40話 怒れるユウ

ミーシェside

目の前に現れ、レヴィアタンの剣から私を守ってくれたのは私がこの手で殺したはずのユウだった。

「ど…どう…して…私…あなたを…」

「大丈夫か?ミーシェ。」

「なん…で?私はユウを…」

「おいおい、俺がお前にもらったスキルをお前が忘れてんのかよ?」

「え?スキル?」

「俺は復讐を終えるまで死ねないんでね…」

復讐の憎花のスキルの効果だ。

「なんで?」

「ん?」

「なんで…来たの?私はあなたを…」

「やったのはお前じゃないだろ?それに俺はこうして生きてる。」

「でも!」

「いいから…休んでろ。」

「ユウ…」

緊張が解けた私はそのまま意識を手放した。



ユウside

俺は気を失ったミーシェを抱き抱え、柱に寝かせた。

「あなたは殺したと彼女が言っていたはずですが…なぜ生きているのかは聞きません。どうせわたくしが息の根を止めるのですから。」

「…」

「無反応ですか…まあいいです。おやりなさい。」

レヴィアタンの後ろから現れた兵士が一斉にユウに襲いかかった。

瞬間ユウは兵士たちをひと睨みする。

すると兵士はその足を止めた。

「どうしたのです?行きなさい。」

兵士は皆その場に倒れ込んだ。見ると皆死んでいた。

「し、死んでる…なぜ…何をしたのですか!」

「…何って?ただ睨んだだけだが?」

「そんな…そんな嘘が通じると思っているのですか!」

実際嘘は言っていない。暗殺術の殺気を最大限に放っただけだ。

「まさか…そんな馬鹿なことが…」

「うるせえよ…俺のミーシェにあんなことをしたんだ…」

ここで俺は殺気を強める。

「そんな…これは…」

「…ただで死ねると思うなよ?」

「ば、馬鹿な…殺気だけで?わたくしの兵士が…」

「エンチャント ブラックホール。」

「く、来るな…」

側近の兵士3人が前に出た。

「レヴィアタン様には近づけさせん!」

「…邪魔だ。」

ナイフを横に薙ぎ払うと3人の兵士の首は跡形もなく消えていた。

「そ、そんな…」

するとレヴィアタンはさらに兵士を呼び出した。

「殺すのです!私を守りなさい!」

狭い部屋に500もの兵士を呼び出したのだ。

「馬鹿が…無駄だ。ファイアストーム。」

風属性魔法と火属性魔法の合成魔法でこの部屋ごと兵士を吹き飛ばした。

「く、来るなぁ!早くあのものを…殺せ!」

ついには万を超える兵士が雪崩の如く襲いかかってきた。

ユウはミーシェを抱き、その場から避難する。

「おいおい…血迷ったか?こんなことしたら里が滅びるぞ?」

そのまま高く飛び上がった俺は水属性魔法最上級魔法を放った。

「ニブルヘイム。」

城を覆い尽くすほどの氷が兵士を一人残らず凍りつかせた。

「ば、馬鹿なぁ!この…7大魔王である…この…わたくしがぁ!」

「お前は俺を本気で怒らせた。お前に残されたのは死だけだ。」

「く、くそぉぉ!」

エルフの里のシンボルの綺麗な城から一転大きな氷の城へと変わった。

「ふう…」

俺はミーシェを抱えたまま、氷の上に降りた。

そのままミーシェを寝かせ、起きるのを待つことにした。

しかしあれだけの傷を心に負ったのだ。果たして立ち直ることができるだろうか?そんなことを思いながらミーシェが起きるのを待っていた。



ミーシェside

私は今暗い空間の中で、もう1人の私と向き合っていた。

「まさかあいつが生きているとはなぁ?」

よかった…本当に…

「でもお前はあいつを殺そうとしたんだぞ?そう簡単に許してくれるとは思えないけどなぁ?」

違う!ユウを刺したのはあなたでしょ?!

「言ったろ?私はお前が生み出したものなんだよ…つまりは私はお前自身だ。つまりお前の意思で、ユウを刺したのさ。」

そんなの違う!私は…私は…

「今更お前が戻ったってどうせ誰からも必要とされてないんだ…あとのことは私に任せておきなよ…」

やめて!私は…私は…

「うっせえんだよ!すっこんでろ。」

いや…ダ…メ。逃げて…ユウ。



ユウside

突然ミーシェの体が雷で包まれた。

「ミーシェ?」

「あ…ああ…逃げて…ユウ!…うるせえ!すっこんでろっつってんだろ!…ダメ!」

「…なるほど。ミーシェの中にいたのはお前か。」

「うるせえ!何とか生きてたみたいだけど無駄だ。またお前を殺してやるよ!…ダメ!逃げて!ユウ!…だから…引っ込んでろっつってんだろがあ!」

「ミーシェ!」

「はぁ…はぁ…手間取らせやがって…」

髪が白く染まり、瞳が真っ赤に染まったミーシェが俺を見つめていた。

「ミーシェ…」

「がぁ!てめぇ…渋てえんだよ…」

目の色は赤になったり、黒になったりを繰り返していた。

「ユウ!お願い!逃げて…」

「うるせえ!引っ込んでろ!」

「く!…はぁ…はぁ…お願い…ユウ。」

「黙れ!あとは私に任せろっつってんだろ!」

「誰が…あなたなんかに…」

「クソが!」

「ミーシェの中から出てけ。」

「ああ?!」

「お前はミーシェを守ってくれてたんだろ?壊れないように。」

「何を…言ってやがる…」

「もう大丈夫だ。ミーシェはそんなに弱くない。」

「うるせええ!死ねぇ!」

もう1人のミーシェは剣を取り出し俺を切りつけた。俺はその剣をあえて受ける。

「ぐっ!がはっあ!」

「ユウ!」

「はぁ…はぁ…何故だ?なんで避けねえ!お前の実力なら避けることも、止めることも反撃して殺すこともできるだろうがぁ!」

「お前も…ミーシェ…だからな…」

「何を…」

「二重人格なんかじゃない。どっちも同じミーシェなんだ。聞こえてるだろ?ミーシェ。そんな自分を作ってまで…壊したくなかったんだろ?自分を。立派な事じゃないか。でも俺の前では無理しなくていいんだ。」

白髪のミーシェは涙を流した。

「お前の本音を聞かせてくれ。」

「わ…私は…もう、もう誰も…殺したくない…」

「大丈夫。もうお前に仇なすものはいなくなった。」

俺はミーシェを優しく抱きしめた。

ミーシェの姿は前の姿に戻った。


「…ユウ…」

「大丈夫か?ミーシェ。」

「やっぱりダメ。私はユウにはついていけない。」

「!…なんでそうなるんだよ!」

「私は誰からも必要とされてないんだよ?パパもママも。みんな私が邪魔だったんだ…」

「俺はそんなこと…思ってない。」

「…もう嫌だ…騙されて…悲しい目にあうのは…私は…ねえユウ?そう思ってるんだったら…私を殺して?」

「何を…」

「お願いだから!」

ミーシェはたくさんの涙を流して泣いている。

「ユウ…私は…もうどうしたらいいか…わかんない…生きてる価値なんて…何も無い…お姉ちゃんもきっと私なんかいらないんだ。」

そんなことをサラが思っているはずもない。だがそんなことを思ってしまうほどミーシェは大きなショックを受けたのだ。

「…ユウだってそうでしょ?私なんて…復讐の邪魔になるだけなんだ…だから私を…殺してよ!」

「ミーシェ…」

「お願い!私は…もう嫌だ…!疲れた!こんな…生きる意味の無い私なんて…誰も…助けてくれない…死にたい…私は…死にたいんだよ…ユウ。もう…嫌だ…。」

「ミーシェ…。」

「殺して?私は…もう生きていたくない。みんなに見捨てられた私は…生きていたって…なんの意味もない…。」

ミーシェは絶望し切った顔で涙を流している。

「お願…い…もう…殺し…!」

優はその口を自分の口で強引に塞いだ。

「!…ん、んん〜!」

ミーシェの唇を優の唇が覆う。

「ん!…ん…」

ミーシェは静かに目を閉じ、涙を流した。

俺は口を放す。

「ユウ…なんで?」

俺はその口をもう一度塞いだ。

「俺には…お前が必要だ。」

「…」

「ほかの誰がお前をいらないと言おうが関係ない。たとえお前自身が…自分の生きる意味を失っても。」

「でも…私は…ユウを…」

「ミーシェ。俺は…お前が好きだ。」

「!」

「だから…これからは俺のために生きてくれ。ほかの誰がなんと言おうと俺は…お前を見捨てたりはしない。この気持ちはずっと前からあった気持ちだ。ミーシェが俺に刃を向けようと関係ない。俺は…お前が必要なんだ。…俺が…絶対お前を助ける。」

「…ううっ…うう…ユウ!ユウ!」

「お前が泣きたくなったら胸を貸してやる。寝る時も俺を抱き枕にしたっていい。だから今まで通りお前は俺に飯を作って…俺の隣で…ずっと笑っててくれよ。俺がお前の…居場所になってやる。」

「…ううっ…ユウ!…ユウ!」

俺はミーシェを優しく抱きしめ頭に手を置き撫でた。

ミーシェはそのあとも泣き続け、泣き疲れて寝てしまった。

子供かよ…

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