさせぬ! 死者の眠りを妨げる
久しぶりに見たアニメからは新鮮さが感じられた。悪役っぽい女の子を妙な格好をした女の子たちが迎え撃とうとしている。その中で一際目立つのが、スフィンクスを従えて太陽の船に乗っている女の子だ。『クフ王ピラミッドちゃん』と言うらしい。今流行りの擬人化アニメだそうだ。
(ストーリーよりもキャラ重視なんだな。これは古代遺跡の擬人化アニメか?)
ビールを飲みながら真面目に分析を始める俺。『妻』はというと、やはり相も変わらずちゃぶ台の上で、グデーッと寝そべりながら退屈そうに眺めてた。どうやら何にでも興味が沸くわけではないらしい。
──クッ!
──諦めてはなりません!
──その声は! タージ・マハルちゃんっ!
──待たせたな! 我らに任せるのじゃ!
──
(あ、わかった。このアニメ、お墓の擬人化だ)
『墓乙女』たちは無事に悪魔娘を退散させることができた。エンディングでまさかのミリオンヒット曲が流れ始めたが、聞くと凄まじく悲しくなるのでテレビを消した。そしてパソコンへと向かう、さっきのアニメを詳しく調べるのだ。
(なになに……ふむー日本出身に『
と、ここで『妻』が「まだ寝ないのか」とばかりに机を
(蛇って擬人化したらどんな風になるんだろ?)
蛇、擬人化で画像検索をかける。すると有名アニメのイラストや蛇の着ぐるみを着た女の子、どっかの県のマスコットなんかが出てくる。他に海外のCGアートであろう、全身鱗でボインボインな蛇女まであった。リアルでこんなのに詰め寄られたら、いくら俺でも失禁して泣き出してしまう自信がある。
(こいつが人間になったらどんな感じだ?)
ふと机に乗っかってこちらを見ている『妻』を見た。こうして見て見ると顔つきは整っており、目がクリンとしていて愛らしい。赤みを帯びた
ネットで検索したが、こいつが何という種の蛇なのか判別できなかった。似た種は発見できたが規格外にでかいのである。結局雄なのか雌なのかすらわからない。
(もしかしてこいつ、蛇じゃないんじゃね?)
……有り得る話だ。こいつは蛇にしては余りにも賢すぎる、そして何より人間臭いのだ。魔法か何かで人間から蛇になりました、とか言われたら信じてしまうだろう。
「…………」
俺は正面にあった窓のカーテンを閉めた。
玄関は鍵がかかってる。
他に誰も居ない、大丈夫だ。
きっと疲れて酔っていたせいもあったと思う。
あろうことか、俺はこいつにキスしようと考えていた。
万が一この行いを第三者に見られたとしても、俺が
俺の顔が、すぐ横にいる『妻』へとどんどん近づいていく。その過程で、人として何か大切な物を失うんじゃないかという不安。何も知らない『妻』に対して今から行う事への罪悪感。そしてやっぱりちょっと気持ち悪いという感情からか、自然と俺の目は閉じられていた。
そして俺の唇は──。
カプッ
「ぎゃひぃっ!?」
鼻を軽く噛まれてしまい、思わず椅子から転げ落ちてしまった。
『妻』はというと、物凄いスピードで部屋の隅まで逃げていき、まるで無理やり男に乱暴されそうになった女のように小さくなっている。
「じょ、冗談だよ、そんな目で見るな! ほれ、寝るぞっ!」
明かりを消して布団へ横になる。『妻』は枕元へは来ず、「今晩はここで寝ます」とばかりにペット小屋へ入っていく。
俺は部屋に漂うとてつもなく微妙な空気の中で、噛まれたけど毒とか無いよね、と不安がりながらその目を閉じるのだった。
その晩、さっき見たCGのボインボイン蛇女に追いかけ回される夢を見た。
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