34話 取り引き

勇者side

「皆、一旦引くぞ!」

目の前に現れた10体近い巨人に俺たちはなすすべもなく、フードの男とミーシェを諦めて、逃げることにした。

「天城くん、橘くんを連れてこないと!」

「分かってる。江ノ島さんと松山さんは先に逃げて!」

「でも!」

「…わかったわ。橘くんのこと、頼むわね。…行きましょう!」

「…うん。天城くん、また後で。」

「ああ…」

「おうおう、熱いねぇ〜。」

「お前らは黙ってろ!見逃してやるんだからとっとと消えろ。」

「…そうだなぁ、見逃してくれた礼にひとつ教えてやる。…あっちには逃げない方がいいかもなぁ。」

「何?…江ノ島さん!松山さん!危ない!」

その直後家が崩れた。

「きゃあ!」

「…菜々!」

5体の巨人がそこから現れた。

「そんな…江ノ島さん!松山さん!大丈夫か?!」

「私は大丈夫!…でも、由希ちゃんが私をかばって…由希ちゃん!目を覚まして!」

…くそ…何かないのか?小宮達に助けを求めるか?でもあっちも手一杯なはずだ…何か…

「あの男の子食べられちゃうよ?ユウ。」

「そうだな、天城。橘は放って置いていいのか?」

巨人のうち1人が橘を見つけたようだ。

「!…賢治!くそ!」

間一髪橘をこちらに引き寄せることが出来た。

「…わりぃ、天城…」

「大丈夫だ。絶対みんな助けてみせる。江ノ島さん!松山さんの様子は!」

「…気絶してるだけみたい!私が連れてく!」

「…任せた!…行くぞ!」

俺たちは迫り来る巨人の手をかわしながら足の隙間を逃げていく。

「…あなた達は逃げないの?」

江ノ島は攻撃をかわしながらも魔族の2人組に話しかけた。

「っ…心配してもらえるだなんて光栄だな…」

男は頬を抑えながら答えた。フードで、ハッキリと見えなかったが火傷の痕があった。

「…あなたの声…どこかで…」

「…俺のことより自分の心配をするんだな。」

「今だ!飛び込むぞ!」

「うん!」

隙をついて、2人は決死の覚悟で飛び込んだ。

視界から巨人が見えなくなった。

「やったぞ!」

「やった…」

その直後江ノ島は瓦礫に足を掛けてしまった。

「きゃ!」

「江ノ島さん!」

「…う…由希ちゃん…」

「…菜々。」

「目が覚めたの?!急いで私に捕まって。」

「…私を置いていきなさい。」

「何言って…」

「…急いで!このままじゃ2人とも死ぬ!」

「出来ないよ!…出来ない…」

「…菜々…お願いよ…」

「死ぬ時は…一緒だもん…」

「…菜々…ありがとう。」

「うん。…ごめんね…優くん…見つけ出せそうにないや…」

「江ノ島さん!松山さん!」

死を覚悟した2人は目を瞑った。

「…やれやれ、見てられないな。」

巨人の攻撃は来なかった。

「!…どうなって…」

「急いでよけた方がいいぞ?…そこに倒れてくるから。」

「由希ちゃん!」

「…ええ。」

2人はその場を離れた。

ズーン…

巨人はその場に倒れてしまった。

フードの男はその手に大きな心臓を持っていた。

「うへぇ…気持ち悪!」

そこから先は蹂躙だった。



ユウ&ミーシェside

「…ユウ?なんで助けたの?」

「…あいつらは俺が殺す。勝手に死なれちゃ困るからな。」

「ふーん。江ノ島さんって子をかばいたかったからじゃなくて?」

「…ちげぇよ。」

「ふーん。」

「…さてと。おい勇者共。後ろから3体来てるから精々気をつけろ。」

「くっ!江ノ島さん。」

「うん。」

助かったとは言え状況は絶望的である。

「…おい勇者共。俺と取引しないか?」

「取引だと…?」

「なーに心配するな。ちゃんと正当なものだ…」



勇者side

「…言ってみて。」

「由希ちゃん…」

「俺がこいつらみんな殺してやるよ。もちろん血の教団とかいうふざけた奴らもな。」

「そう、教団だ!ずっとずっと出てこなかったんだよね〜。教えてくれてありがとう、ユウ。…血の教団か〜。」

「…空気読めよお前…」

「…それで?私たちは何をすればいいの?」

「これから俺達がやる悪ーいこと全部見逃せ。」

「なっ!そんなこと出来るわけ…」

「…わかったわ。」

「松山さん!」

「由希ちゃん…何を…」

「…分かってるわ。でもあいつらは強い。助かるにはこれしか方法がないわ。」

「…くそ!…好きにしろ。」

「取引成立だな。精々巻き込まれないようにしてろよ?」

フードの男が手に魔力を込めた。

「由希ちゃん!」

4人は急いで隠れた。

「…ブラックホール。」

フードの男が生み出した黒い穴に次々と巨人が飲まれていった。

「す、すごい。」

「これなら…」

そのまま全ての巨人を飲み込んだ。

「さてと他にはどこにいるかな…」

「…こっちよ。」

「ほぉ…案内してくれるのか?」

「…いいから着いてきて。」

「はいはい。行くぞ、ミーシェ。」

「うん。」

松山が案内したところでは、小宮を含む5人の勇者が7体の巨人と戦っていた。

「…くそ…このままじゃまずいな…」

「小宮くん!避けて!」

「!」

小宮が避けた直後、闇の波動が通り過ぎた。

そのまま巨人を吹き飛ばした。

「松山。」

「…助っ人を連れてきたわ。」

「こいつらがか?」

「…不本意だけどな。」

ここでもまた男の蹂躙が始まった。




ユウ&ミーシェside

おお、懐かしいメンツだな。早く殺したくなる…

おっと、いかんいかん。今は目の前の敵に集中せにゃ。

「…ダークマター。」

さっきもうった闇の波動を残りの巨人にぶつける。

「…他は?」

「…広場で3体暴れてるわ。」

「行くぞ。」

「うん。」

「合成魔法、ブラックストーム。」

闇属性と風属性の合成魔法だ。その風で3体の巨人が宙に浮いた。

「大罪魔法…グラタナス·ヘル。」

大罪魔法で巨人を全て喰らい尽くした。

「…ふう。まずいなやっぱり。」

勇者が俺の元に駆け寄ってきた。

めんどくさい事になりそうだ。




勇者side

小宮が男に必死に問いかけた。

「お前!今のは大罪魔法だろ、なぜお前が使える?…まさか二つの宝玉を奪ったのはお前らか!?」

「…正解。ここのも貰うから黙って見てろよ?」

「なんだと…そんなこと出来るわけないだろ。」

「そういう取引だもんな?…松山。」

「!…なぜ名前を知ってる?」

「みんな知ってるさ。あ、みんなは嘘。」

「どっちなんだ…」

「知ってるやつは知ってるさ。確か…小宮だよな。」

「…神崎達を殺したのはお前らか…?」

「殺した?そんなもったいないことするかよ…」

「なに?」

「喰ったんだよ…」

「き、貴様ぁ…」

「落ち着けよ天城。俺だって仕方なかったんだ。あいつらが宝玉を持ってこうとするから…それにあいつらは生きてる。」

「なんだと!?そんなでたらめが…」

「本当さ。言ったよな?喰ったって。暴食の力は喰ったもののスキルが貰えるんだ。役に立ってるぜ、空間魔法。お前らへの贈り物も空間魔法で届けたんだ。気に入ってくれたか?」

「贈り物?」

「届かなかったか?…な、ま、く、びw」

「!…貴様ァ!」

天城がキレる。

「いいのか?まだ10体位いるんだろ?俺を殺したらこの国は滅びるぞ?…最もお前に殺される気はしないがな。」

「…落ち着いて天城くん。」

「さてと、まだ仕事の途中だったな。行くぞ、ミーシェ。」

そのまま2人は去っていった。

「くそ!」

「由希ちゃん?どうかした?」

「…何も無いわ。」

(あの声…やっぱり彼は…)

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