蛇を妻にした人間の男の話
木林藤二
蛇を妻にした人間の男の話
プロローグ
──ドドンッ! ドンッ! ドドドドドドドッ!!
TVから出てくる花火の轟音と光、だが迫力は今ひとつ感じられない。その理由に生中継かどうかは関係なく、やはりTVから流れる音声と映像だからなのだろう。
アパートの自室、ちゃぶ台のある部屋で俺はビールを飲みながらそれを何気なしに眺めていたが、ピールの缶が空になると電源をきった。
花火なんてもう何年もまともに見ていない。最後に誰かと見に行ったのは一体何時の頃だったか。別に花火が嫌いなわけではないし、トラウマがあるわけではない。ただこの歳になると色々とおっくうになり足が遠のいていたのだ。
そもそもああいうのは一人で見るものじゃない、誰かと見に行くから綺麗だと思うし、楽しいと思えるものなのだ。
「……寝るか」
独り言のようにそう呟くとちゃぶ台の上を片付け始める。折りたたもうとした時、上に乗っていた物がスルスルと動き、台の下へと勝手に降りた。あぁ忘れていた、こいつが居たのだ。
それは蛇だった。まごうことなく、一見は只の蛇。
世間的に存在する蛇との違いは、こいつは少々賢くて『俺の妻』だということだ。
押し入れから布団を引っ張り出し床の上に敷くと、俺は電気を消して横になった。するとそれまで部屋の隅に居たであろう『妻』は、枕元へと這い寄ってきてとぐろを巻く。流石に布団の中に入ってきたりはしない。第一そんな事されたら俺が気持ち悪くて敵わない。だって蛇だし。
俺は特に気にすること無く布団へ寝そべり、スマホを取り出し時事ネタを眺める。明日会社で仲間内と楽しむ話題を見つけるためだ。もしかすると健康に悪いことなのかもしれないが、寝る前にスマホをイジるとよく寝付けるのだ。
「……」
液晶の明かりが周囲を照らし、同時に『妻』の姿が目に入ってきてしまった。『妻』はとぐろを巻いて首をもたげ、こちらを見ながら舌をチロチロと出している。
(なんだよ……。気になるじゃないか、やめろ)
無視して再びスマホの画面へと視線を移すも、やはり気になって仕方がない。一体なんだっていうんだ? 蛇がスマホなんかに興味持つな。
俺はさっき「寝るか」と言ったんだ、だからお前は大人しく寝ろ! 寝付けないなら天井裏にでも行って
(なんだってんだよ、ったく……。あ、まてよ?)
イライラしながら妻を睨む俺は、ふと思った。
もしかするとこいつ、俺が寝付くのを待ってるのか?
俺はたしかにさっき「寝るか」と言った。それが何時になっても寝ないものだから気になって起きているというのはどうだ?
そのことについて「妻」は何も喋らないし答えない。ただこちらを見て首をもたげているだけだ。だがその目は確かに何かを訴えかけている。
寝ると言うから寝ようとしているのにどうして寝ないのか? 大体これから寝ようとしている者の横でスマホをイジり出すというのは
……本当にこいつがこう考えているかどうかはわからないが、それとなく俺は気付いてしまった。そして、夫婦といえど協調性が大切だとも考える俺。端から見れば馬鹿馬鹿しい話だし、俺自身も馬鹿馬鹿しいと思う。だが筋は通っている。
「わかったよ、寝る」
スマホに充電器を差し込むと今度こそ横になって目を閉じた。それを見た『妻』も首を寝かせて目を瞑ったようである。
どうしてこんな事になってしまったのか。それは
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