28話 過ぎ去りし少女の記憶

サラと話した翌日、勝利の達成感もあってか起きたのは昼過ぎだった。

「ユウ〜、起きてよ〜。」

「…うん…」

「もうっ。」

「…悪い悪い、おはよ。」

「ん、おはよ。もう、昼過ぎだよ?」

「…まじか。寝すぎたな。すぐに出発しよう。」

「うん。朝はサンドウィッチ作ったの。歩きながら食べよ。」

「ああ、ありがとう。楽しみだ。」

「へへへ…」

「じゃあ行くか。」

「うん。」

ユウとミーシェはミーシェの作ったサンドウィッチをほおばりながらアーメルに向けて歩き始めた。

「…なぁミーシェ、アーメルを少し東に進むとエルフ族の里があるらしいんだがお前の故郷もそこだよな?」

「え?…うん。」

「…行ってみないか?」

「…行くならユウ一人で行って。私はアーメルで待ってるから。」

「なんでだ?帰りたくないのか?」

「…」

「なんかあったのか?」

「…」

「…話したくないか?」

「…」

「…実は昨日…お前の姉さん、サラに会った。」

「!…どういう事?!お姉ちゃんがいたの?なんで?」

「ああ、宝玉を壊すと一時的に出てこれるらしい。ロキア帝国の時も会った。」

「どうして?どうして言ってくれなかったの?」

「お前の姉さんの希望だ。ミーシェには言うなって。」

「…ならどうして今になって言ったの?」

「お前の過去のことを聞くなら正直に話した方が早いからな。」

「…別に過去のことを聞いたところで復讐が楽になるわけじゃないし知ったらユウはきっと私から離れてく。それでも聞きたいの?」

「…ああ。」

「わかった。話してあげる。…私の種族はダークエルフになってるけど元々ダークエルフなんて言う種族はなかったの。称号には最後のダークエルフなんて書いてあるけどダークエルフは私一人だけ。」

「お前の姉さんもか?」

「…うん。お姉ちゃんもパパもママもそう。ダークエルフではなくハイエルフ。私が普段結界魔法で耳を隠しているのはダークエルフはこの世界で忌み嫌われてるからなの。その理由を作ったのが私なの。」

「ミーシェが?」

「うん。私が生まれた時エルフ族の間では問題になったの。ほかのエルフとは違って髪の毛が真っ黒だったんだもん。今までに例のない事だった。私たち家族をダークエルフと言って周りの人は私を恐れた。きっとなんかの呪いだ、って言って。でもお姉ちゃんとパパとママは受け入れてくれた。優しく愛してくれた。…でもほかのエルフ族からはお姉ちゃん達も嫌われ始めたの。そりゃそうだよね。呪いを持った子を匿ってるんだもん。お姉ちゃん達も周りから嫌がらせを受け始めた。食べ物なんて売ってくれなかった。

私のせいでパパやママに迷惑をかけてるのが悔しくて毎晩のように泣いた。お姉ちゃん達に心配をかけないように隠れて泣いてわ。

でも家族での暮らしはとても楽しかった。でもとうとうしびれを切らしたほかのエルフ族がパパやママ、お姉ちゃんもダークエルフだと言って家に押しかけてきたの。私たちを殺すために。パパとママはとても強かったから心配するなって言ってお姉ちゃんと私を逃がしてくれたわ。私もパパとママなら大丈夫だと思った。

でもあいつらは人間と手を組んでたの。逃げようと思った瞬間目の前でパパとママは殺された。今でもその時の事はハッキリと覚えてる。でも私たちは必死で逃げた。見つからないように。戦いが終わったあとこっそり里に戻ってきたわ。そしたらあいつら何してたと思う?パパとママの死体の首を切って見せもののように飾っていたの。切った胴体は笑いながら蹴飛ばされてた。それを見た時私の中で何かが切れた。お姉ちゃんが止めたけど強引に振りほどいた。その後のことは覚えてないわ。気づいたらみんな死んでた。」

「ミーシェが…やったのか。」

「うん。覚えてないけどね。それからは色々大変だったわ。見てた人間が噂を広めて…私たちはもう里にはいられなくなった。生き残ったエルフ族達は私のことを血眼で探しているわ。仇だもんね。そうしてからお姉ちゃんは私を守るためにさらに力を付けた。魔神の称号を与えられるくらいにね。でもお姉ちゃんはただのハイエルフなのにダークエルフだと思われてる。私を守るために人間に共存を唱えても無駄だった。だからあの魔王達と手を組んだ。でも…裏切られた。お姉ちゃんの復讐のために魔王に勝負を挑んだ。それで…私は殺された。死に際に魔王は笑いながら私にこういったわ。お前がいなければ姉もあんなことにならずに済んだのになって。お前なんて生まれてこなければ良かったのにって。私といると不幸なことばかり起きる。でも私はお姉ちゃんを助けるのに必死だったから、ユウには言わなかったの。」

「…そうか。」

「そうよ。」

長く話していたのでもう日は沈みかけていた。

「…野宿にしようか。」

「…」

「今日は俺が飯作ってやるよ。」

「…いい。私の仕事だもん。」

「そうか…じゃあ頼む。」

その後の食事は終始無言で終わった。

「じゃあおやすみ、ユウ。」

「…一ついいかミーシェ。」

「…なに?」

「俺はお前から離れて行ったりしない。」

「!…どうして?」

「お前といると楽しいしな。正直不幸になる気がしない。」

「なんで!私はダークエルフなのよ!私といるだけであなたもきらわれる!」

「なんでって…たかが黒髪なだけだろ?俺も黒だし。親近感わくぞ?逆に。」

「でも!でも…私といると…不幸な目にあう。」

「それは心配するな!運がおかしなくらい高いからな!俺は。」

「ユウ…」

「それについてくるって言ったのはお前だろ?今更何言ってんだ?そんな話聞いたくらいで俺はお前から離れねぇよ。」

「あ…あり…がとう。」

「…おいおい…本当に涙脆いな、お前は。」

「うっうっ…だって…」

俺は両手を広げてミーシェを迎える準備をする。

「ユウ!」

「ハハッ、こいっ!」

「うわぁーん!ありがとぉー!うう…」

「おお…よしよし。」

それから何分たっただろうか?覚えていない。ミーシェは泣き続けた。



「大丈夫か?」

「ぐずっ…うん…ありがとう。」

「…俺はお前から絶対離れたりしない。だから…ついてきてくれるか?一緒に。」

「…うん!…大好き!」

「え?」

そういった瞬間、頬に柔らかい感触を覚えた。

「な!ちょ!ええ?!」

「ふふーん。…寝よ?」

「あ、えと、えと…」

「慌てすぎ!…二度目なのに。」

「あ、ああ。えと、今のは?」

「…今のはお礼!」

「そ、そうか…」

「ユウは…私についてきて欲しい?」

「当たり前だろ?」

「なんで?」

「なんでってそりゃあ…飯がうまいから?」

「えー…何それぇ?…それだけ?」

「う、うるさい!とっとと寝るぞ!」

「ふふ、うん。おやすみ。」

少し苦しくも、安心するミーシェの抱擁を受けながら俺は、心地よい眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る